朝日賞 - The Asahi Prize -

2012(平成24)年度 受賞者一覧

◆唐十郎さん ◆松波弘之さん ◆神谷信夫さん・沈建仁さん
(▲お名前をクリックすると受賞者の詳細情報をご覧いただけます)




◆テント芝居、幻想は無限大 唐十郎さん(72) 劇作家


小暮誠撮影

 戯曲から、詩情あふれるセリフがよどみなく流れ出す。舞台の原風景は生まれ育った東京の下町。格調高さと卑俗な人間臭が組み合わさり、演劇ならではの幻想的な世界へ誘う。

 芝居に目覚めたのは大学時代。イプセンの「民衆の敵」で、名も無き庶民のキャラクターを自作自演で作り上げた。

 劇団状況劇場を旗揚げしてから今年で50年が経つ。代名詞となった「紅テント」での上演は、外の車の音や話し声も耳に入る。「都会のノイズを巻き込むので、現実と虚構がないまぜになる」。最後は役者がテントの外へ飛び出し、舞台は無限に広がっていく。

 昨年亡くなった中村勘三郎さんは、若き日に見た状況劇場の記憶を胸にとどめ、後に仮設劇場「平成中村座」での歌舞伎公演を始めた。演劇のみならず、美術や文学など多くの分野の才能が「アングラ演劇の旗手」の洗礼を受け、創造の羽を広げた。

  「テントは身体で言えば皮膚。その中で血が騒ぎ臓器たちが躍動する。そんな感覚が人をひきつける」

 演劇賞を受けた作品は、奇怪な人々が地下喫茶店にひしめく「少女仮面」が1969年、諫早湾干拓問題を扱った「泥人魚」が2003年の初演。息の長い活躍が際だつ。劇団唐組でも毎年新作を書き、自ら体を張った演技を続けてきた。

  昨春、自宅前で転倒、頭を強く打った。回復の見通しが立った頃に朝日賞の知らせ。「とても大きな光をいただきました」と語る。

 次の舞台の構想が浮かんでいる。「電脳空間ではなかった、かつての都会の路地をもう一度巡ってみたい。戯曲も今は崖っぷちに立って、現在形で勝負したい」。誰も見たことのない劇空間が、頭にあふれる。テント芝居の総帥は、立ち止まらない。(井上秀樹)

      *

 から・じゅうろう 本名大鶴義英(おおつる・よしひで)。
 1940年東京都生まれ。主宰する劇団、状況劇場(現在は解散)と唐組で脚本と演出と主演を兼ねる。作家としても83年に「佐川君からの手紙」で芥川賞。

▲このページのトップへ戻る



◆半導体の省エネ化に道筋 松波弘之さん(73) 京都大学名誉教授


滝沢美穂子撮影

 家電製品や電気自動車に欠かせない「パワー半導体」。交流電流を直流に変えたり、電圧や周波数を上下させたりと、電力を制御する。いわば「心臓」だ。次世代のパワー半導体に使える素材「シリコンカーバイド」を開発した。

 パワー半導体の主流はシリコン製。だが、大電流や高温に弱く、電力損失が多いのが課題だ。一方、シリコンに炭素を混ぜた素材「シリコンカーバイド」は強度があり、熱に強い。

 シリコンカーバイドの優れた素質は、1950年代から知られていた。しかし、結晶がきれいに整列せず、高品質な材料をつくることができなかった。

 京都大の助手時代、シリコンカーバイドの魅力にほれこんだ。「何とか持ち上げてやりたい」。71年に助教授として独り立ちすると、本格的に研究を始めた。なかなかうまくいかない。国内外の研究者たちは次々と撤退していった。

 転機は87年。偶然から突破口が開けた。結晶の土台になる基板を表裏逆にしたら、高品質な材料ができた。基板表面の層が結晶の並びと平行ではなく、数度傾いていることがうまくいった原因だった。「跳び上がるほどうれしかった」

 これが世界標準となり、近年は国も開発を後押しする。2012年には東京メトロ銀座線の車両部品に使われた。消費電力を平均4割近くも減らすという。国内すべてのパワー半導体がシリコンカーバイド製に切り替われば、原発7、8基分の電力の節約になるという試算もある。「夢だと思っていたテーマが大化けした。僥倖です」。いま、省エネの切り札と期待される。

 園芸が趣味。「咲いてしまった花より、つぼみを見るのが好き。(つねに将来を目指す)研究の姿勢と重なるのかもしれません」(小宮山亮磨)

