朝日賞 - The Asahi Prize -

2008(平成20)年度 受賞者一覧

◆水木しげるさん ◆澤地久枝さん ◆別役実さん ◆大隅良典さん
(▲お名前をクリックすると受賞者の詳細情報をご覧いただけます)




◆妖怪の世界、愛し愛され 水木しげるさん(86) 漫画家


水木しげるさん

 画業59年目を迎える。誕生から40余年を経た「ゲゲゲの鬼太郎」の妖怪たちは、世代を超えて愛され、日本人の心に定着した。「妖怪という奇妙なものをずーっと面白がる私の奇妙な性質が、描き続けさせてきたんでしょうねえ」

 原点は故郷の鳥取・境港。物心つくかつかぬかの頃から、近所のおばあさん「のんのんばあ」に妖怪ばなしを聞かされた。連れて行かれた寺では地獄極楽の絵に目を見はった。「のんのんばあの妖怪は、怖いけれど愛敬があってね。鬼太郎が生まれる畑になった」

 「ランプとあんどんの光の世界を伝えたい」と、「遠野物語」を昨夏から、マンガ誌ビッグコミックに連載する。ランプやあんどんのあたたかな光を包む闇には、妖怪の気配がひそむ奥行きがある。「だけど今の日本はドライな電気の光だらけ。妖怪を死滅させているんですよ」

 自然に包まれた時、あるいは共同体に伝わる古いものや習俗にふれた時に感じる、畏怖と親しみの交じった「何か奇妙なもの」。それを伝えることが「祖先の意思であり、妖怪のメッセージ」という。

 戦記ものも、妖怪ものと並んで根強い人気がある。20歳の時に陸軍2等兵として召集され、南太平洋のラバウルへ送られた。多くの友を失い、自らも爆撃で左腕を失った体験をもとに描いた「総員玉砕せよ!」はドラマにもなり、幅広い世代に読まれている。

 「あの戦争で日本人は大いに変わった。今の平和はありがたいってことです」。戦争への思いを語りたいとの気持ちを、強く持ち続けている。

 一日10時間眠り、食欲は旺盛。ひょうひょうとして、どこまで本心かと思わせる、とぼけた口ぶり。「100歳、120歳まで生きるかもしれませんなあ」。現実と妖怪の世界を自在に行き来し、「近代」が置き去りにしたものを伝えている。

      *

 みずき・しげる
 1922年生まれ。鳥取県出身。紙芝居作家を経て58年に貸本マンガでデビュー。65年から「墓場の鬼太郎」(のち「ゲゲゲの鬼太郎」)を連載。89年講談社漫画賞、03年手塚治虫文化賞特別賞。07年に仏アングレームの国際マンガ祭で日本から初の最優秀賞。故郷・境港市に記念館があり、妖怪で街おこしも進む。

▲このページのトップへ戻る



◆戦死者の思い、物語に残す 澤地久枝さん(78) 作家


澤地久枝さん

 正史の裏に隠れた声なき庶民の姿を照らすかたちで、戦争とともにあったこの国の近現代を問う歴史ドキュメンタリーを書き続ける。原動力は「軍国少女だった自分への屈辱感」という。「あの15年戦争を聖戦と信じ支持した。敗戦でやっと、死にたくないのに死んでいった異形の死に思いが及ぶの。恥の記憶です」

 編集者を経て、「戦争と人間」を書く五味川純平さんの資料助手に。この経験を力に「妻たちの二・二六事件」を刊行して72年、作家として立つ。のちの仕事は、いずれも綿密な調査と関係者に会う取材力が裏打ちする骨太の骨格を持つ。底を貫くのは、平和で民主的な社会を願う意志だ。

 「私の中では待遇改善を求める近衛兵の乱、明治の竹橋事件を調べた『火はわが胸中にあり』が大事。忘れられた、世の中を変えたかった男たちの痕跡を残そうとして書いたのだけど。でもどの仕事もみないとおしい」という。

