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名実とも得ることのなかった発言

張 瑞昌(チャン・ズイチャン)/中国時報記者、前AAN客員研究員(台湾)

2004年11月28日

 話しをすること自体が一種の芸術であるということでは大方の同意をえられるだろう。一国の指導者が国際政治を適切に語ることをいかに学ぶべきか、この問題は軽々しく扱えない厳粛な問題である。

 陳水扁総統がある席で「台湾が最初に中国の潜水艦を発見し日米に知らせた」と発言したが、この主張を最近日本の外務省と防衛庁が相次いで公に否定した。日本からのこの反応は事前に予想されていたことだ。しかし、解せないのは、陳総統がこの発言をした背後にある政治的動機が何であったかだ。この発言によって生まれうる余波、波紋を予想できなかったのだろうか。もし単に台湾の戦略的役割と価値を強調したかったのであれば、そのような軍事機密に関わるようなコメントを露骨かつ直接にする必要がなぜあったのだろうか。

 中国潜水艦の日本領海侵入事件は微妙な日中関係に少なからず衝撃を与えた。さらにこの事件はアジア太平洋諸国の強い関心を呼び起こした。実際のところ、琉球海域に出没する中国潜水艦を日本が発見し、それにはとりわけ高度な先進探査技術が必要だったわけではない。米国の情報衛星がずっと前から、西太平洋で活動する中国潜水艦を監視しているし、中国潜水艦が宮古諸島周辺で出没しているのがわかったとき、日米同盟は速やかに対応措置をとった。

 日米間にはもともと緊密な軍事協力が存在する。日本メディアの追跡報道の一致するところによると、潜水艦の発見は日米の機密情報交換のおかげだった。従って、はっきり言って、誰が先に潜水艦を見つけたかを議論することはそもそも無意味なことだ。台湾はその話題を世界に提供する役割を果たしたが、台湾政府が木を見て森を見ずであるだけでなく、近視眼的であることを暴露した。一定の独自的役割を果たしたにしても脇役に過ぎなかった。そのようなことを言って回る必要があったのか。天下を恐れるを知らぬことだけではないか。

 われらが陳総統の発言は日本交流協会の服部会長との会談の席で行われたものだった。アジア太平洋の安全が日台の共同の利益であることを日本側にも理解してほしいという総統の思いからだったことは間違いない。共同の利益がポイントだったことは明らかだが、総統は相手の立場に立って考えてみるべきだった。もし話の中身が相手にとってトラブルの元になりかねず、適切の答えるゆとりもないと予見できたならば、そのような話をするのは友情のルールに反する。そのような発言が将来の協力にさらに深刻な影響を与え、相互の利益を害するのであれば、発言は一種取り返しのつかない行為だったいえる。

 陳総統は常々、「台湾は小さいがエネルギーは大きい」といっている。小なりといえども台湾は、厳しい国際情勢のもとでも生存をかけ必死に努力しているということだ。しかし、それをいうのに大げさに言う必要はない。台湾はその尊厳と利益は共存できると信じるべきだ。謹慎冷静に考え、行動するかぎり、台湾は民主、繁栄、公義の国として存続できるのである。

 国際的な事柄を扱うのは微妙敏感で複雑な仕事である。国家代表の発言や行動にはいろいろなところから関心の目が注がれている。潜水艦事件のエピソードは、総統の誤った誇張はいまだに修復されていないだけでなく台湾の友人からの国際的信頼を大きく損ねたともいえる。かつてアフガン復興支援に台湾は功績があったのに対外的にそれを宣伝しなかった経験がある総統なのだが、今回表裏ともになんら得るところがなかった原因をよくよく考えてみるべきだ。