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日本よりハイピッチ 韓国の少子化

ベイ・グギン/アジアネットワーク客員研究員
(韓国・東亜日報経済部記者)

2003年7月30日

 ソウルの友人(35)は「ディンク族」を自認する一人だ。「ディンク族」は英語のDINK (Double Income, No Kids)で、子供を作らずにのんびり生きていくことを選んだ共働き夫婦を意味する。

 収入に余裕がなかったり仕事のため仕方なく出産をあきらめた夫婦とは違う。「ディンク族」は趣味活動など夫婦同士のやりがいに重きを置き、子供は面倒くさいと思っている。特にずっと一人っ子で育てられたせいか、多少自己中心的な2人は「子供なんか人生の幸せには関係ない」とも言う。映画マニアである友人は、ほかの夫婦が子育てに悩んでいる間、趣味三昧の生活を楽しんでいる。

 問題は社会全体に「ディンク族」が拡散しつつあることだ。少子化の根っこには、共働きをしながら子供を育てられるような職場環境、社会環境が整っていないことがある。こうした「ディンク族」の風潮がさらに広まったら、少子化社会に悩んでいる政府がどんな対策を立てても歯止めがかからないだろう。

 日本では少子化社会基本法が7月23日に参院本会議で可決、成立した。韓国でもいま少子化対策が緊急課題で、政府も新人口政策に取り組んでいる。少子化傾向は韓国の方がもっと厳しく、危機感もより深い。

 韓国の統計庁が7月に発表した統計によると、韓国の昨年の推定合計特殊出生率(可妊女性1人が出産する平均新生児数)は1.17人。現在の人口構造を維持できるぎりぎりの出生率(2.1人)はもちろん、1.32人の日本の出生率も割り込んでいる。

 さらに深刻な問題は出生率低下のスピードだ。70年に4.54人だった出生率が80年には2.83人、90年には1.59人に急落した。先進諸国が「高齢化社会」(65歳以上の人口が7%を上回る社会)から「高齢社会」(65歳以上の人口が14%を上回る社会)に移るのに掛かった期間は、約40年から115年であった。しかし、韓国では、2000年に「高齢化社会」(7.1%)になり、わずか19年後の2019年には「高齢社会」に移る見通しだ。これは、1970年に「高齢化社会」(7.1%)、1994年に「高齢社会」(14.1%)になった日本を上回るスピードだ。

 今まで動きの鈍かった韓国政府も今年から本格的な対策立案へ動いた。少子化がこれ以上進んだら国の生産力が低下し、年金など社会的な負担も増えすぎるからだ。

 地方はもっと鋭い危機感を抱いている。人口が減ると中央政府の支援も減るし、結局自治体の機構も役割も縮小せざるを得ない。代表的な農村地域で人口減少が著しい全羅南道をはじめ各地方は新生児の出産には、現金給付などいろいろなプレゼントを出している。光州市の北区では、今年から20歳から45歳までの主婦の中で「多産王」(女王とはいわない)を選んで旅行券などを与えている。

 とはいっても、韓国内の議論が一本化されているわけではない。北朝鮮では20代から30代の人口比率が高い事情をにらんで、「北の若い人口が生産現場に加わる統一後の事情を考えれば慌てることはない」という意見があるからだ。上昇基調にある女性の経済活動参加率と外国人労働者の活用策も危機感を薄めてきた。逆に、危機感が高まっても、若い世代がますます「ディンク族」化しては、手詰まりになることも否めない。

 遠くない将来、結局は日韓両国がもっともっと外国人労働者に依存せざるを得ない日が来るような予感がする。両国民の外国人、とりわけ後発のアジア人に対する差別意識が心配だが、少子高齢化に不安をつのらせる一方で外国人の労働力導入につよい懸念と不信を持っている板挟み状態のままでは、解決は遠ざかるばかりだろう。

 それゆえ、外国人、特にアジア人を隣人として迎え、心を開いていく、そうした一般市民の姿勢の変化こそが、少子化社会、高齢社会に適応してゆくための抜本的な対策ではないかと思う。

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 ベイ・グギン AAN客員研究員(韓国)。韓国・東亜日報の経済記者、21世紀平和研究所の研究員兼務。現在、朝日新聞アジアネットワークで研修中。日本経済の取材研究を通して日本とアジアの将来像を探る予定。