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未来志向の日韓関係とは… 台頭する中国と、東アジアの未来考える
早稲田大学韓国学研究所開設記念シンポジウム

2013年12月27日

 早稲田大学に 韓国学研究所 が開設されたことを記念し、シンポジウム「東アジアの変動と日韓関係の未来」が、2013年12月16日、同大で開かれた。両国の研究者やジャーナリスト、作家らが、冷却化した日韓関係の現状を分析し、打開策について意見を交わした。(朝日新聞記者・崔チェス)

李鍾元・所長

 冒頭、所長に就任した李鍾元(リー・ジョンウォン)・国際学術院教授が「東アジアは歴史的分岐点にさしかかっており、日韓関係は、その帰趨(きすう)を決める重要な柱だ」とあいさつした。
 1993年に官房長官として「従軍慰安婦」をめぐる談話を発表した河野洋平・元衆議院議長は、「日韓の間には、克服しなければならない問題があるが、感情的な、声高な議論だけが通用するのではなく、真摯(しんし)な議論によって克服していく必要がある」と祝辞を述べた。李丙琪(イ・ビョンギ)駐日韓国大使は両国のパートナーシップの大切さを強調したうえで、過去の歴史に対する配慮が重要だと指摘。河野談話と1995年の村山談話に触れて、「日本政府が難しい決断を下したもので、隣国と世界に向けた約束だ。両国の外交の出発点は、信頼と誠意を築き続けることだ」と話した。

 パネル討論では「東アジアを創る日韓関係」と題して、議論が進んだ。  元韓国文化財庁長官で明知大の兪弘濬(ユ・ホンジュン)教授は、文化歴史遺産に関するロングセラーで知られ、美術評論家としても活躍している。日韓がそれぞれ抱く歴史に対するコンプレックスについて言及し「日本は(朝鮮半島から技術が伝えられた)古代史へのコンプレックスから歴史をねじ曲げ、韓国は近代史へのコンプレックスから日本文化を無視している。歴史的に双生児のようなルーツがありながら、敵対感情を深めてきた」と述べた。そのうえで、「日本がリーダーになろうとするならば、徳を備えないといけない。軍事力や経済力ではなく、文化的なきずなを持たないといけない」と指摘した。

 五百旗頭真・熊本県立大理事長は、防衛大学校長としての経験も踏まえ、韓国軍との交流を紹介。「(2012年8月の)李明博大統領の竹島上陸という政治の暴虐によって、両国の文化交流がたたきつぶされた。政治は感情で揺れやすいが、軍事は冷静だ」と力説した。

 昨今の日本における嫌韓の風潮も話題となった。コリアンタウンで繰り返されるヘイトスピーチについて、反人種差別運動に取り組んでいる作家で法政大教授の中沢けい氏は「民主主義の基本の価値を侵す暴力は規制する必要があるのでは」と語った。韓国の悪口をかき立てる週刊誌や夕刊紙について、元朝日新聞主筆の若宮啓文・日本国際交流センター・シニアフェローは「あまりにひどい」と指摘した。

 台頭する中国について、中国研究者の毛里和子・早稲田大名誉教授は「150年の近代史の中で、中国が受けた不合理を解消したい、リベンジを果たしたいという考えが強烈だ。日中の対立は構造的なものだ」と発言した。さらに、「日中関係は、(過去の)日韓関係を模範とすべきだ。金大中大統領と小渕恵三首相が1998年に合意した日韓パートナーシップ宣言で、韓国は日本の戦後を評価し、日本は韓国の民主化を評価した」と話し、日韓関係を新たな視点で評価した。

 早稲田大学韓国学研究所は、日本における韓国学研究の振興、教材の開発、韓国学研究の発信方法の開拓などを研究テーマに開設された。(1) 一国単位の地域研究を越え、東アジアの視点に基づいた広域研究 (2) 多様な分野の共同作業による、学際的、総合的な研究や教育 (3) 学術研究、教育、政策研究の連携による幅広い視野を持つ人材の育成を目指している。

◆「欧州の教訓をかみしめよ」 寺島実郎・日本総合研究所理事長 基調講演 ◆

寺島実郎さん

 江戸時代の朝鮮通信使の歴史を読み込むと、日本と朝鮮半島との関係は非常に良かった。だが、近代に入ると、日本国内で征韓論が生まれた。

 きっかけは何だったのか、歴史認識のねじれはどこから生まれたのか。そこには、不幸なすれ違いがあった。韓国の側にすれば、交流してきた徳川幕府がつぶれて新しい明治政府となり、困惑した。それを新政府が不快に思い、外交のいざこざが重なり、誤解が増幅した。

 日本近代史は二重構造になっている。近代化は、植民地にされてしまうという恐怖心とおびえの中で迎えた。日本は、同じ状況にあるアジアの国々と手を取り合う「親亜」を貫くべきだった。だが、列強の後を追いかけ、「遅れてきた植民地帝国」となり、アジアへのおごりが生まれた。「脱亜」は「侵亜」へと転換した。

 敗戦後、突然民主主義がやってきた。額に汗して勝ち取っていないので、民主主義のネガティブな側面が見えると、すぐに国家主義に傾いてしまう。

 未来志向のアジアを考える時に、欧州の教訓を、かみしめないといけない。

 欧州連合(EU)は、相互不信を前提に進化してきた。仏独は血で血を洗う戦いを繰り返してきたが、段階的に接近した。統合ドイツが強大化するなかで、フランスには、欧州という箱の内側で制御する目的が、本音としてある。ドイツも共通の家に収まることで安心感を高めている。

 欧州の指導者に会うと痛感するのが、大きな指導力と構想力の必要性だ。日本が置かれている状況も、欧州で知られている。

 東南アジア諸国連合(ASEAN)の国々とは仲良くやり、肝心かなめの中国、韓国とは踏み込めていない。(欧州から見れば)アジアは力を合わせようとすると(関係が)ガラガラと崩れ、お互いを罵倒し合い憔悴(しょうすい)していく……。だめだなと。

 植民地主義のポイントは、分断と統治だ。(支配者は)対立を調整する力を見せることで,影響力を高める。アメリカのアジア政策は、米国が日中の領土紛争に巻き込まれて中国と戦争をするというばかげたことを避けるというところにある。そして、日中韓それぞれにバランスよく配慮する。日本は、アメリカを通じて世界を見てきたために、(国際社会の)力学の変化が見えなくなっている。

 21世紀へのメッセージは、(アジアの国同士が)同じ次元で殴り合うのではなく、日本は一次元高く、北東アジアの新たな秩序について構想を語り、アジアをこういう風に持って行きたいというビジョンを提示することが求められている。

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 てらしま・じつろう 1947年生まれ。早稲田大大学院を修了後、三井物産に入社。現在は、多摩大学長も務めている。