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文明・市民の条件(4) 信用なくして身を立てるのは難しい

金 星光(ジン・シンガン)/延辺日報記者、前AAN客員研究員(中国)

2004年6月30日

 日本人はたいがい、前もって約束を決める。電話、もしくは会った時に次に会う日時を話し合う。相手は内ポケットからスケジュール帳を取り出し、チェックしてから返事をしてくれる。そのスケジュール表には何日、何時、誰と会う事とか いつ、何処で行われるイベントに参席するという内容がメモされている。1、2ヶ月も後のスケジュールが埋まっている人もいるのかと思えば、なんとそれ以上先までも埋まっている人もいた。

 いったん約束が決まると、特別な事情がない限り、キャンセルすることはない。約束を破るのは重大なマナ−違反。みんな忙しいので、次回いつ全員揃って会えるかわからないからだ。相手も自分も、みんなが辛うじて余裕がある時間帯を探し出し、重要な話や用件を処理するために会う事を決めたのに、ちょっとやそこらの用事で約束がお流れになるのを一体誰が望むだろうか。だから約束をキャンセルするのは実に面目を失うことなのだ。

 朝日新聞アジアネットワークのFTA(自由貿易)研究チームの会議を傍聴した。チームには客員研究員として招かれた大学教授もいて、また他の部署からきた記者もいた。次回研究会の時間を決めるのが本当に大変だった。全員が全員空いている時間を探し出すのは至難の業である。みなその約束の大切さがよく分かっているだけに妥協が無かった。

 最近日本では企業の社会的責任(CSR)が市民の関心を集めている。企業の社会的責任とは、企業が社会の構成員として、株主だけではなく、消費者、従業員、地域住民など様々な利害関係がある人達と環境に対する責任を持って、法令を守り、社会的公正に期して、環境に配慮する経営活動のことである。

 今年の3月、日本消費者連盟、全国消費生活相談員協会、全国消費者団体連絡会、主婦連絡会などの4つの消費者団体が、企業経営における消費者重視度を明らかにしようと、共同アンケート調査を実施し始めた。「原資材に対して会社の独自の安全基準があるか」「夜間、休日、緊急時に消費者の相談窓口が設けられているか」などの質問で、上場食品企業154社を対象に行われた。100点満点のアンケートで、「消費者を重視した重要な対策として、どのようなものがあるか」という質問が50点を占めている。また調査対象を食料品分野の企業としたのは「食の安全は消費者の関心が高く身近な問題であるから」ということであった。

 またNPO法人シンクタンク「パブリック・リソース・センター」は、社会的な責任を立派に果たしている企業に対して社会的な責任投資を進めるために、2000年度から企業評価活動を行っている。(1)企業統治と説明責任 (2)マーケティング (3)雇用(4)社会貢献 (5)環境など5つの側面から企業の現況を調査、評価している。センターの岸本幸子事務局長は「社会的な責任投資とは、社会的な責任をきちんと果たそうと努力している企業に投資をし応援をすること。その投資を通して、市民として意見を表明できるようにしたい」と言っていた。

 日本の多くの企業家たちも経営理念において 信用の根になりうるものを相当重視している。

 「視点は個人に、力点は社会に置かなければならない。個性化、多様化の一路を歩んでいる個人の価値観に対して、どれほど密着したサービスを提供できるかが企業の生命線である」

 株式会社アイ・オー・データ計器の社長、細野昭雄さんの企業と信用に対する見方だ。

 このような動きが活発になった背景には企業の不祥事、それに伴いどんどん厳しくなっていく消費者の欲求があげられる。日本内閣府の国民生活審議会は、消費者の信頼を回復する具体的な活動が必要だとし、2002年12月、企業が自主行動基準をつくり、それに基づいて経営するよう促す方針を貫いた。企業は自主行動基準をつくり公表してこそ消費者が企業の経営姿勢を理解し評価することができるというわけだ。

 クラスターテクノロジー株式会社は「日々新しく、社会に貢献を」という前提で、(1)一時的な利益を追わず社会貢献から生まれる利益を追求する(2)社会を連結して企業をつくり、人心をつなげ人格を整え、新しい活力を育てる(3)利己的な心ではなく利他的な心で活動する、という経営理念を明らかにしている。

 株式会社ナナオは、「当社は人間主体のテクノロジーノも可能性を追求し、新しい価値を創造、提案をすることを目指し、映像とエンタ−テイメントを通じて顧客に感動を与え、健全な繁栄を目指す、地球共生企業であり続ける」と唱い、企業理念として地球温暖化防止、廃棄物消減、有害物質消減、省資源、省エネルギー、有害物管理、環境ラベリング等を目標とする「環境経営」を推進している。

 日本企業がこのように信用を重視しているのは、一旦信用を失なうと、社会において成功するのが難しいからだ。社会的責任を確実に果たしている企業は、消費者の信頼も深く、大きく成長するとも言える。

 去る4月21日、東京地方検察庁は、今年2月に発生した京都府丹波町の浅田農産船井農場の鶏インフルエンザ事件に関連し、社長である浅田容疑者と法人の浅田農産を家畜伝染病予防違反で起訴した。これに先立ち、会長である浅田肇(67)と夫人は、鶏インフルエンザが広く波紋を広げる中、同伴自殺の道を選んだ。

 かと思えば、経営難に苦しむ三菱自動車は最近、雪上加霜(泣き面に蜂)状態であり、欠陥車が大きな問題となっている。以前にタイヤが脱落して起こった死亡事故について強制捜査を受け、会社関係者7名が検察の取り調べを受けた。5月の国内新車販売売り上げ(軽自動車除外)は昨年同期比で56.3%減るなど、深刻な信用危機に直面している。