朝日賞 - The Asahi Prize -

2018(平成30)年度 受賞者一覧


  ◆木庭  顕さん   政治・デモクラシー・法の歴史的基盤の探究
  ◆是枝 裕和さん   カンヌ映画祭最高賞受賞など、映画表現における達成
  ◆岡本 龍明さん   先駆的な暗号の設計と安全性理論の開拓
  ◆平野 達也さん   コンデンシンの発見と染色体構築に関する研究
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◆ローマ法研究者 木庭 顕さん/9条の意義、古代法から考察


北村玲奈撮影

 「法学者というより歴史学者」との自負がある。受賞は、恩師の恩師と仰ぐ原田慶吉(1949年度)以来のこと。「光栄です」と語る一方で「たいした仕事はしていません」。通り一遍の謙遜ではない。古代ギリシャ・ローマ以降の分厚い知的伝統に連なっているという矜恃が、この謙虚さを裏打ちしている。

 近著「憲法9条へのカタバシス」では、戦力の不保持を掲げる9条2項の意義を、ローマ法の「占有」原理にまでさかのぼって考察した。この原理のもとでは、領域が実際に侵害された場合に、これを防御することのみが認められる。そうした精神が、ギリシャ古典の「知」を礎にしたホッブズや、パリ不戦条約などを経て現在の9条に流れ込んでいるとみる。9条の普遍性と政治の本質を探る、遠大なスケールの論考だ。

 哲学や歴史を含む「文学」を極めるには「原典を厳密に読む訓練(クリティーク)、そして弱き個人と社会構造に向ける想像力の両方が必要」。いつの時代も、徒党を組む集団の前に犠牲になるのは個人だ。「最後の1人」の自由を守るために生まれた政治やデモクラシー、法を重んじる西洋の伝統が、「暴力がはびこる近年の世界の潮流と正反対の、極めて反時代的な営みになってしまった」と憂える。

 世界では人文主義的伝統の弱体化が著しいが、「しっかりした学問を対置し、知的な営みを再建するしかない」ときっぱり。「営々と数百年続く知的水脈」を受け継ぐ道を探る。

 若い世代との対話に、新たな希望を見いだしている。名作映画やギリシャ演劇などを題材に、法のなりたちについて中高生と討論、新著「誰のために法は生まれた」を編んだ。「若者たちが、自分たちの感性で的確に核心をとらえていくのはうれしい驚きでした。真の古典は力を失わないということを、再確認することができました」(大内悟史)

  *
こば・あきら
 1951年、東京都生まれ。東京大学名誉教授。専門はローマ法。著書に「政治の成立」「デモクラシーの古典的基礎」「法存立の歴史的基盤」(日本学士院賞受賞)3部作のほか「ローマ法案内」「誰のために法は生まれた」など。

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◆映画監督 是枝 裕和さん/「社会派」にとどまらず挑戦


石飛徳樹撮影

 パリのカフェで受賞の感想を聞くと「上がり、にならないよう、気を付けないと」と笑った。「幻の光」で劇映画を初監督してから24年。いや、その前のテレビのドキュメンタリー作家の時代から、一つの場所にとどまることを拒み続けてきた。

 昨年のカンヌ国際映画祭で、「万引き家族」が最高賞のパルムドールを獲得した。日本映画の受賞は21年ぶりという快挙だった。

 「誰も知らない」での子どもの遺棄、「そして父になる」での親子の血縁、といった過去の是枝映画をほうふつさせるテーマが多く含まれているため、今回の受賞報道では「集大成」という表現がよく使われた。しかし本人は「集大成という言葉は好きじゃない」と話す。「上がり」の印象を与えるからだ。

 「集大成」だけではない。レッテルを貼られること自体を好まない。彼にしばしば冠せられる「社会派」というレッテルについても、「その言葉から人々が思い浮かべるのとは違う形で、社会性のある映画を作っていきたいですね」。

 デビュー当時は、現実と虚構の境界を問い直すなど、先鋭的な手法の作品が目立っていた。このところはフジテレビと組んで、幅広い観客の心に刺さる作品に移行しているようにも見える。「万引き家族」はカンヌ効果もあって興行収入45億円という大ヒットになった。

 「興行成績を考えて作っているわけじゃありません(笑)。ただ、年齢とキャリアを重ねたことで、語り口がこなれて、柔らかくなってきたんじゃないかな」

 パリには、カトリーヌ・ドヌーブとジュリエット・ビノシュという世界的なスター女優が共演する、全編フランス語の映画を撮りに行った。「やりたいことはたくさんある。それをどう実現していくか。今から5年が勝負だと思っています」。新たな挑戦は続く。(編集委員・石飛徳樹)

