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ロシアの資源のホントの話

『北東アジアのエネルギー国際関係』伊藤庄一著、東洋書店=ユーラシア・ブックレット・600円プラス税
評者・小森敦司(朝日新聞編集委員)

2109年7月

 政治家やメディアが勝手につくり上げたロシアの資源「力」について、ホントのことを伝えてくれる格好の手引書だ。ブックレットなのでページ数こそ少ないが、ロシアの外交や資源問題を調べるならば、学生ばかりか、政治家や外交官、ジャーナリストにとっても、得ることがたくさんある。

 丹念なデータの分析がこの本の命なので詳述できないのが惜しいのだが、伊藤氏はまず、西シベリアの資源生産力の減退と東シベリアの資源に期待せざるをえないロシアの実情を冷静に整理している。そのうえで、資源探査の遅れの理由や太平洋へのパイプラインをめぐる曲折を、ロシアの政治や資源関連産業の力学にも踏み込んで読み解いている。

 そこから浮かんでくるのは、外見とはまったく違うロシアの資源「力」の弱みと悩みである。外からは分かりづらい中国との間の資源をめぐる外交の駆け引きも、この本がその理解の手助けになるのは間違いない。

 アジア北東部の資源事情を長年にわたり見つめてきた伊藤氏だけに、日本が今後、取るべき立ち位置についての考察も鋭い。エネルギー需給が減少に向かう日本は、需要が急増する中国より「余裕を持って戦略を組み立てられる立場にある」との指摘は重たい。

 わずか数年前、米国のチェイニー副大統領(当時)はロシアをして「エネルギー帝国主義」と評し、そして日本政府は、東シベリアからのパイプラインをめぐって、「中国より先に日本に石油を流して」と懇願した。あの騒ぎは何だったのか。あの頃、この本が出版されていたら、と悔しく思えるほどだ。

 ※ 筆者・伊藤庄一氏は現在、環日本海経済研究所(ERINA)調査研究部研究主任。元朝日新聞アジアネットワーク客員研究員。