朝日のびのび教育賞2000年の受賞団体

地域舞台に独自の視点 第2回「朝日のびのび教育賞」、5団体受賞

2000年11月04日

写真贈呈式・受賞者たち

 朝日新聞社が創刊120周年を記念して創設した第2回「朝日のびのび教育賞」に、5つの団体が決まった。それぞれ学校と地域を舞台に、多くの人々が連携し、ユニークな視点と確かな実践ですばらしい教育的成果を上げている。子ども、学校を取り巻く環境は厳しさを増し、課題も山積しているが、21世紀に向けた新しい教育のあり方を考える上で、各団体の活動は示唆に富んでいる。活動の一端を紹介する。


環境 皆で守る「学校の森」 板橋区立金沢小学校(東京)

写真朝日のびのび教育賞を受賞した板橋区立金沢小学校

 校門から真っすぐケヤキの並木道が延びている。

 繁華街の東京・池袋にほど近く、周りには中層、高層住宅が立ち並ぶ。

 典型的な都会の学校でありながら、金沢小には、「森」のある学校という、もう1つの顔がある。

 校舎の裏手、うっそうとした木々の茂みは「果実の森」と名付けられている。アンズ、カリン、スモモ、カキ、ナツミカン……収穫した果実は、子どもたちの手でジュースやマーマレードに加工する。

 敷地内の樹木は計80種、2000本を上回る。元々は、都市の学校に緑の潤いを与える区の「学校の森」構想に沿って、大型樹木を植えたことから出発した。

 やがて、先生たちが、環境教育の格好の素材として「森」に着目する。改めて1本1本の名前を調べて樹木マップを作製。「学年の木」(例えば1年はイチョウ、ビワ)を織り込んだ軽快なリズムの歌「ラップ オブ 金沢」もつくった。学年末に、理科で育てた野菜の種などを下の学年に譲る恒例の行事が開かれるが、全員で唱和するラップの歌が雰囲気を盛り上げる。

 4年前の秋、グラウンドに立つポプラの大木が台風で傾きかけ、危険なため伐採する案が出た。その時、ポプラが学年の木になっている5年生が「切らないで」と声を上げ、それが全校に広がった。結局、つっかい棒で幹を支える方法でポプラを保存した。

 「身近な自然に親しみを寄せる気持ちが子どもたちの間で徐々に育ってきたようです」と高山厚子校長は話す。

 グラウンドの横にサツマイモ畑がある。収穫したサツマイモは大学イモなどに調理し、一部を隣の老人ホームのお年寄りに届ける。ホームとの交流は、運動会などに招いたり、反対に、子どもたちが訪問したり、年々深まっている。

体験 野山を「教室」に冒険 遊び塾「ありギリス」(福岡)

写真1泊2日の山中での生活。飯ごう炊さんで作った夕食を食べる子どもたち/ 写真提供・小田切直人さん=福岡市西区のキャンプ場で

 「ワーッ、クモだっ!」 福岡市内のキャンプ場の森の中。好奇心いっぱいに目を輝かせた子どもたちの声が響きわたる。

 ありギリス塾は毎月1回、週末に「森の自然体験学校」として1泊2日のキャンプを開く。正会員の小学1年から中学3年までの約20人が参加する。合言葉は「冒険しよう」だ。

 木の実を拾ってパン作りに挑戦したり、まきを集めて火をおこして飯ごう炊さんをしたり。マッチを一度も擦ったことのない子もいれば、寝袋に1回ももぐったことがない子も。

 虫だらけのキャンプ場で「もう、こんな所には来ん!」と泣きべそをかいていた男の子が、次の年には先頭に立って歩く。

 塾には賛助会員の小中学生約30人もいる。こちらは2カ月に1回、1泊2日で、いかだで無人島に渡ったり、沢を上流にたどっていく「源流体験」をしたりと、様々な活動をしている。

 まわりの大人は原則として、子どもの「冒険」に口出ししない。大学生のボランティアらも参加するが、安全の確認など必要最低限の役目に徹している。

 塾長の小田切直人さん(55)は、元公立小学校の教師。当時勤めていた小学校でも、いかだ下りなど、ユニークな課外授業をしていた。だが、その「破天荒な教育」が、公立校にあまりなじまなかった。

 自らの理念を貫くことに限界を感じ、1989年に教職を辞め、その1年半後に塾を開いた。

 「日常生活を忘れて、みんなで思いっきり野良になろう」。小田切さんは子どもたちにそう呼びかける。

 ありギリスはいま、海外にも飛び出している。

 韓国の子どもたちとのキャンプ交流、中国・内モンゴルの草原をテント生活をしながらの60キロ踏破のほか、ネパールの小学校に絵本を贈る事業も展開している。

伝統 歌舞伎通し内外に目 設楽町立田峯小学校(愛知)

写真「白波五人男」を演じる田峯小の子どもたち=愛知県設楽町の田峯城内で

 「隅から隅まで、御願いあげ奉ります」

 名古屋市から車で2時間。愛知県設楽町の田峯(だみね)城内の舞台に、歌舞伎の衣装を身にまとい、化粧をほどこした田峯小の児童が登場した。

 全校児童10人のうち3年生以上の7人が、この日初めて「白浪五人男」を披露した。全員が七五調のせりふ回しで20分間、一度も間違えずに演じ切った。

 5年生の原田翔太君(11)は、「プロのビデオを見たり、おなかに力を入れて、ふろの中でせりふを言ったりして練習しました」と話す。安藤歩さん(11)は、一瞬動きを止め、絵姿のようになってにらむ「見得(みえ)」が、「何回練習しても一番難しかった」と振り返る。 同町内では、谷高山高勝寺(やたかさんこうしょうじ)の奉納歌舞伎が350年間、継承されてきた。大人たちは「谷高座」という歌舞伎座をつくり、毎年2月に上演してきた。だが、年々町外へ出る若者が増え、存続の危機に。「次の世代を育てよう」と1979年、子ども歌舞伎が加わった。

