朝日賞 - The Asahi Prize -

2015(平成27)年度 受賞者一覧


  ◆金子兜太さん   戦後一貫して現代俳句を牽引
  ◆大野和士さん   指揮者としての国内外における精力的な活動
  ◆村井眞二さん   不活性結合の活性化に基づく革新的合成手法の開拓
  ◆山本正幸さん 渡辺嘉典さん   減数分裂にかかわる分子機構の解明
  (▲お名前をクリックすると受賞者の詳細情報をご覧いただけます)

 

 

◆俳人 金子兜太さん/反戦と前衛掲げ、人間を詠む


西田裕樹撮影

 故郷、秩父で俳句と出会ってから85年、「俳句とは人間を詠むもの」と信じてきた。

 俳句人生において大きな転機が2度あった。

 第2次世界大戦。南洋のトラック島での戦場体験から、反戦の思いを持った。

 〈彎曲(わんきょく)し火傷(かしょう)し爆心地のマラソン〉

 復員後に復職した日本銀行でレッドパージにあい、転勤した神戸で前衛俳句に影響された。思想ではなく、生活実感から俳句を詠む自らのスタイルを見つけた。

 〈銀行員等(ら)朝より螢光(けいこう)す烏賊(いか)のごとく〉

 俳人としての根幹に反戦と前衛性を持ちながら、指導者として、決まりにこだわらない詠み方も許容し、幅広い年齢層に俳句を定着させた。

 1987年から選者を務める朝日俳壇では、「新聞俳壇はジャーナリズム」と言い、「日本の暦には特別な日がある」と捉える。3月の東京大空襲、8月の原爆忌と終戦記念日、12月の開戦日。2011年から3月に東日本大震災が加わった。

 戦後70年の昨年は積極的に新聞や雑誌に登場し、平和への思いを語り、俳句で平和を詠むことを唱えた。

 「思い返せば、実力以上のツキに恵まれた人生だった」。戦場で命拾いし、職場の不遇の中で大切な俳句仲間を得た。92歳での胆管ガン手術も、早期発見で成功した。

 「型にはめずに自由に、それこそが文芸表現である」。その思いを胸に、ますます意欲的だ。=(宇佐美貴子)

  *
 かねこ・とうた
 1919年埼玉県生まれ。東京帝大卒。俳句誌「海程」主宰。現代俳句協会名誉会長。87年から朝日俳壇選者。89年から「お~いお茶新俳句大賞」審査員。2008年文化功労者、10年菊池寛賞。

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◆指揮者 大野和士さん/違い超えて 導くハーモニー


早坂元興撮影

 歌手、演出家、照明家、美術家。歌劇場には、ただならぬ引力を持つアートの専門家が密集する。その真ん中に立ち、すべてを統括する。「強烈な磁場を丸く整え、ひとつの大きな世界を形づくる。オペラ指揮者とはそういう仕事です」

 独裁者として君臨するのではなく、異なる音色を束ね、調和へと導く。現代型の指揮者の筆頭格だ。

 海外でのキャリアをスタートさせたのは1980年代。戦禍のクロアチアでザグレブ・フィルハーモニー管弦楽団の常任指揮者(のち音楽監督)に。灯火管制下の演奏会。薄明かりのもと、ひとり、またひとりと言葉少なに集まってくる。指揮台に立つ背中に、聴衆の静かな熱狂がじわじわ押し寄せる。「どんな状況にあっても人間は音楽を求めずにいられない。この確信にずっと導かれています」

 どんなに忙しくても、帰国するたびに各地の介護施設や学校を訪問し、得意の話術とピアノで音楽の世界へと手招きする。「演奏会場に足を運べない人に音楽を届けてこそ、音楽家」との信念は揺るがない。

 昨年、東京都交響楽団の音楽監督に。海外に軸足を置いたまま、欧州での研鑽(けんさん)の「果実」を日本の音楽界に持ち帰り、新たな種をまく日々が始まる。クラシックと日本の歌謡曲に、表現の共通項を見つけては興奮する。「民族の違いを超え、みんなが同じ『何か』に共感できる。音楽には、そんな『何か』がきっとある」=(編集委員・吉田純子)

【→関連動画:朝日新聞デジタル 人はどんな状況でも音楽を求める 指揮者・大野和士さん】

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 おおの・かずし
 1960年東京都生まれ。ベルギー王立歌劇場(モネ劇場)音楽監督、仏国立リヨン歌劇場首席指揮者などを歴任。2006年仏批評家大賞・ヨーロッパ大賞。10年恩賜賞・日本芸術院賞、文化功労者。

