朝日賞

2006年度 朝日賞
 ◆「人がやらない研究を」 時間生物学者・近藤孝男さん(58)

 朝になると自然に目覚め、夜になると眠くなり、海外旅行で時差ぼけに悩まされる。生物が体の中に持つ約24時間の体内時計は、おおむね1日であることから「概日(がいじつ)時計」と呼ばれる。その新しい仕組みをシアノバクテリア(藍藻〈らんそう〉)を使って解き明かした。
 時計遺伝子がたんぱく質を作り出し、増えたたんぱく質が遺伝子の働きを抑制しながら、生物時計が24時間を刻む仕組みは、マウスなどで解明されている。
 シアノバクテリアで見つけた時計遺伝子を、「回転」にちなんで「kai」と名づけた。根底に潜む仕組みを探り続け、この遺伝子がなくとも、その産物であるたんぱく質のリン酸化と脱リン酸化という反応で24時間のリズムが刻まれることを発見した。
 そして、3種類のたんぱく質とエネルギー源のアデノシン三リン酸(ATP)を混ぜるだけで、試験管内に生物時計を再現することに成功し、05年に発表した。この世界初の成果は、「極めて美しい」と評価されている。
 愛知県刈谷市の工場が立ち並ぶ地域で育った。「そんな環境だから自然にあこがれたのかも」。少年のころ昆虫採集や植物栽培に親しんだ。
 名大入学後、天文学とどちらにするか悩んだ末に、定員が少ない生物学を選んだ。「人がやらないことをやりたくて、当時、専門家のいなかった生物時計をテーマにした」。研究費の獲得に苦労して、分析装置を自作したこともある。「役に立つかどうかより、面白さを追求してきた。純粋科学の楽しさを若い人たちに伝えたい」
 たんぱく質の新しい機能を示すことにもなった成果は、今後の生命科学に影響を与えると期待されている。それを導いてくれた恩師や共同研究者たち、なによりもシアノバクテリアに感謝している。
 「シアノバクテリアは生物時計の秘密を人間に教えるために存在していると思うことがある」(黒沢大陸)
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 こんどう・たかお 48年、愛知県生まれ。76年、名古屋大大学院理学研究科単位取得退学。基礎生物学研究所助手、米バンダビルド大研究員などを経て95年、名大教授。06年から理学研究科長。中日文化賞、日本植物学会学術賞などを受賞。ウキクサで概日時計の研究を始め、90年ごろからシアノバクテリアを使っている。


2006(平成18)年度
田辺聖子詳細へ 『田辺聖子全集』(全24巻・別巻1)完結にいたる文学活動の業績
村上春樹詳細へ 世界各国で翻訳され、若い読者を中心に同時代の共感を呼んだ文学的功績
野村万作詳細へ 長年にわたる狂言の優れた上演と幅広い舞台芸術への貢献
川人光男詳細へ 小脳内部モデル理論の提案・検証と人型ロボットによる脳機能の解明
近藤孝男 生物時計の分子機構に関する研究
下村脩詳細へ 緑色蛍光たんぱく質GFPの発見と生命科学への貢献