 練習は公演1カ月ほど前から始まる。今回の公演前は、土、日を除いて午後7時から1時間半、小学校の講堂で練習した。

 先生役は、谷高座のメンバーで同町の産業振興課長の七原明郎さん(52)ら6人。せりふの意味をすべて理解するのは難しいので、七原さんたちがやさしい言葉に置き換えて場面を理解させている。

 振付師の市川寿々女(すずめ)さん(63)は、30年ほど同町の歌舞伎にかかわってきた。市川さんは「田峯小の子どもたちは、周りの大人たちの歌舞伎を見ながら育っているので覚えが早い」と説明する。

 同小には、戦前に日米友好のしるしとして日本に贈られた「青い目の人形」が保存されている。人形が作られた米国オハイオ州デイトン市の小学校と姉妹校となり、過去4回も公演に出かけた。

 田峯小の金田哲司教頭は「山間の狭い地域なので子どもたちは内弁慶になりがちだが、歌舞伎を通して大きく成長をしている」と話す。

演奏 プロの指導で自主性 JMIAジュニアジャズオーケストラ(北海道)

写真プロのジャズメンと熱のこもったセッションを披露したメンバー=旭川市大雪クリスタルホールで

 土曜日の昼下がり。北海道旭川市内の中学校の音楽室から、「パリの4月」などのジャズの定番のメロディーが流れてきた。 演奏するのは、市内や近郊の小学四年から中学3年までの45人。普段はそれぞれの学校で吹奏楽部などに所属するが、月に1回、プロの演奏家から手ほどきを受けている。

 「テンポがずれちゃった」と笑う児童。サックスで即興演奏をする生徒。その場に、伸びやかで自由な空気があふれていた。

 オーケストラ結成は1998年。市民有志が開催しているジャズ演奏会「ジャズマンス・イン・旭川」(JMIA)に招かれたジャズ界の巨匠、米国・バークリー音楽院副校長のゲーリー・バートン氏が提案し、同市在住のベース奏者、佐々木義生さん(45)らが実現させた。

 活動は、毎月の練習のほか、年2回の定期演奏会などが中心。今年3月には合宿も行い、土岐英史さんら日本を代表するジャズメンが講師を務めた。合宿後、子どもたちはこんな感想を寄せた。「アドリブ(即興)はみんなの個性が分かって面白い」「世界でたった一つの僕だけのメロディーに自信を持てた」

 今年6月のJMIAでは、米国から招いた自閉症児のジャズバンドと競演。会場には養護施設の子どもらも駆け付け、立ち見まで出た。グレン・ミラーのナンバーなどで巧みに掛け合いを演じ、会場は沸いた。

 佐々木さんは「音楽の創造性や楽しさを感じ取ってほしい」という。

 「父母の会」が出来て練習を積極的にサポート。「活動を始めてから共通の話題ができ、子どもが自分の意見を主張するようになった」などの声も上がる。

 オーケストラを「卒業」した高校生たちも自主的にジャズバンドを結成した。

互助 情報交わし健全育成 あいりん子ども連絡会(大阪)

写真鼓笛隊の練習をする子どもたち=大阪市西成区萩之茶屋1丁目の萩之茶屋小学校で

 「あそこのお母さん、入院したそうやけど、その子どもは大丈夫やろか」

 子どもたちを健やかに育てるために協力していこうと、大阪市西成区のあいりん地区で教育や福祉、医療などに取り組む機関などがつくる「あいりん子ども連絡会」は月1回、会合を開く。子どもたちの家庭の事情などについて情報交換し、対応策を考える。官民の枠組みを超えた取り組みだ。

 あいりん地区は、かつて「釜ケ崎」と呼ばれた日雇い労働者の町だ。様々な事情から知人や親類にも知らせないままこの地区へやってきた家族や、仕事を求めて来日したものの、日本語がほとんど話せない外国人の家族などもいる。 連絡会は1995年、私立わかくさ保育園の小掠昭園長の呼びかけで結成された。小中学校や保育園、保健センター、社会福祉法人、非政府組織(NGO)など16団体が参加する。「子どもたちについて突っこんだ相談ができる信頼関係をつくってきた」と小掠園長は言う。

 連絡会には簡易宿泊所などからも、新たにやってきた家族や子どもの情報が入る。親が転入や転校の手続きをしていなくても、子どもを地域の小中学校や保育園に転入させる手続きを進める。

 こうした地域で育つ子どもたちに自信と誇りを持たせようと、連絡会に参加する各団体は音楽やスポーツなどの課外活動にも力を入れている。 市立萩之茶屋小では、3年生以上の児童らによる鼓笛隊の活動が活発だ。お祭りや体育祭などに欠かせない存在で、昨年秋には大阪市長から表彰された。放課後の子どもたちが集まる児童館「今池こどもの家」の卓球クラブは、九七年に全国大会で優勝。強豪チームとして知られている。