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尖閣問題 馬総統の呼びかけに注目

小笠原 欣幸(おがさわら・よしゆき)=東京外国語大准教授(台湾政治)

2012年9月29日

 台湾の漁船団や巡視船が尖閣諸島周辺の領海に侵入し、日中の対立に台湾が加わった形となった。しかし台湾は民主と自由という価値を日本と共有し、民間交流も幅広い。実は、台湾は「領土」で日本と決定的対立を望まず、日中の衝突を憂慮しているのだ。

 中国で大規模な反日デモがあった頃、私は台北で研究者仲間と政権高官らに面会した。馬英九政権が領土問題で中国と連携する意思がないことを改めて確認したが、日本が台湾を無視しているという不満を強く感じた。

 馬総統は8月5日と9月7日、「東シナ海平和イニシアチブ」で「主権は分割できないが天然資源は共有できる」「争いを棚上げし平和的方法で解決しよう」と呼びかけた。1月に再選された総統は国内政策でつまずき、支持率が低迷。尖閣問題への対応を巡り「弱腰」批判にさらされている。強硬策に走ってもおかしくない局面で「平和」を提案したことは評価できる。

 馬総統は「イニシアチブ」の一環として、漁業、鉱業、環境保護、海上安全など、対話のテーマを示した「推進綱領」も発表。すぐに日中台3者の対話とはいかないので、日台・中台・日中の3辺を先行させるとしている。

 台湾側の本音は、尖閣支配ではなく漁業で実利を確保することだ。日本政府は柔軟性を発揮し、出先機関の交流協会を通じて、馬政権や漁業関係者との連絡を密にすべきだ。

 馬政権は、尖閣国有化に抗議するため沈斯淳・駐日代表(大使に相当)を召還した。沈代表は早く帰任し、日本各界に馬提案を説いて回ってほしい。

 台湾の現状が維持されている限り、中国が尖閣諸島で武力行使に踏み切る可能性はほとんどない。台湾の目と鼻の先の尖閣で軍事行動をとれば、「次は台湾だ」という警戒感が高まり、胡錦濤政権が「両岸関係の平和的発展」という名で進めてきた「台湾人の心をつかむ」路線が一挙に吹き飛ぶ。中国指導部は、尖閣諸島での本格的な軍事行動を起こすとするなら、台湾統一、ないしは台湾との軍事協力が可能になった後、と考えているだろう。

 馬総統は、中国との間で双方が自前の解釈が可能な「92年コンセンサス」という概念を使って主権問題を棚上げし、関係を改善したという自負がある。今回の馬提案も、玉虫色の概念で局面を安定化させる狙いがある。

 日本政府は、馬総統のボールをしっかり受け止めたらよい。中国側は、拒否すれば馬総統の顔に泥を塗ることになるので、慎重に検討するであろう。