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明治以降の特権階級、成立から消滅まで

『華族』 小田部雄次著 中公新書・987円
評者・赤澤史朗(立命館大学教授)

2006年5月

 かつて鶴見俊輔は、50年代には逆コースの流れの中で、再軍備から「家」の復活まで、あらゆる戦前の制度への復帰が唱えられたのだが、唯一その復活が唱えられなかったのが華族制度だったと述べた。つまり明治以降の特権身分である華族制度は、それほど国民に不評判であったというわけだ。しかし今では華族は、洗練された消費文化の先駆者として関心を集めているように見える。

 華族については、明治初期の制度成立史の研究が充実しているのに比べ、明治中期以降に関する研究が少なかった。これは、その実態を明らかにする史料が乏しいためであった。1884年施行の華族令以降の華族の数についてはこれまで諸説があり、本書の成果の一つが、その総数を1011家に確定した点にあるということは、従来の研究の薄さを示すものだろう。

 華族というとそのイメージは、旧大名家、旧公卿(くぎょう)、維新の功臣の家柄であり、資産のある生活を送っているという姿である。しかし少数特権階級とはいえ、全部で1千家を超えるとなると、このイメージからはこぼれ落ちる華族も相当の数出現してくる。華族に取り立てられた叙爵の理由も、その時期によって異なっていた。特に明治中期以降になると、昔の家格や維新期の功績より、現在の国家への貢献が重視され、勲功華族の男爵に軍人が取り立てられるケースが増えてくる。そして軍人とのバランスをとるように、財閥の当主や多数の文官も叙爵されていく。

 華族の経済的基盤に着目し、その資産格差やその動揺の過程を追跡している点も、本書の特徴である。さらに必ずしも「親日派」ともいえなかった、朝鮮貴族(韓国併合に伴って、華族に準ずる身分として設定された)についても、取り上げている。これらの事実から浮かび上がってくるのは、著者の説明とはやや違って、単純に「皇室の藩屏(はんぺい)」とばかりは位置づけられない華族の実態であろう。近代日本の華族の成立から消滅までを叙述し、華族について考える手がかりを与える通史として、意義があるといえよう。