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韓国に滞在中の日本国際交流センター・シニアフェロー(朝日新聞前主筆)の若宮啓文さんのコラムです

(12) 刺激に満ちた欧米記者との出会い

2013年9月20日

 ソウルでは西洋人との貴重な出会いもしばしばある。先日、韓国紙中央日報の主催で行われたグローバル・フォーラムもそうだった。

 東京に帰っていた私は羽田発の飛行機でソウルに向かったが、機内で一緒になったのが同じ参加者のニューヨーク・タイムズ東京支局長のマーティン・ファクラーさん。新聞ではよく名前を見るが、実際に会うのは初めてで、金浦空港からホテルに向かう車の中でさっそく話がはずんだ。

 いや、最初は私が拙い英語で応じていたのだが、ふと彼が口にした日本語がとてもうまいのでびっくり。聞けば、もともと中国語が専門で北京特派員の経験が長いが、慶応大で日本語を、東京大で経済を学んだというから流暢なわけだ。「なんだ、マーティンさんも人が悪いなあ」と苦笑いしつつ、あとは日本語での会話となった。

 翌日迎えた会議で彼が語ったのは、日本から見た米中関係だった。この2国は世界の秩序の核となるG2として協力し合うようになるのか、それとも世界を二分して新冷戦を展開するようになるのか……。そんな両極端にはなるまいという話だったが、米中にはさまれた日本の悩ましい立場を語って興味深かった。

 さて、私は「東アジアの和解」に関するセッションに参加したのだが、そこで8年ぶりに出会ったのがドイツ誌「シュピーゲル」のウィーランド・ワグナーさんだった。いまはニューデリー支局長だが、以前は東京、そして上海や北京で支局長をしたアジア通だ。

 2005年4月のこと、中国各地で激しい反日デモが起こり、上海では日本の総領事館が石やペンキの缶を投げつけられる騒ぎになった。私はその2週間後に上海を訪ねたのだが、上海支局長だったワグナーさんからデモの様子を聞かせてもらったのだ。彼は群衆から「フー・チンタオ(胡錦濤)、日本に強く当たれ」と、時の主席を名指しで突き上げる叫び声も聞いて驚いたと言っていた。

仏独和解、うらやましい

ソウルで開かれたフォーラム。左から二人目がワグナーさん。右端は筆者(中央日報提供)

 もっとも、ワグナーさんがこのフォーラムで語ったのは中国ではなく、第二次大戦後に和解を実現したフランスとドイツのことだった。そこではフランスのドゴール大統領が大きな役割を演じたことを強調。韓国に関しては1998年に訪日して「和解」を宣言した金大中大統領を称えて「いま、第二の金大中がほしい」と言うのだった。

 討論にはソウル大のパク・チョルヒ教授やフランス紙フィガロのソウル支局長らも加わって盛り上がり、欧州と東アジアでは事情に違いがあること、それでも克服すべき道があることなどがさまざまに語られた。私も奮闘したつもりだが、ともあれ欧州で進んだ和解はうらやましいものである。

 ところで、コーヒーブレークの間に彼らが話題にしたのが、決まったばかりの2020年東京オリンピックだった。みなさん「よかったね」と喜んでくれたが、一方で「安倍さんがますます強気にならないか」と気にしている。「アベノミクスと防衛力拡充の組み合わせは、明治時代の富国強兵を思わせますね」と一人が言えば、「1936年のベルリン五輪みたいにならないかな」という悪い冗談も。ヒトラーがベルリン五輪を国威発揚に使ってナチスの独裁実現につなげた苦い歴史のことである。

 ナチス称賛と受けとられかねない麻生太郎副総理の暴言もあっただけに、こんな連想ゲームになるのだろうが、私は「まさか」と首を振るばかり。ともあれ、彼らとの会話は刺激に満ちたものだった。

 わかみや・よしぶみ 1948年生まれ。朝日新聞論説主幹、主筆を務め、2013年1月に退社。3月からソウルの西江大学で韓国語を学んだ。韓国・東西大学碩座教授、ソウル大客員研究員。著書に「新聞記者 現代史を記録する」(ちくまプリマ−新書)、「和解とナショナリズム」(朝日選書)、「闘う社説」(講談社)など。