朝日新聞アジアネットワーク

アジア人記者の目 AANで研修する客員研究員の記事 バックナンバー>>

日本語とローマ字

沈 小珍(シム・シャオチェン)/アジアネットワーク客員研究員
南洋商報(マレーシア)

2003年4月4日

 先日、ある新聞紙上で梅棹忠夫氏が日本語の将来を論じていた。日本語は耳で聞いただけではわからない言葉が多い。漢字に頼る同音異義語の問題だ。外国人が日本語の漢字を学び始めるとここにぶつかって挫折する人が多い。日本人さえきちんと読み書きできるまでに時間と努力が必要だ。「漢字をやめてローマ字を採用すべきである」と、梅棹氏は結論づけた。「日本語をやめ、英語にせよ、などといっているのではない」と念を押し、日本と日本文明の将来のために、表記法をより合理的なローマ字にするというのだ。

 私は日本語を母国マレーシアで学んだ。まず短期コースで、ローマ字表記の教科書を使った。ローマ字表記の発音は日本語本来の発音とずれがあったが、ローマ字は学習の手段としてはそれなりに役立った。しかし、その体験から、ローマ字表記への転換をそのまま受け入れことができない。

 ローマ字には訓令式・標準式・ヘボン式とあって統一されていない。さらに長音は四つの選択があって混乱しやすい。母国の新聞に日本語についてのコラムを書いている私にとって、ローマ字で長音を表すのが悩みで、混乱しやすい。横浜のJRと地下鉄の看板では長音表記も異なっている。日本語を学ぶ外国人としては、早くキチンとしてほしい所だ。

 中級コースに進んで漢字・ひらがな表記になった。私は中国系なので漢字は抵抗なく学んだ。非漢字圏(国)の学習者は書くことに困難があったが、初歩漢字300を理解するのは問題なかったようだ。

 漢字は外国人学習者にとって非常に難しいとよく言われているが、問題は漢字の読み方にある。(書き方は梅棹氏がいわれるようにパソコンで十分対応できる)。そこで常用漢字を見直して基礎的な1000字(教育漢字とは違う)と中級漢字500字に分けて小学校や日本語学校で指導する。常用の2000字は1500字に減らし、上級(政・経・文化)漢字項目として別に1000字を選定してはどうかと思う。

 マレーシア語はアルファベットを使っているが、これは昔、英国の統治者がマレー語の読み書きに困って表記を強制的に改変したためだと聞く。梅棹氏のローマ字表記論は日本人による日本語のローマ字化である。自国民の意志による日本語のローマ字化は、明治の改革にも比べられるほどの大変革だ。しかし、日本人と日本文化が大好きな外国人の一人として、日本語の将来は慎重に考えてほしいと願っている。

 ローマ字の採用は、日本語学習の初心者に有利だが、日本文字の「自分らしさ」がなくなって、同音異義語も区別できない。今使っている漢字をもっと簡単に書けば役立つと思う。

      ◇

 沈小珍(シム・ショチェン) AAN客員研究員(マレーシア)。マレーシアの有力華字紙・南洋商報の記者。03年2月から3カ月間、朝日新聞アジアネットワークで研修。「ルックイースト」政策が再検討されていることから、日本の将来像を取材・研究。