朝日賞

2006年度 朝日賞
 ◆「なぜ光る、考え続けた」 発光生物学者・下村脩さん(78)

 海中で美しく光るオワンクラゲ。この光のもとになる緑色蛍光たんぱく質(GFP)を発見し、発光の仕組みを解明した。
 GFPを細胞中のたんぱく質にくっつけて光らせれば、その振る舞いが直接観察できる。そんな有用性に気づいた米国の研究者たちが、生命の仕組みの解明に使う画期的な道具に発展させた。今では世界中の多くの研究室でGFPが実験に使われている。
 クラゲとの出会いは60年。留学先の米プリンストン大で研究をもちかけられた。翌夏、ワシントン州の海辺でクラゲとの格闘が始まった。
 発光部分をはさみで切り取り、すりつぶした液体から未知の発光物質を探す。しかも、一度光ると物質の形が変わるため、光らせずに抽出する必要がある。手がかりさえ得られないまま時が過ぎた。
 「当時、発光物質は酵素の働きで光ると信じられていた。だが、絶対に酵素が必要なのか。毎日、ボートで海に出て、考え続けた」
 ある日、光り終えた液体を捨てたら、海水と混じって、また光った。酵素でなく、海水中のカルシウムと反応して青く光るたんぱく質エクオリンを見つけた。さらに、この光を受けて緑色に光るGFPも一緒に発見。両者の構造を解き明かし、生命科学へ応用する道を開いた。
 44年、大阪市から長崎県諫早市に疎開。地元旧制中学に編入したが、わずか1日で軍需工場に動員された。戦後、旧制高校を目指したが失敗。1日だけの中学に成績表がなく、まともな内申書が手に入らなかったからだという。
 自宅で勉強を続け、48年に長崎医科大付属薬学専門部に入学。名古屋大研究生だった56年、ウミホタルの発光物質の結晶化に世界で初めて成功し、渡米につなげた。
 「絶対に不可能だと決まっていないことは、必ずできる」。今は自宅でホタルイカの発光の仕組みの解明に挑んでいる。(上田俊英)
    *
 しもむら・おさむ 28年、京都府生まれ。51年、長崎医科大付属薬学専門部(現長崎大薬学部)卒。60年、フルブライト留学生として渡米し、米プリンストン大研究員。名古屋大助教授などを経て、82〜01年、米ウッズホール海洋生物学研究所上席研究員。同研究所退職後は米マサチューセッツ州の自宅で研究を続けている。


2006(平成18)年度
田辺聖子詳細へ 『田辺聖子全集』(全24巻・別巻1)完結にいたる文学活動の業績
村上春樹詳細へ 世界各国で翻訳され、若い読者を中心に同時代の共感を呼んだ文学的功績
野村万作詳細へ 長年にわたる狂言の優れた上演と幅広い舞台芸術への貢献
川人光男詳細へ 小脳内部モデル理論の提案・検証と人型ロボットによる脳機能の解明
近藤孝男詳細へ 生物時計の分子機構に関する研究
下村脩 緑色蛍光たんぱく質GFPの発見と生命科学への貢献