 「いろんな人に会った。ミッドウェーの取材では海で死んだ米兵の息子が今度はベトナムの空で死んだ、そういう家族に会った。貧しいイタリア移民の家系でね」

 「彼らの故郷をナポリ近くの山中に訪ねました。私自身、父に連れられ旧満州に渡った移民の娘で、一族の物語を知りたかった。親子2代が戦争で死んで帰らない、こんな悲しみの連鎖は戦後の日本にはない。なぜ?」

 「九条の会」呼びかけ人の一人。改憲論議のうごめきに「今の日本はあぶない。沈黙はイエスよ。だから私はノーという」。執筆の間をぬい、護憲を訴える講演に臨む。  3度の手術に耐えた心臓にペースメーカーをつけ、からだを運ぶ。「お医者様は『無理しないこと』って。私の答えは、もちろん『はい』。でもやらなきゃいけないことをやらずに生きても、意味ないじゃない?」

      *
 さわち・ひさえ
 1930年、東京生まれ。旧満州で敗戦。46年に帰国。早稲田大第二文学部卒。編集者、作家五味川純平氏の資料助手を経て72年、ノンフィクション作家に。「妻たちの二・二六事件」「密約」「火はわが胸中にあり」「滄海(うみ)よ眠れ」「記録ミッドウェー海戦」(菊池寛賞)ほか著書多数。「九条の会」呼びかけ人。

▲このページのトップへ戻る



◆対人関係、時代ごとに問う 別役実さん(71) 劇作家


別役実さん

 60年代から独自のスタイルの不条理劇を書き、130本超を発表。その多くが再演を重ね、「現代の名作」として輝く。「注文をこなさないと生活できなかったから」とけむに巻くが、「文学座や演劇集団円、かたつむりの会など複数の仲間と続けて仕事ができたことが大きい」と振り返る。

 ベケットの「ゴドーを待ちながら」に代表される不条理劇が哲学的で難解とされた頃、喜劇の不条理劇で日本に新潮流をもたらした。男1、女2など、名を持たぬ小市民が、ぽつんと電信柱の立つ空間で、とりとめもなく話す。そこから生じる人間のおかしみとかなしみ、宇宙へと広がる透明な劇世界が支持された。

 「時代ごとの対人関係の変化を跡づけるのが劇作家の使命」という。60年代に「マッチ売りの少女」で家族を問い、70~80年代には共同体の崩壊を告げる新作を連打。07年の「犬が西むきゃ尾は東」は、増える中高年の自殺者の問題が底にある。

  「現代は、絵画でいうと前景と遠景しかない。家族や地域の存在感が薄まり、個人間の力学が壊れてしまった時代」。だから演劇の力は大きいと感じる。「僕の芝居は200人の観客が適正サイズ。そこでは肉声で内密なコミュニケーションが成り立つ」

 筆一本の人生を貫く背景に、引き揚げ者で苦労した幼少体験がある。「じとじと湿った内地と肉感的な方言への違和感。外から日本を見る癖が抜けなかった」。だが、兵庫県立ピッコロ劇団の活動で方言の魅力にも気づいた。「のっぺりしたグローバリズムへの対抗手段として有効」

 一昨年の「やってきたゴドー」は、笑いがさえわたる、別役流のベケットへの返歌だった。「笑いは高度な批評。古典落語には不条理劇に通じる笑いがある」。言葉通り、今秋には「らくだ」を劇団民芸に書き下ろす。 」

      *
 べつやく・みのる
 1937年、旧満州生まれ。早稲田大在学中に劇作を始め、66年に鈴木忠志氏らと早稲田小劇場を結成。67年「マッチ売りの少女」などで岸田国士戯曲賞。87年芸術選奨文部大臣賞。70年と07年に紀伊国屋演劇賞個人賞。「別役実戯曲集」など著書多数。03年から兵庫県立ピッコロ劇団代表。元日本劇作家協会長。

