朝日新聞アジアネットワーク

アジア人記者の目 AANで研修する客員研究員の記事 バックナンバー>>

文明・市民の条件(2) 桜と金達莱

金 星光(ジン・シンガン)/延辺日報記者、前AAN客員研究員(中国)

2004年6月16日

 桜は日本を象徴する花である。春になると「桜前線」がだんだんと北へ上り、日本列島ほとんどの地域で観賞できる。東京都の場合は例年3月20日前後に咲き始め、4月1日前後が満開。その後10日ほど過ぎると花が雪花のように散る。

 満開のころ、「お花見」の人波があちこちで見られる。家族や友達、会社の同僚と出かける。満開の花をバックに写真を撮り、花の下に円座して食事と酒、春の抒情を満喫する。その抒情は花が散り終わるまで続くが、特に花吹雪が舞う木の下を散歩するのは、本当にすばらしい情趣である。桜祭りも開かれ、桜餅が人気だ。だから「日本に来たのに『お花見』を逃すとは本当にもったいない」といわれる。

 「明日使うムダ知識をあなたに」という興味深いTV番組で、桜に対する日本人の特別な愛情を学んだ。ひと抱えに余る桜の木から落ちた花びらを全部、数十名がかりで集めて数を数えたら、合計59万3345枚だったという。本当にムダな事みたいである。ところが、よくよく考えるとそうではない。桜に深い愛情、特別の思いがあるから、そんな行動ができるのだ。だからこそ、どこかにあるような、枝を切って自宅や店や事務室の花瓶に入れて観賞するといった無謀な行動が見られないのだ。

 こうして、日本人は桜の開花から散り終わる時まで、自然の摂理のままに楽しんでいる。象徴である桜はこうして咲き、散りながら、歳月のひだを形作る。これが日本の花文化の縮図であり、日本人の美意識の縮図だ。

     ◆

 桜を見ながら、延辺の象徴、金達莱を連想した。

 いつから始まったのか、春になると市場で金達莱の枝をひとつかみずつ売っている人を見かけるようになった。季節の訪れより先に金達莱を早く見たくて大勢の人が買い、自宅や会社の花瓶に入れた・・・ 枝から蕾がふくらみ、ある朝ようやく花が咲いた。「ああ!金達莱!」、「金達莱が咲いた!」それを見た人々が感嘆をした・・・

 そんなに好きな花、延辺朝鮮族自治州の象徴の金達莱は、結局花瓶から市民に春を知らせるだけの、みすぼらしい運命になってしまった。春が来ても花瓶から金達莱を見なければならない市民。満開の金達莱の森を見たければ山に行かなければならない。しかもそんな所を捜すのは本当に難しいのである。だから「山々金達莱、村々烈士碑」という有名な詩人賀敬之の俳句が思い出されるたびに、なにか恥ずかしい気持ちになる。

 桜が散ると、日本ではもう一つの花が人々の目を奪うようになる。花の名は日本語で「ツツジ」。朝鮮語では「金達莱」だ。日本のツツジの種類は数十種もある。花の色も大きさも多様だ。群馬県館林市の約11万平方メートルの県立ツツジが岡公園には約50種類にのぼる1万株のツツジが咲き乱れる。5月15日まで「ツツジ祭り」が開かれ、30万人もの人出があったという。

 延吉市には「金達莱広場」がある。広場には芝生もあるし、いろいろな木もある。しかし、広場の名前に当たる金達莱は何株あるのか、種類は幾つあるのだろうか。

     ◆

 暖かい春のある日、日本の、とある小学校6年生のクラスでの先生と生徒の会話。
―― ・・・桜の花は日本の国花だよ。
―― 先生、どうして桜は日本の花なんですか。
―― おう、いい質問だな。日本を代表する花だからさ。
―― どうして代表なんですか。
―― どうして、どうしてってすっこい(しつこい)ぞ。桜の花は、ぱっと咲いて、ぱっと散ってしまう。三日見ぬ間の桜って奴だ。それに、散るときが見事だ。日本人もそうありたいと思っている。潔しの心が桜にはあるな。人間死ぬときは清々しく、未練なく、悪びれずにあの世に行くっつうのが日本人の理想としているところだにゃ・・・

 以上は日本の雑誌「正論」(2004.5)に掲載された池部良(俳優)のエッセー「写生」の一部である。

 では、金達莱はどうだろうか。

 金達莱は素朴な美、強靭な意志、奮発する精神、団結する美徳、誠実な性格を持っていると評されて、延辺の風土文化の特徴的植物とされている。1987年に開かれた延辺朝鮮族自治州人民代表大会常務委員会第27次会議で、金達莱を自治州の花と命名したのは、「山々金達莱」と、金達莱特有の「内在的美」を考えてのことであった。金達莱の内在的美。延辺の市民もその内在的な美を楽しみ、その美を広く宣揚することができるのではないだろうか。

 「金達莱文化の育成」とその文化を通じた文化的、経済的イベントの創出。そして「内在的美」を手本として、もっと価値ある人生、真面目な人生をおくる道――桜と金達莱の花を思いながら、私の連想はふくらんでいった。