  *
これえだ・ひろかず
 1962年、東京都生まれ。早稲田大卒。ドキュメンタリーの演出を手がけた後、「幻の光」で劇映画デビュー。数々の国際映画祭に参加し、受賞多数。14年、「そして父になる」で芸術選奨文部科学大臣賞。

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◆NTTフェロー 岡本 龍明さん/情報守る暗号 科学的に研究


池田良撮影

 インターネットを使っていると、ブラウザーのURL欄の先頭に「錠前」のマークがついているのに気づく。第三者が個人情報やデータを盗めないように通信が暗号化されていることを示している。こうした暗号分野の研究で世界をリードしてきた。

 暗号は古くから「秘密の情報」をやり取りする際に用いられてきた。安全性が第一だ。1976年に米国の研究者が「公開鍵暗号」という数学を多用する新しい考え方を発表。翌年、それをベースにした具体的な数式で暗号が作られた。ただ、十分に安全性が保証されているといえなかった。

 当時、暗号はパズルのようなものだった。新しい暗号が公表された途端、解かれてしまうこともよくあった。「暗号をパズルから一歩抜けだした科学にできないか――」。想定される攻撃のモデルを使って、少しの情報も漏らさないために必要な条件を研究した。

 90年代後半、公開鍵暗号を理論上最強の攻撃に対しても一切の情報を漏らさない暗号に変換する方法を発表した。この方法を使って考案した別の暗号は、国際標準規格「ISO」の認証を受け、欧州連合(EU)の推奨暗号リストで1位になった。暗号研究者として国際的に評価されている。

 世の中では暗号理論を用いて取引の安全性を確保した仮想通貨が普及し始めている。その代表例の「ビットコイン」は「サトシ・ナカモト」と名乗る謎の人物が生みの親だ。「オカモト」と「ナカモト」で名前が似ているからか、海外の学会に参加した際、「あなたがナカモトか?」とよく聞かれる。ネット上にも疑う声があるが、笑顔で否定する。

 「暗号は数学というこの世の真理が実用と結びつく接点。30年間研究してもいまだに魅了され続けている」(田中誠士)

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おかもと・たつあき
 1952年、愛媛県生まれ。76年、東京大学工学部計数工学科卒。78年、日本電信電話公社入社。99年からNTTフェロー。2007~18年、NTT岡本特別研究室長。12年、紫綬褒章。15年、国際暗号学会フェロー。

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◆理化学研究所主任研究員 平野 達也さん/生命の設計図 仕組みを追求


西岡臣撮影

 染色体はあらゆる生物に欠かせない「生命の設計図」だ。状況に応じてX字形やひも状などに形が変化する。「染色体構築」と呼ばれるこういった形の変化はどのように起きているのか――。19世紀以来の謎の解明に向けた研究で、世界的に貢献してきた。

 若いころから一貫している研究に臨む姿勢は「人と違うことをする」。1990年代、多くの研究者が染色体構築に関係する遺伝子を探したのに対し、「試験管内で染色体構築を再現しよう」と、新たな実験系の開発に取り組んだ。

 そして94~97年、染色体構築に欠かせないたんぱく質を発見した。5種類のたんぱく質の巨大な複合体で、染色体を凝縮させる働きがあった。凝縮を意味する英語にちなみ「コンデンシン」と命名した。さらに、染色体構築に欠かせない別のたんぱく質も見つけた。複製された染色体を接着する機能があった。一足先にたんぱく質の遺伝子を見つけた英国人研究者が「コヒーシン」と名付けた。

 その後の研究で、コンデンシンとコヒーシンが染色体構築の主役であるとわかった。がんなどの病気との関連も明らかになりつつあり、他領域でも注目を集める。

 2015年、コンデンシンと5種類のたんぱく質だけあれば試験管内で染色体ができると証明し、多くの研究者を驚かせた。複雑な染色体をゼロから作ろうと試みた研究者はそれまでいなかった。

 子どもの頃の夢は画家。今、絵の才能は、研究内容を図に描いたり、会議中にこっそり参加者の似顔絵を描いたりする際に発揮されている。染色体構築の仕組みは、「どう描こうか悩む部分がまだある」と言う。「一つわかると新たに10個の疑問が出てくる。完全な図が描けるようになるまで研究を続けたい」(大岩ゆり)

  *
ひらの・たつや
 1960年、千葉県生まれ。89年、京都大学大学院理学研究科博士課程修了。95年から米国コールド・スプリング・ハーバー研究所で研究室を主宰。2003年に同研究所教授。07年から理化学研究所主任研究員。

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