朝日のびのび教育賞2001年の受賞団体

地域独自の視点で活動 第3回「朝日のびのび教育賞」6団体受賞

2001年10月31日 朝刊

写真贈呈式・受賞者たち

 朝日新聞社が創刊120周年を記念して創設した「朝日のびのび教育賞」の第3回受賞団体(計6団体)が決まった。いずれも、学校や地域を舞台に、大勢の人々が手を携え、はつらつとした子どもを育ててきた。新学習指導要領への移行に伴い、来春から小中学校で総合的な学習が始まるなど、教育の姿が変わろうとしている。多様でユニークな活動には新しい教育を考える重要な手がかりがありそうだ。各団体の横顔を紹介する。


公園 国内初「冒険遊び場」 羽根木プレーパークの会(東京)

写真擦り傷を負いながらも、楽しく遊ぶ子どもたち=東京都世田谷区で

 10月半ば、土曜日の羽根木プレーパーク。でこぼこの傾斜地はまるで山中のキャンプ場だ。たき火の煙がもくもく上がる。廃材をノコギリで切る音が聞こえる。大木によじのぼる子。綱渡りをする子。「チッチーのチ!」。掛け声とともにベーゴマを回す子もいる。

 日本第1号の「冒険遊び場」、羽根木プレーパークは、世田谷区の区立公園の一角にある。広さ、約3千平方メートル。まわりは静かな住宅地だ。

 お仕着せの遊具は置かれていない。禁止事項もない。看板に、こう書いてある。〈自分の責任で自由に遊ぶ〉。若いスタッフ2人が常駐し、道具をそろえ、遊び相手になりながら、ぎりぎりのところで子どもの安全を守っている。

 冒険遊び場はデンマークで生まれ、欧州に広がった。それを知った世田谷区の親たちが夏休みの子どものために小さな遊び場を用意した。やがて常設の遊び場を求める声が高まり、79年、区が場所と資金を提供し、住民が運営する方式でプレーパークが発足した。 プレーパークの会(福島智子会長)はその住民組織。世話人を中心にイベント開催、資金集めなど活動は多彩だ。

 近年、冒険遊び場づくりが全国で盛んになっている。「羽根木」で培った豊富な知恵が各地の試みに生かされている。

自立 児童先頭に蛍の里 藤原町立立田小学校(三重)

写真ホタルの飼育小屋で幼虫の世話をする立田小の児童たち=三重県藤原町で

 三重県の北端、岐阜と滋賀の県境に接する山の中に立田小学校はある。最近、このあたりは「ホタルの里」として知られてきた。

 10月初め、5年生8人が、6月にできた飼育小屋「光のおうち」で幼虫の成長を調べた。

 脱皮中のものがいる。「前にも見た」。子どもたちはけろっとしている。ここに赴任して4年目の出口記美子先生が「勉強しないと子どもの知識についていけない」と笑った。

 児童数が減り、地域は85年ごろ、外から子を迎える山村留学を考え始めた。教師たちが、ここの自慢は何だろうと考えていた88年、近くの川でホタルが大発生した。「これだ」。ホタルを育てるきっかけになった。

 最初の93年こそ教師が中心になったが、翌年から子ども主導。上級生が下級生に育て方を伝えている。卵から幼虫になって自然の流れにかえされる率はほぼ4割。飼育器具の業者も驚く高さだ。

 毎年、ホタルが飛ぶ季節になると、地域の人を招待し、6年生が観察結果を発表する。最近は川の汚染度を調べるなど、観察の対象が学校の外へ飛び出している。地域の人も、田畑の農薬を控えたりして協力してくれるようになった。藤岡玉樹校長は「ホタルはもちろん、山の神などの伝統行事でも地域とのつながりを深めていきたい」と話している。

交流 足元から世界親しむ 名古屋市立井戸田小学校(愛知)

写真オーストラリアから迎えた小学生とダンスを楽しむ子どもたち=名古屋市瑞穂区の井戸田小で

 10月、交流校の一つ、オーストラリアのオークヒルドライブ小学校の児童が井戸田小を訪れた。「ウエルカム トウ イドタ!」。体育館で開かれた歓迎会で子どもたちは一緒にダンスを踊ったり、英語の歌を歌ったり。すぐに打ち解けていった。「言葉や肌の色、服装などの違いにものおじしないで、外国人と接することのできる児童にしたい」(柴田勇校長)と同校が四半世紀にわたって続け、発展させてきた国際交流活動だ。

