現在位置:
朝日新聞社インフォメーション >
AAN >
新刊から
朝日新聞アジアネットワーク

新刊から バックナンバー>>

科学の夢、苦労がぎっしり

『黄砂 その謎を追う』 岩坂泰信著 紀伊国屋書店・1890円
評者・最相葉月(ノンフィクションライター)

2006年5月

 十代のころ本書に出会っていたら、私は黄砂研究者を目指したかもしれない。

 科学のおもしろさ、途方もなさ、苦労も喜びもひっくるめてつまっている。日本に黄砂研究の第一人者が存在すること自体にまず驚いたが、そんなすごい人がああでもないこうでもないと一般人の疑問を先取りするような筆致で黄砂研究の最先端を教えてくれる。その真摯(しんし)さに感銘を受けた。

 四年ぶりに猛威を振るい死者まで出した黄砂だが、黄砂が何者で、いつどこでどのように発生し、どうやって移動し何を一緒に運ぶのか、環境にどんな影響を与えるのか、といったことを知るには格好の書だ。

 著者は黄砂をいい意味での「空飛ぶ化学工場」と呼ぶ。黄砂が大気中の亜硫酸ガスと反応していることが確認され、黄砂に大気汚染物を掃除する機能があるのではないかと推測されるようになったためだ。最近では、海に降った黄砂がプランクトンの餌となり、食物連鎖の一端を担っていることまで解明されつつあるらしい。さらに著者は、黄砂に微生物が住み着いている可能性まで示唆する。いやでも興味がわくというものでしょう。

 敦煌での気球観測など現場のエピソードも楽しく、夢がある。