朝日賞

2009年度 朝日賞
 ◆「厳密なSF」面白い 深谷賢治さん(50) 数学者

深谷賢治さん ばりばりと道を切り開く独創的な数学者と評される。

 「数学はSFを厳密にやるようなもの。妄想みたいに考えたことが、証明によって確固としたものになっていくから面白い。勝手なことが許されない現実の手応えがある」

 中学時代から、天文や物理など科学の本を好んで読んだ。数学に関心を持ったのは高校時代。授業で習う問題を解くより、直感がきかない現代の数学が気に入った。

 幾何学はものの形や空間を扱う数学。力を注ぐシンプレクティック幾何学は1990年代以降に大きく発展した分野で、物理学とのかかわりも深い。93年、後に「深谷圏」と呼ばれる概念をセミナーで発表。これを聞いたロシア出身の数学者が新たな予想を打ち出し、注目の的となった。

 見た目の違う別々の圏(数学的なまとまり)が、鏡に映したように同じ値をもたらす「ホモロジー的ミラー対称性予想」。宇宙を統一的に説明しようとする物理学の「超弦理論」とつながる考え方だ。片方が別の幾何学で知られていた圏、もう片方が深谷圏。違う手法の意外なつながりが見え、研究が広がった。

 深谷圏の厳密な解明は小野薫北海道大教授、太田啓史名古屋大教授らの共同研究者と取り組んだ。「穴を埋めていくと新しい考え方も膨らんでいく」。合宿で議論が盛り上がり、宴会と勘違いした客に注意されたこともあった。その成果の出版にこぎ着けたのは昨年10月。最初の発表から16年かかった。

 この間、ミラー対称性予想も一部の証明が進んだ。「SFが現実に近づいてきた」と感じている。

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ふかや・けんじ 1959年生まれ、横浜市で育つ。81年東京大理学部数学科卒、83年同大大学院理学系研究科修士課程修了。83年同大助手、87年同大助教授。94年から京都大教授。2003年日本学士院賞、09年12月から日本学士院会員。著書に「数学者の視点」「これからの幾何学」「シンプレクティック幾何学」など。


2009(平成21)年度
伊東豊雄詳細へ 現代建築における空間表現の可能性を広げた業績
野田秀樹詳細へ 新しい現代演劇の開拓と海外交流の推進
深谷賢治詳細へ シンプレクティック幾何学の研究
豊島近詳細へ カルシウムポンプ作動機構の解明
諏訪元詳細へ ラミダス猿人など初期人類の進化に関する研究