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◆化学者 村井眞二さん/強固な結合、金属触媒で切断


滝沢美穂子撮影

 多くの化学者が挑みながら不可能とされてきた、炭素(C)と水素(H)の結合の切断を可能にした。

 この結合は、私たちの体や食べ物といった有機物の基本構造だ。結びつきは強く、簡単には切れない。逆に自在に切ったり他の分子を付けたりできれば、様々な有機物を作り出せる。1987年に大阪大教授に就くと、「常識超えを狙いたい」と切断に取り組んだ。

 化学反応を促す触媒の組み合わせは数千通り。「これまで試されたのはほんのわずか。巡り合っていないだけだ」と確信していた。結合を切り離す「C―H活性化」を目指し、様々な触媒で実験を重ねた。

 ルテニウムという金属を使い、これまでと違う測定結果が出たのは92年。成功した証拠だった。「びっくりして感激した」。93年、英科学誌ネイチャーに論文が載り、世界の注目を集めた。

 「幸運だったが、運をつかむ土台はあった」と振り返る。以前から他の金属と違う振る舞いをするルテニウムに目を付け、実験に使うケイ素も扱っていた。積み上げた無数の失敗は財産だ。「失敗を恐れる研究者ではいけない」と語る。

 C―H活性化は、生成効率の高い技術として薬や電子材料の開発が進む。同様に炭素との結合が強い窒素やフッ素などにも研究は広がる。世界の競争で勝ち残るには、科学を駆使して分子を操り、新素材を作る技術が重要という。「日本に分子技術があって良かったと思われるようにしたい」=(野中良祐)

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 むらい・しんじ
 1938年大阪府生まれ。66年大阪大大学院工学研究科博士課程修了。大阪大教授、奈良先端科学技術大学院大副学長などを経て、2013年から同特任教授、岩谷産業中央研究所長。大阪大名誉教授。

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◆分子生物学者  山本正幸さん 渡辺嘉典さん
 減数分裂の仕組み、明らかに


山本和生撮影

 生殖細胞ができるときに起こる減数分裂。親から半分ずつ遺伝情報を受け継ぐために、染色体の数を半減させる特別な細胞分裂だ。生命を受け継いでいくために重要なこの仕組みの解明に2人は挑んだ。

 山本さんが目をつけたのは単細胞生物の分裂酵母。ふだんは自分のコピーを作る体細胞分裂で増えていくが、栄養が足りないと減数分裂に切り替わる。その過程を30年かけて一つひとつ探ってきた。

 そして突き止めたのが、減数分裂が始まるときのスイッチだ。細胞内で「Mei2」というたんぱく質が特定のRNAとくっつくと、減数分裂を起こさないようにしているシステムが解除されることがわかった。

 研究の過程では予想外の発見もあった。このRNAは、1990年代前半の当時の常識に反し、遺伝子を読み取ってたんぱく質を作る機能を持っていなかった。自分たちの見ているものは本当にRNAなのか。暗闇を手探りで進むような時間が流れた。

 たんぱく質を作らないRNAの多彩な役割は、その後広く知られるようになった。「うまくいかない時こそ、背後に面白いことが隠れている」と山本さん。

 このころの山本研究室に、渡辺さんもいた。その後、自らの研究室を立ち上げた渡辺さんは、染色体が均等に分かれる仕組みに着目し、大切な役割を果たすたんぱく質を見つけ、「シュゴシン」と名付けた。

 由来は守護神。対になる染色体同士をくっつけている接着剤のような分子を守っている。シュゴシンがないと、染色体ははがれすぎてバラバラになり、遺伝情報を正しく次世代に伝えられない。酵母から哺乳類まで共通に存在していることも突き止めた。

 今も渡辺さんを支えるのは、山本さんとともに暗闇の先に光を見つけた経験だ。シュゴシン発見に至る実験の数々も、試行錯誤の繰り返しだった。「突き進めばいつかは光が見える。より光に近い方向を探る嗅覚(きゅうかく)は、思いっきり考えることでしか磨かれない」=(冨岡史穂、瀬川茂子)

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 やまもと・まさゆき
 1947年兵庫県生まれ。75年東京大大学院理学系研究科博士課程修了、89年東京大理学部教授。東京大大学院理学系研究科長、かずさDNA研究所所長を経て、13年から基礎生物学研究所所長。

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 わたなべ・よしのり
 1961年岐阜県生まれ。89年東京大大学院理学系研究科博士課程修了。東京大助手、英国王立がん研究所客員研究員、東京大助教授を経て、2004年から東京大分子細胞生物学研究所教授。

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