2011(平成23)年度 朝日賞
贈呈式、7氏1団体に 朝日賞・大佛賞・大佛論壇賞・朝日スポーツ賞
(前列左から)朝日賞の坂口志文さん、横尾忠則さん、冨田勲さん、大佛次郎賞の司修さん、大佛次郎論壇賞の服部龍二さん。(後列左から)朝日賞の香取秀俊さん、上野千鶴子さん、朝日スポーツ賞のサッカー女子W杯日本代表の佐々木則夫監督、丸山桂里奈選手=早坂元興撮影
学術や芸術などで傑出した業績をあげた個人や団体に贈る2011年度朝日賞、優れた散文作品をたたえる第38回大佛(おさらぎ)次郎賞、政治・経済・社会などについての秀でた論考への第11回大佛次郎論壇賞、スポーツ分野で優れた成果をあげた個人や団体を表彰する11年度朝日スポーツ賞の合同贈呈式が27日、東京・日比谷の帝国ホテルで開かれた。
朝日賞を受けた5人に正賞のブロンズ像と副賞500万円、大佛次郎賞と大佛次郎論壇賞の2人に賞牌(しょうはい)と200万円、朝日スポーツ賞のサッカー女子ワールドカップ(W杯)ドイツ大会で優勝した日本代表チームにはレリーフと200万円がそれぞれ贈られた。
朝日賞の美術家、横尾忠則さんは「シュールレアリスムの世界に放り込まれたみたい」と贈呈式に臨んでの心境を表現。「朝日賞はぼくにとっての運命の女神。この女神に導かれながら、残された時間を精いっぱいの創作人生にしていきたい」と話した。
社会学者の上野千鶴子さんは「女性学は男を敵に回す嫌われ者だったので、(受賞は)青天のへきれき」と笑いを誘った。その上野さんが「『やまとなでしこ』の意味を、従順で耐える女から、挑戦する女の別名に変えた」とたたえたのが、朝日スポーツ賞の「なでしこジャパン」。佐々木則夫監督は「これを機にもっともっと精進して、ロンドン五輪でもみなさんに元気をお伝えしたい」とさらなる活躍を誓った。
(2012年1月28日朝日新聞朝刊より)
■朝日賞
- ◇横尾 忠則さん(美術家)
常に時代と共振する斬新なグラフィックデザイン・絵画の制作
- ◇冨田 勲さん(作曲家)
世界を舞台にした作曲家・音響クリエーターとしての活動
- ◇上野 千鶴子さん(社会学者)
女性学・フェミニズムとケア問題の研究と実践
- ◇香取 秀俊さん(東京大教授)
光格子時計に関する研究
- ◇坂口 志文さん(大阪大教授)
制御性T細胞の発見を通じた免疫寛容の解明
2011年度 朝日賞
朝日賞5氏のスピーチ
◆絵も人間と同じ未完でいい 美術家・横尾忠則さん
絵画は肉体的行為です。キャンバスの前に立って絵筆を動かすと、脳ではなく肉体が発する言葉がぼくを支配し始めます。
その言葉は本能とか魂と呼ぶものに近いように思います。
頭のなかでざわめく言葉にとらわれている間は、真の孤独になれません。その言葉が一切消えたとき、無心になり、個人から個という普遍的な領域にたどり着く準備ができます。
絵の完成を求める限り、言葉はなかなか消えてくれません。だけどあるとき、人間は未完で生まれ未完で死んでいくのだから、絵も未完で終わっていいのではないかと気づきました。すると、強迫観念から解放され、絵を描くよろこびと出会うことができました。
グラフィックデザインでは、常に言葉と対峙(たいじ)しました。その体験は絵画制作の試金石で、グラフィックから絵画に至る必然性はあったと理解しています。
◇
よこお・ただのり 常に時代と共振する斬新なグラフィックデザイン・絵画の制作
◆課題曲に当選、転機になった 作曲家・冨田勲さん
今から60年前、大学生の頃、朝日新聞社主催の全日本合唱コンクールの課題曲募集に「風車」という曲を応募して、当選しました。
それまで父は「お前にできるわけがない」と作曲家になることに反対していました。ところが、課題曲に選ばれたことが新聞に載ると、途端に考えが変わって「とにかく、やれるところまでやってみたらどうだ」と言ってくれた。
