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ベトナムの民主化 軟着陸へ日本も関与を

中野 亜里(なかの・あり)=大東文化大教授(現代ベトナム政治)

2012年8月25日

 ベトナムは南シナ海群島の領有権を中国と争い、都市部では市民による自発的な反中国デモが繰り返されている。人々は国旗を掲げ、愛国心を強調して中国批判のスローガンを叫んでいるが、その抗議は実は自国の共産党体制にも向けられている。

 党官僚による汚職の蔓延(まんえん)、開発のための強制的な土地収用、体制を批判する者の逮捕・投獄など、強権措置への不満が政府の対中国弱腰外交への批判という形で噴出している。デモの参加者らは、国家を裏切っているのは誰か、本当の愛国心とは何か、という問いを自国の指導部に突きつけている。

 南シナ海問題と並んでベトナム市民の異議申し立てを活性化させたのは、日本ではあまり報道されていないが、中部高原における中国企業による大規模なボーキサイト開発だ。中越両国の共産党指導部の間で決められ、国家的大事業であるにもかかわらずベトナム国会で審議されずに工事が始まった。

 戦争の英雄であるボー・グエン・ザップ将軍ら革命功労者らが、中国の影響力拡大を警戒して、まず批判の声を上げた。だが注目すべきは、党内のみならず、地域や世代を超えた市民に反対運動が広がったことだ。

 知識人らは「ボーキサイト・ベトナム」というサイトを開き、情報や意見を発信。反対の署名運動も行われ、2010年にハンガリーのアルミニウム精錬工場で事故が起きると、2800人以上が中部高原での開発計画の見直しを求め、実名と居住地、職業を明記して署名を寄せた。数は多くないが、言論で政府を批判しただけで、「反国家宣伝罪」で投獄される可能性があるベトナムでは、画期的な出来事だ。

 このサイトは次第に、政治、経済、社会などあらゆる問題について自由な意見を表明する言論空間に発展した。投稿者の視点も反中ナショナリズムを超え、環境や人権といった普遍的な問題意識に広がりつつある。ベトナムの公認メディアが報道しない日本の原発事故の状況も報じられている。

 こうした動きに対し党・国家側は、指導者の逮捕、刑法の規定を利用した投獄、不法な家宅捜索、サイバー攻撃などで圧力をかける。しかしベトナムでは、今や自発的デモも署名運動も珍しくはない。ミャンマーが曲がりなりにも民主化に向かった後、ベトナムの民主化、人権問題が注目を集めるようになるのではないか。日本はこの国が民主主義に軟着陸するよう、法の順守、情報公開、汚職の一掃などを促す積極的な関与政策をとるべきだろう。