▲このページのトップへ戻る



◆「踊る粒」細胞に見つけた 大隅良典さん(63) 細胞生物学者


大隅良典さん

 どんな生き物も、食べ物がなければ飢える。人間なら1日絶食しただけで、肝臓が4分の3に縮んでしまう。

 そのとき、細胞の中では飢えをしのぐ仕組みが働いている。細胞内のたんぱく質を分解し、エネルギー源に再利用したり、省エネ型のたんぱく質に作り替えたり。この「オートファジー(自食作用)」と呼ばれる仕組みの実態を、世界に先駆けて解明した。

 88年4月。43歳で初めて、東京大教養学部に自分の研究室を構えた。専従スタッフもなく、「顕微鏡と、細胞の培養器くらいはあったかな……」。

  約2カ月後、顕微鏡で酵母の細胞の中の「液胞」を見ていたら、たくさんの小さな粒が、踊るように跳びはねていた。「これは絶対、面白い」。高倍率のレンズを買いに走った。

 「踊る粒」は、まさに分解直前のたんぱく質だった。だれも見たことがなかった現在進行形のオートファジーが、目の前で起きていた。「生命力にあふれる躍動は、何時間見続けても飽きなかった」

  この発見を機に、オートファジーにかかわる遺伝子を一気に14個も特定。各遺伝子の指令でつくられるたんぱく質の働きも調べあげ、生物が進化の中で築いてきた「リサイクル」の仕組みを、分子レベルで解き明かしていった。

  96年に基礎生物学研究所(愛知県岡崎市)に移ると、研究室には哺乳類や植物が専門の若手も集まり、研究の幅が広がった。がんや免疫不全、神経性疾患などとの関係が明らかにされつつあり、細胞が健康に生まれ、育ち、老いていく過程で、極めて重要な役割を担うこともわかってきた。

  顕微鏡で、自然が引き起こす現象を追うのが好きだ。成果があがらないときも「自然に聞いてみよう」と、レンズの先の世界を見つめてきた。競争重視で、じっくり基礎研究に取り組めない日本の「いま」を憂う一方、若者にも注文がある。「人と違うことをやって結果を出してやる、ぐらいの気概がほしい」

      *

 おおすみ・よしのり
 1945年、福岡市生まれ。67年、東京大教養学部卒。74年、理学博士号取得。東京大教養学部助教授などを経て、96年から基礎生物学研究所教授。05年藤原賞、06年日本学士院賞。還暦祝いに研究室のスタッフらから贈られた赤い自転車で出勤し、仲間と杯を交わす時間も大切にする。

▲このページのトップへ戻る



English Page

「朝日賞」TOPページへ



★ お問い合わせ ★

朝日新聞社CSR推進部「朝日賞」事務局
〒104-8011
東京都中央区築地5-3-2
[TEL] 03-5540-7453
[FAX] 03-3541-8999

公益財団法人 朝日新聞文化財団
〒100-0005
東京都千代田区丸の内2-1-1
明治生命館6階
[TEL] 03-6269-9441
[FAX] 03-6269-9442

過去の受賞者リスト
▼テキストをクリックすると詳細ページへ飛びます。

2016年度 ★受賞者 ★贈呈式

2015年度 ★受賞者 ★贈呈式

2014年度 ★受賞者 ★贈呈式

2013年度 ★受賞者 ★贈呈式

2012年度 ★受賞者 ★贈呈式

2011年度 ★受賞者 ★贈呈式

2010年度 ★受賞者 ★贈呈式

2009年度 ★受賞者 ★贈呈式

2008年度 ★受賞者 ★贈呈式

2007年度 ★受賞者 ★贈呈式

2006年度 ★受賞者

2005年度 ★受賞者

2004年度 ★受賞者

2003年度 ★受賞者

2002年度 ★受賞者

2001年度 ★受賞者

2000年度 ★受賞者

1999年度~1990年度 ★受賞者

1989年度~1980年度 ★受賞者

1979年度~1970年度 ★受賞者

1969年度~1960年度 ★受賞者

1959年度~1950年度 ★受賞者

1949年度~1940年度 ★受賞者

1939年度~1929年度 ★受賞者

朝日賞特別賞 ★受賞者