朝日賞

2012年度 朝日賞
 ◆光合成解明の物質に迫る
 神谷信夫さん(59) 大阪市立大学教授
 沈 建仁さん(51) 岡山大学教授
神谷信夫さんと沈建仁さん
左から沈建仁さん、神谷信夫さん 金川雄策撮影

 植物はどうやって酸素を生み出すのか。光合成のなぞを解く鍵が「マンガンクラスター」という物質だ。その分子構造を解明した。

 マンガンクラスターは、葉緑体にあるたんぱく質20個の複合体「PSII」の中心部にある。光エネルギーを使って水を分解し、酸素をつくりだす反応を手助けする触媒として働く。

 1990年、理化学研究所で光合成のしくみを調べていた沈さんと、たんぱく質の構造解析を手がけていた神谷さんにマンガンクラスターの解析が託された。まず沈さんがPSIIの結晶をつくり、神谷さんがX線でそれを解析する。だが、研究は苦難の連続だった。

 初めの数年は結晶すらできなかった。PSIIを壊さないように洗い出して整列させるのは至難の業だ。試薬も機材も整っていない時代。「一種のかけのようだった」と沈さんは振り返る。試薬の組み合わせを一つ一つ試し、実験の数だけ失敗を重ねた。

 20年目の2009年秋、従来の4倍ほどの大きさの結晶ができた。大型放射光施設スプリング8でX線をあて1・9オングストローム(1億分の1センチ)の精度のデータがとれた。原子と原子の距離が分かる世界最先端の成果だった。

 神谷さんは分子の位置などを手作業で補正して立体構造を解析した。クラスターをつくる原子10個の並び方と、PSIIを取り巻く水分子約1300個を特定。11年、沈さんらと英科学誌ネイチャーに発表した。

 「信じてやり続けてよかった」と沈さん。神谷さんは「ダメでもともと」とおおらかに構える。つかず離れずの「ラフな関係」が長い年月を支えた。

 2人が見たのは数段階ある水分解反応の一場面。「全体像を明らかにしたい」と、さらなる挑戦が続く。(鈴木彩子、今直也)

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 かみや・のぶお 1953年愛知県生まれ。84年名古屋大大学院理学研究科博士号取得。85年から理化学研究所研究員。98年理研播磨研究所室長。2005年から大阪市立大教授。

 しん・けんじん 1961年中国浙江省生まれ。90年東京大大学院理学研究科博士号取得。同年理化学研究所特別研究員。97年理研播磨研究所先任研究員。2003年から岡山大教授。


2012(平成24)年度
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光合成における水分解・酸素発生の分子機構の解明
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