朝日賞

2009年度 朝日賞
 ◆「長大な時間」思いはせ 豊島近さん(55) 構造生物学者

豊島近さん 動物の機敏な動きを支える筋肉の伸び縮み。その仕組みに欠かせないたんぱく質の構造と働きを原子のレベルで明らかにした。

 きっかけは物理を学んでいた大学3年の時に見た電子顕微鏡写真。筋肉をつくる線維の精巧な構造に魅せられ、もっと細かく見たいと思った。

 電子顕微鏡に続いて挑戦したのが、カルシウムを細胞中の貯蔵庫に運びこみ、筋肉が伸びる仕組みを支えるたんぱく質のX線解析だ。

 難関は試料の結晶作り。他の研究室が避ける強いにおいの薬品を使うなど、あらゆる方法を徹底的に試して成功、複雑な立体構造が見えた。だが、それだけでは、どのように動くのかはわからない。

 たんぱく質が取りうる構造を考え、いくつも結晶を作って解析、画像化した。らせん型の部品がダイナミックに動き、手押しポンプのようにカルシウムを押し込む様子が見えた。

 たんぱく質を作るアミノ酸一つひとつが重要な役割を果たす。何億年もの進化の積み重ねでできた究極のデザインだと思った。「私が20年近くかかって解いたのはたかだか1個だが、体の中には何万もたんぱく質がある。自分が存在する前に流れた長大な時間を思うようになった」

 秋田で育った少年時代、家庭科教師の母と兄とともに家で実験をし、プラモデルや木工作に夢中になった。

 自分にない技術をもつ人をスタッフにして、徹底的に学び、自分のものにしてきた。今も人にまかせず、兵庫県にある大規模な実験施設に通う。データが出てくる瞬間が、最も興奮する時だという。

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とよしま・ちかし 1954年、秋田県生まれ。78年東京大理学部卒。83年同大大学院博士課程修了。84年同助手。86年米スタンフォード大博士研究員、88年英MRC分子生物学研究所研究員、89年理化学研究所国際フロンティア研究員。90年東京工業大助教授。94年から東京大分子細胞生物学研究所教授。米科学アカデミー外国人会員。


2009(平成21)年度
伊東豊雄詳細へ 現代建築における空間表現の可能性を広げた業績
野田秀樹詳細へ 新しい現代演劇の開拓と海外交流の推進
深谷賢治詳細へ シンプレクティック幾何学の研究
豊島近詳細へ カルシウムポンプ作動機構の解明
諏訪元詳細へ ラミダス猿人など初期人類の進化に関する研究