朝日賞 - The Asahi Prize -

2017(平成29)年度 受賞者一覧


  ◆北川フラムさん   里山や島々を舞台にした芸術祭での地域・文化の活性化
  ◆瀬戸内寂聴さん   女性の地位を向上させた作家活動や平和への社会活動
  ◆甲元 真人さん   トポロジーの物性物理学への導入
  ◆柳沢 正史さん   オレキシンの発見と睡眠・覚醒に関する研究
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◆アートディレクター 北川フラムさん/里山で芸術祭 地域を元気に


山本和生撮影

 東京23区よりも広いエリアの里山や集落を舞台に、野外現代美術展を開催する――。

 「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」は、そんな世界でも類例のない試みとして、2000年に始まった。その企画立案や作家選定を担ってきた。

 新潟県の6市町村(当時)の一体化を求められてのことだが、一極集中、効率化の中で忘れられたような集落を見て「美術は人間の友だちになれる」と広範囲での美術展に。以後、3年に1度開催してきた。

 初回前半は閑古鳥が鳴いていたが、口コミで人が訪れ始める。豊かな緑の中でのアート鑑賞。その開放感に旅と食の魅力も加わり、回を重ねるごとに来訪者は増え、過疎化の進む地域を「発見」していった。

 10年から手掛ける瀬戸内国際芸術祭の成功もあって、今や日本は〝芸術祭列島〟の趣。「全く予想していなかった。でも美術には祝祭的でリアルな力があると信じていました」

 昨年は長野県と石川県でも芸術祭を手掛け、東京にいるのは週に2日ほどだ。開催地の議会対策や資金集め、作品設置に地域づくりと課題の発生しない日はないぐらい。「今さら大変だとも思わないし、集落の人たちが喜んでくれるから」

 一方で、酒宴は好まない。「飲んで仲良くなってできるようなことは、大したことではないと思う」

 東京芸術大時代は学生運動の闘士でありつつ、仏教彫刻史を専攻し、全国の仏像を見て回った。「仏像も地元に支えられ、環境の中にある。決定的な体験ですね」。トラックに美術品を載せ、全国約190会場で反アパルトヘイト展を開いた40代前半の経験も、土台となっている。

 中国などからも引き合いがあるなか、芸術祭を企画したり支えたりする人材の不足を感じている。今月から始める「瀬戸内フラム塾」で、後進の育成に力を注ぐつもりだ。

 受賞は「本当にうれしい」と素直に喜ぶ。「賞金? 妻有に投入ですね」。今夏、7回目の大地の芸術祭が開かれる。=(編集委員・大西若人)

  *
 きたがわ・ふらむ
 1946年、新潟県生まれ。東京芸術大卒。82年にアートフロントギャラリーを設立(現在は会長)。芸術選奨文部科学大臣賞や紫綬褒章を受けている。「ひらく美術」など著書多数。「フラム」は本名で、ノルウェー語で「前進」を意味する。

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◆作家・僧侶 瀬戸内寂聴さん/尽きぬ書く情熱 反戦にも力


堀内義晃撮影

 作家活動は約70年に及ぶ。書いた本は400冊以上。昨年も長編小説や句集、対談本などを次々に出版した。書く意欲は、まったく衰えていない。

 「死ぬまで書き続けますよ。書かない寂聴なんて、なんの値打ちもない」

 1960年代以降、「田村俊子」「かの子撩乱」「美は乱調にあり」などを著し、時代に翻弄されながらも信念を貫いた女性を描いた。「夏の終り」をはじめ、自らの恋も赤裸々に表現した。98年には女性文学の最高峰「源氏物語」の現代語訳を完成。時代に先駆け、女性が活躍できる世の中を切り開いてきた。

 「女性が夕方からビールを飲めるし、結婚も離婚も自由。でも、まだまだよ。女性の政治家は少ない。子育ての負担は大きい。男女平等とまでいっていない」

 小説を書くことは、何もないところから新しいものを生み出す創作だ。相当なエネルギーがいる。近年は圧迫骨折やがん、心臓のカテーテル手術など入退院を繰り返しているが、書く情熱は尽きることがない。

 「95歳まで生きてきて、もう書けないと思ったことは一度もありません」

 その情熱が自らを社会活動にも突き動かした。湾岸戦争に反対して断食したほか、東日本大震災など巨大災害が起きれば被災地に駆けつけ、被災者を励ました。2015年の安保法制では、車いすで国会前に行き、抗議の声をあげた。あらゆる命を重んじる僧侶、戦争を知る作家の務めと考えるからだ。「戦争に、いい戦争はない。若い人たちに目覚めてもらいたいのよ」

 理想の最期は、ペンを握ったまま原稿用紙の上で死ぬこと。ただ、棺の中にペンや原稿用紙は入れないでほしい。「あの世でも書いて、という意味でしょ。そんなの嫌よ。向こうでは花を見て遊び歩きたいわ」

 朝日賞の授賞式は、車いすではなく、1人で歩いてステージに上がりたい。そのために、今まで以上にリハビリに力を入れている。=(岡田匠)

