朝日賞

2008年度 朝日賞
 ◆「踊る粒」細胞に見つけた 大隅良典さん(63) 細胞生物学者

大隅良典 どんな生き物も、食べ物がなければ飢える。人間なら1日絶食しただけで、肝臓が4分の3に縮んでしまう。
そのとき、細胞の中では飢えをしのぐ仕組みが働いている。細胞内のたんぱく質を分解し、エネルギー源に再利用したり、省エネ型のたんぱく質に作り替えたり。この「オートファジー(自食作用)」と呼ばれる仕組みの実態を、世界に先駆けて解明した。
1988年4月。43歳で初めて、東京大教養学部に自分の研究室を構えた。専従スタッフもなく、「顕微鏡と、細胞の培養器くらいはあったかな……」。
約2カ月後、顕微鏡で酵母の細胞の中の「液胞」を見ていたら、たくさんの小さな粒が、踊るように跳びはねていた。「これは絶対、面白い」。高倍率のレンズを買いに走った。
「踊る粒」は、まさに分解直前のたんぱく質だった。だれも見たことがなかった現在進行形のオートファジーが、目の前で起きていた。「生命力にあふれる躍動は、何時間見続けても飽きなかった」
この発見を機に、オートファジーにかかわる遺伝子を一気に14個も特定。各遺伝子の指令でつくられるたんぱく質の働きも調べあげ、生物が進化の中で築いてきた「リサイクル」の仕組みを、分子レベルで解き明かしていった。
96年に基礎生物学研究所(愛知県岡崎市)に移ると、研究室には哺乳類や植物が専門の若手も集まり、研究の幅が広がった。がんや免疫不全、神経性疾患などとの関係が明らかにされつつあり、細胞が健康に生まれ、育ち、老いていく過程で、極めて重要な役割を担うこともわかってきた。
顕微鏡で、自然が引き起こす現象を追うのが好きだ。成果があがらないときも「自然に聞いてみよう」と、レンズの先の世界を見つめてきた。競争重視で、じっくり基礎研究に取り組めない日本の「いま」を憂う一方、若者にも注文がある。「人と違うことをやって結果を出してやる、ぐらいの気概がほしい」。

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おおすみ・よしのり 1945年、福岡市生まれ。67年、東京大教養学部卒。74年、理学博士号取得。東京大教養学部助教授などを経て、96年から基礎生物学研究所教授。05年藤原賞、06年日本学士院賞。還暦祝いに研究室のスタッフらから贈られた赤い自転車で出勤し、仲間と杯を交わす時間も大切にする。


2008(平成20)年度
水木しげる詳細へ 妖怪や戦争を題材とした幅広い創作による漫画文化への貢献
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