おかげで、音楽の道に進むことができました。そこから発展して、NHKの大河ドラマやアニメ「ジャングル大帝」、山田洋次監督の映画などの楽曲を作るようになったのです。最近は宮沢賢治の世界を描いた「イーハトーブ交響曲」を書いています。11月23日に、東京・初台のオペラシティで初演の予定です。
最初のきっかけから60年ということで、本当に受賞をうれしく思います。今日は私にとって最良の日であります。
◇
とみた・いさお 世界を舞台にした作曲家・音響クリエーターとしての活動
◆女性の力なしに未来ない 社会学者・上野千鶴子さん
学問の世界にもベンチャーがあります。
私の世代が大学に行った頃には女性学という学問はありませんでした。私たちの世代は皆、パイオニアです。独学で学び、いまは教える立場になっています。
今回の受賞は私だけでなく私とともに女性学、フェミニズムを担ってきたすべての女たちの活動を評価していただいたものと感謝しています。
日本では、女性の力はいかされていません。震災後の復興構想会議では、15人の委員のうち女性は1人でした。非常にショックを受けました。震災からの復興も、日本の未来も女性の力なしでは、できないことはご存じのことだと思います。
女性の声が政治に届いていれば、もしかしたら原発を造らずにすんだかもしれないと痛恨の思いです。
女性の力をきちんといかす社会になることを願って、期待とともに与えられた賞だと思っています。
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うえの・ちづこ 女性学・フェミニズムとケア問題の研究と実践
◆時間の常識を変革したい 物理工学者・香取秀俊さん
ものぐさと言われた私が研究の世界で勝負するにはどうしたらよいか。誰もしていない研究なら、過去の論文を丹念に読んで重箱の隅をつついたり、頭の切れそうな研究者と競争したりする必要がありません。
原子時計研究は20世紀の量子力学誕生と同時に始まり、関連分野で20人近いノーベル賞受賞者を出した、私にとって恐れ多い分野でした。既定路線に乗っても勝ち目はなく、非常識なアプローチで大きな壁にぶつかってみたかったのです。
そんな思いで超高精度の原子時計、光格子時計を提案しました。今では世界中で開発が進み、秒の再定義を迫るほどに性能が向上しています。
時計は同じ時間を共有する道具と思われてきましたが、時空間は重力でゆがんでおり、全く同じ時間の共有は難しいのです。光格子時計は、このゆがみによる時間のずれも見られるのです。時間の常識に変革をもたらしたいと思います。
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かとり・ひでとし 光格子時計に関する研究
◆免疫研究、逆からの視点で 免疫学者・坂口志文さん
昨年のノーベル医学生理学賞は、免疫がどのようにウイルスや細菌を認識してリンパ球が活性化されるか、という研究に対してでした。私はあまのじゃくですので、反対の研究です。免疫にいかにブレーキをかけるかというものです。
免疫が本来反応してはならないものに反応して起こる病気があります。関節リウマチは免疫が自分を壊してしまう病気。アレルギーは花粉などの無害な物質に過剰に反応して起きます。
私たちが発見したのは、こうした異常、過剰な免疫の反応を抑制するリンパ球、制御性T細胞です。
このような細胞が存在するのか議論がありました。30年以上これを研究していますが、最初の20年はあまり注目されませんでした。
ここ10年で世界中で理解が進みました。この細胞を抑えて免疫ががん細胞を攻撃できるようにするなど課題があります。いっそう研究に励みたいと思います。
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さかぐち・しもん 制御性T細胞の発見を通じた免疫寛容の解明