朝日賞

2006年度 朝日賞
 ◆「愉しんで書くこと」 作家・村上春樹さん(57)

 世界中の若い読者に同時代の作家として広く受け入れられている。新作が出るたびに、あらゆる評価が世界のメディアを駆けめぐるが、「誤解の総体が真の理解である、というのが僕の基本的な考え方ですから」と、そのことにはとらわれない。
 作家としてもっとも大事に守ってきたのは「愉(たの)しんで書くこと」だ。「本人が愉しんで書いていれば、そして生活できる程度に本がコンスタントに売れていれば、読者の数の多少はそんなに関係ないものです」
 デビュー作「風の歌を聴け」の新しさは衝撃を与えた。英語で書いた文章を日本語に訳して作り上げた小説の文体や、登場する風俗も、それまでの日本文学の流れからみごとに切り離されていた。
 早寝早起き。ランニングを欠かさず、マラソンも走る。長編小説は海外で執筆、長編と長編の間に短編やエッセーを書き、翻訳やノンフィクション取材も手がける。トレーニングで自己記録を更新するスポーツ選手のように、新たな作品を発表し続けてきた。
 これまでに転機は二度あった。ひとつは「ノルウェイの森」、もうひとつは、地下鉄サリン事件の被害者に取材したノンフィクション「アンダーグラウンド」と、阪神大震災後に書かれた短編連作「神の子どもたちはみな踊る」だ。「その二つの段階を経ることによって、ひとつ上の場所に出られたという実感があった」という。
 デビュー以来、メディアとはできるだけ距離を置く。今回の取材もメールで。「アノニマス(匿名)な存在」としての自分を守ろうとしているように見える一方で、インターネットを通しての読者との対話は積極的に試みる。
 作家村上春樹への自己評価は「30年近くプロの作家として書き続けて生活しているんだから、それなりの資質みたいなものはあったのかな、とあくまで結果から逆算して考えます」。(佐久間文子)
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 むらかみ・はるき 49年京都市生まれ。兵庫県芦屋市で育つ。早稲田大文学部卒。ジャズ喫茶を経営していた79年に「風の歌を聴け」で群像新人賞受賞。85年「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」(谷崎潤一郎賞)など一線で作品を発表している。「ノルウェイの森」はミリオンセラーに。


2006(平成18)年度
田辺聖子詳細へ 『田辺聖子全集』(全24巻・別巻1)完結にいたる文学活動の業績
村上春樹 世界各国で翻訳され、若い読者を中心に同時代の共感を呼んだ文学的功績
野村万作詳細へ 長年にわたる狂言の優れた上演と幅広い舞台芸術への貢献
川人光男詳細へ 小脳内部モデル理論の提案・検証と人型ロボットによる脳機能の解明
近藤孝男詳細へ 生物時計の分子機構に関する研究
下村脩詳細へ 緑色蛍光たんぱく質GFPの発見と生命科学への貢献