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 せとうち・じゃくちょう
 1922年、徳島市生まれ。57年「女子大生・曲愛玲」で新潮社同人雑誌賞。63年「夏の終り」で女流文学賞。73年中尊寺で得度。98年「源氏物語」現代語訳を完成。2006年文化勲章。朝日新聞に「寂聴 残された日々」を連載中。

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◆理論物理学者 甲元 真人さん/ひらめき 新物質の作成に道


川村直子撮影

 1980年代、有名な物理現象と「トポロジー」という幾何学を結びつけた。甲元さんの論文をきっかけに「トポロジカル物質」という分野ができ、表面だけ電流が流れる絶縁体など、全く新たな性質の物質が作られるようになった。

 2016年のノーベル物理学賞はこのトポロジーの理論の業績に贈られた。授賞理由で、特に評価されたのが受賞者の1人、米ワシントン大のデビッド・サウレス氏が甲元さんらと書いた82年の「TKNN論文」。甲元さんら著者の頭文字を並べ、そう称される。

 この論文のテーマは「量子ホール効果」。半導体で電流と垂直の方向に強い磁場をかけると、新たに生じる抵抗が飛び飛びの整数倍の値になる現象だ。なぜ飛び飛びなのかを示したTKNN論文は、研究者の間ではあまりにも有名で、この論文によって固体の性質を探る物性物理学にトポロジーの概念が導入されたと多くの人に誤解されている。実際は、論文中にトポロジーは登場しない。

 トポロジーは、物の形を連続的に変えても保たれる性質を調べる。例えば、ドーナツの表面に渦を描くと、全体に広がってつながらない。この特徴は、ドーナツを膨らませたり、縮めたりしてコーヒーカップの形にしても不変だ。球の表面は渦模様を途切れずに全体に広げられる。トポロジーの世界で、球はドーナツやカップと違うことを意味する。

 TKNN論文を書いた後、何か本質をつかんでいない違和感が残った。一人で考えるうち、量子ホール効果を単純化したモデルが、ドーナツの形だと気づいた。このアイデアをもとに、85年に単独で書いた論文で、トポロジーの意義を明確に説明した。ノーベル賞に値する業績という声もある。

 「TKNN論文をよく読んでいない人には、トポロジーの導入は私がその後に書いた論文だとなかなか理解してもらえないんです」と言う。=(鍛冶信太郎)

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 こうもと・まひと
 1950年、東京都生まれ。東京大工学部物理工学科卒。日立製作所中央研究所に勤務後、81年にシカゴ大博士課程修了。ワシントン大助手、イリノイ大助手、ユタ大助教授を経て、88年、東京大物性研究所助教授。2017年、仁科記念賞。

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◆睡眠科学者 柳沢 正史さん/なぜ眠くなるのか 解明が夢


相場郁朗撮影

 人はなぜ眠くなるのか――。人生の約3分の1を占める睡眠は、いまだに多くの謎に包まれている。その正体に迫る研究で、世界をリードしてきた。

 1998年、ラットの脳内で新しい神経伝達物質を見つけて発表した。おなかがすくと、この物質が脳内でできる量が増えたことから、「食欲」を意味するギリシャ語にちなんで「オレキシン」と名付けた。

 遺伝子操作でオレキシンを作れなくしたマウスを観察すると、奇妙な行動が起こった。動いていたマウスが突然バタッと倒れ、数十秒後に何事もなく起き上がる。人間の睡眠障害「ナルコレプシー」とそっくりの症状だった。100年以上も原因不明だったこの病気は、オレキシンの欠乏によるものだと判明した。

 オレキシンの量が増えると、覚醒中枢が活性化し、目覚めの状態が続く。分泌が減ると、覚醒が抑えられる一方、睡眠中枢の働きが強くなって眠くなる。「睡眠と覚醒の切り替えを制御しているのがオレキシンと分かった」。睡眠研究の核心に迫る成果だった。

 オレキシンの発見は新しい睡眠薬(一般名スボレキサント)の開発にもつながった。この薬は、脳内で分泌されるオレキシンの受け皿を塞ぐことで覚醒を抑え、自然な眠りを促す。2014年に発売されると、従来の薬に比べて依存性や副作用が少ない画期的な薬として、不眠症の治療に転換をもたらした。

 学生時代、臨床医になるか研究者になるか真剣に悩んだ。「科学は新しいことを見つけること、そのものに意味がある」という信念で研究の道を進んだが、「医学的に意義のあることを目指したい」という思いは胸に抱き続けてきた。

 10年からは、8千匹のマウスの脳波を測定して眠りの状態を観察するという膨大な作業の末、6年越しで睡眠に関わる遺伝子を見つけた。「ねむけとは何か。その本質を解明するのが私の夢です」=(佐藤建仁)

  *
 やなぎさわ・まさし
 1960年、東京都生まれ。88年筑波大大学院博士課程修了。米テキサス大サウスウェスタン医学センター教授兼ハワード・ヒューズ医学研究所研究員などを経て、2012年から筑波大国際統合睡眠医科学研究機構長。16年紫綬褒章。

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