朝日賞

2006年度 朝日賞
 ◆「脳解明、戦略は見えた」 脳科学者・川人光男さん(53)

  複雑な動作も練習を重ねれば意識せず滑らかにこなせるようになるのはなぜか−。「小脳内部モデル理論」という運動学習にかかわる仮説を提案し、その正しさをロボットの実験で検証するという独創的な手法で、学習の仕組みを次々と解き明かしてきた。
 この理論は、見よう見まねの練習を繰り返すと、理想的な動作をするために必要な神経回路が小脳に作られていき、無意識の動作が可能になるというもの。82年の提案以来、各種実験で証明を重ね、99年にはカメラでとらえた人の動作をまねる人型ロボットを開発。ジャグリングなど20種以上の複雑な運動も、まねるうちにロボットのコンピューター内に神経回路ができて習熟させることに成功した。
 これらの理論や手法は、言語など人固有の脳機能の理解や、停滞する人工知能研究の発展につながると期待される。「脳をつくることで脳を知る」と言われる新たな研究の流れも生み出した。
 東京大では物理学を専攻した。卒業が近づくと進路に悩む自らの心を科学的に知りたい、という思いが高まった。「知性とは何か、脳の仕組みの全体像に真正面から切り込みたい」と考え、脳科学の幅広い研究法が学べる大阪大基礎工学研究科に進んだ。
 「失敗をおそれず、新しい試みを続けられる環境だった」。モデル理論がひらめいたのも、ロボットでの検証に挑んだのも、阪大の助手だった時の議論が発端だった。
 国際電気通信基礎技術研究所に移ると、モデル理論の検証は一気に進んだ。「原動力は研究へのドキドキ感。熱しやすく冷めやすいのか、一つの実験方法で満足できず、数年たつと新しい方法に変えてしまうんですよ」と笑う。
 脳研究を志して30年。「タックルの方法すらわからなかったのが、研究の方法や戦略はほぼ見通しがつくところまできた。ただ、脳の全体像を知るにはまだとっかかりにすぎません」(林義則)
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 かわと・みつお 53年、富山県生まれ。76年、東京大理学部卒。81年、大阪大大学院基礎工学研究科博士課程修了。阪大基礎工学部助手、講師を経て、88年から国際電気通信基礎技術研究所(ATR)へ。03年、ATR脳情報研究所長に就任。04年、ATRフェローに選任された。大阪科学賞などを受賞。


2006(平成18)年度
田辺聖子詳細へ 『田辺聖子全集』(全24巻・別巻1)完結にいたる文学活動の業績
村上春樹詳細へ 世界各国で翻訳され、若い読者を中心に同時代の共感を呼んだ文学的功績
野村万作詳細へ 長年にわたる狂言の優れた上演と幅広い舞台芸術への貢献
川人光男 小脳内部モデル理論の提案・検証と人型ロボットによる脳機能の解明
近藤孝男詳細へ 生物時計の分子機構に関する研究
下村脩詳細へ 緑色蛍光たんぱく質GFPの発見と生命科学への貢献