      *

 まつなみ・ひろゆき
 1939年大阪府生まれ。64年京都大大学院工学研究科修士課程修了。工学博士。83年京都大教授、2003年京都大名誉教授。03年米電気電子学会フェロー。

▲このページのトップへ戻る



◆光合成解明の物質に迫る
 神谷信夫さん(59) 大阪市立大学教授
 沈 建仁さん(51) 岡山大学教授


左から沈建仁さん、神谷信夫さん 金川雄策撮影

 植物はどうやって酸素を生み出すのか。光合成のなぞを解く鍵が「マンガンクラスター」という物質だ。その分子構造を解明した。

 マンガンクラスターは、葉緑体にあるたんぱく質20個の複合体「PSII」の中心部にある。光エネルギーを使って水を分解し、酸素をつくりだす反応を手助けする触媒として働く。

 1990年、理化学研究所で光合成のしくみを調べていた沈さんと、たんぱく質の構造解析を手がけていた神谷さんにマンガンクラスターの解析が託された。まず沈さんがPSIIの結晶をつくり、神谷さんがX線でそれを解析する。だが、研究は苦難の連続だった。

 初めの数年は結晶すらできなかった。PSIIを壊さないように洗い出して整列させるのは至難の業だ。試薬も機材も整っていない時代。「一種のかけのようだった」と沈さんは振り返る。試薬の組み合わせを一つ一つ試し、実験の数だけ失敗を重ねた。

 20年目の2009年秋、従来の4倍ほどの大きさの結晶ができた。大型放射光施設スプリング8でX線をあて1・9オングストローム(1億分の1センチ)の精度のデータがとれた。原子と原子の距離が分かる世界最先端の成果だった。

 神谷さんは分子の位置などを手作業で補正して立体構造を解析した。クラスターをつくる原子10個の並び方と、PSIIを取り巻く水分子約1300個を特定。11年、沈さんらと英科学誌ネイチャーに発表した。

 「信じてやり続けてよかった」と沈さん。神谷さんは「ダメでもともと」とおおらかに構える。つかず離れずの「ラフな関係」が長い年月を支えた。

 2人が見たのは数段階ある水分解反応の一場面。「全体像を明らかにしたい」と、さらなる挑戦が続く。(鈴木彩子、今直也)

      *

 かみや・のぶお
 1953年愛知県生まれ。84年名古屋大大学院理学研究科博士号取得。85年から理化学研究所研究員。98年理研播磨研究所室長。2005年から大阪市立大教授。

 しん・けんじん
 1961年中国浙江省生まれ。90年東京大大学院理学研究科博士号取得。同年理化学研究所特別研究員。97年理研播磨研究所先任研究員。2003年から岡山大教授。

▲このページのトップへ戻る



English Page

「朝日賞」TOPページへ



★ お問い合わせ ★

朝日新聞社CSR推進部「朝日賞」事務局
〒104-8011
東京都中央区築地5-3-2
[TEL] 03-5540-7453
[FAX] 03-3541-8999

公益財団法人 朝日新聞文化財団
〒100-0005
東京都千代田区丸の内2-1-1
明治生命館6階
[TEL] 03-6269-9441
[FAX] 03-6269-9442

過去の受賞者リスト
▼テキストをクリックすると詳細ページへ飛びます。

2016年度 ★受賞者 ★贈呈式

2015年度 ★受賞者 ★贈呈式

2014年度 ★受賞者 ★贈呈式

2013年度 ★受賞者 ★贈呈式

2012年度 ★受賞者 ★贈呈式

2011年度 ★受賞者 ★贈呈式

2010年度 ★受賞者 ★贈呈式

2009年度 ★受賞者 ★贈呈式

2008年度 ★受賞者 ★贈呈式

2007年度 ★受賞者 ★贈呈式

2006年度 ★受賞者

2005年度 ★受賞者

2004年度 ★受賞者

2003年度 ★受賞者

2002年度 ★受賞者

2001年度 ★受賞者

2000年度 ★受賞者

1999年度~1990年度 ★受賞者

1989年度~1980年度 ★受賞者

1979年度~1970年度 ★受賞者

1969年度~1960年度 ★受賞者

1959年度~1950年度 ★受賞者

1949年度~1940年度 ★受賞者

1939年度~1929年度 ★受賞者

朝日賞特別賞 ★受賞者