 交流校は5カ国9校に広がる。交流校の子どもらから送られた絵画や手紙、メールなどが壁に張り切れないほど並ぶ。同校を訪れた外国人は名古屋在住の留学生を中心に30カ国、160人。昨年はモンゴル人力士旭鷲山関もやってきた。子どもたちは自然な形で「外国」に慣れ親しんでいる。

 99年度からは英語活動を始めた。総合学習の時間では、3年生が地元の商店街を歩き、外国人が買い物をしやすくするにはどうしたらいいかを調べるなど、足元の地域から世界を学ぶ。

 12月には光ケーブルを利用したテレビ会議システムが動き出す。「動画リアルタイム」での交流が実現する。地域を学び、世界の文化と言葉を学び、実際に交流を重ねるという活動が、いい形で結びつき始めている。

栽培 広島菜から地域学ぶ 広島市立川内小学校(広島)

写真広島菜をトラックに積み込む子どもたち/写真提供・川内小学校=広島市安佐南区で

 「こんなに大きく育ったよ」。今年2月。長さ1ミリ足らずの種を植えてから3カ月とちょっと。重さ約2キロにもなった広島菜に、川内小児童の歓声が上がった。

 広島市安佐南区の川内地区は、市中心部から北へ車で約20分。漬物で知られる特産・広島菜の発祥地だ。 同小では約750平方メートルの農園を無償で提供を受け、3年生が栽培に取り組む。4年生は栽培に用いる農業用水の由来を調査する。5、6年生は広島菜のルーツをはじめ地域の歴史や文化、自然環境を学ぶ。

 10数年前、理科の授業で農園を借りたのがきっかけ。子どもたちに「地域への愛着と生活者としての自覚」を持ってもらおうと、95年ごろから本格的に取り組んだ。

 川内地区では戦時中、男たちが市中心部の「建物疎開」に駆り出されて被爆、ほとんどの子が父親を亡くした。そんな悲劇から戦後、地域と学校が連携して子育てに取り組む伝統が生まれた。

 現在、学校の「人材バンク」に老人会や婦人会などから300人以上が登録する。広島菜栽培などの講師を買って出る。永松茂野校長(57)は言う。「人と触れ合い、自然にまみれることで、本当の生きる力が身に付くと信じています」

環境 皆で守る「地元の海」 北九州市立曽根東小学校(福岡)

写真ゴミ袋を手に、干潟の清掃活動をする子どもたち=北九州市で

 秋晴れの土曜日。潮の香りが心地よい北九州市の曽根干潟に、コンビニのポリ袋を手にした曽根東小の子どもたちがやってきた。きょうは、干潟のごみを拾う「曽根干潟クリーン作戦」の日だ。

 同小から歩いて10分ほどの曽根干潟は、生きた化石「カブトガニ」の生息地で、希少種のズグロカモメも越冬する野生生物の宝庫という。1回の清掃で集まるごみは150袋分。「なんで海に捨てるのか理解できん」と怒るまじめな子どものそばで、ピカピカに光るカブトガニの甲羅や電気ウキの「お宝」を見つけて歓声をあげる子どもたちがいた。手伝う保護者らも楽しそうに笑っている。

 奥庚一郎校長は「8年前、児童が釣り糸に絡まった野鳥を発見して救出し、『干潟をきれいにしよう』と呼びかけたことがきっかけ」と話す。いまでは、PTA、老人会、漁協なども参加する地域の活動に育った。

 自然は、子どもたちにステキな恩返しをした。ごみを取り除いた結果、カブトガニが産卵のために上陸し始めたのだ。学校の近くの水路に絶滅危ぐ種のニッポンバラタナゴが生息していることを見つけ、地元の自然保護団体や研究者らを驚かせた。校内には、干潟の生物を集めた「曽根干潟の部屋」もある。クリーン作戦は地球環境を学ぶ場になっている。

観察 ネットで農作業体験 大潟村インターネット学校菜園活用委員会(秋田)

写真贈呈式・大潟村インターネット学校菜園活用委員会

 「あっ、ここだ、ここだ」。10月中旬、秋田大付属小学校=秋田市=のメディアルーム。マウスを操作していた田口翔也君(10)がうれしそうに声に出した。画面が映し出したのは、収穫を間近にした緑豊かなそば畑。田口君たち5年生114人が、今年6月下旬に植えたそばだ。

 畑は秋田市から50キロほど離れた同県大潟村にある。田口君たちはそばの成長の様子をインターネットで観察してきた。下旬には実際に収穫作業を体験する予定だ。

 敷地の小さな都市部の学校の子どもたちに農業体験の場を提供しているのは、同村教委が進めるインターネット学校菜園事業だ。村の貸し農場で作業体験させると同時に、農場にカメラを設置、作物が育つ様子を観察できるようにした。

 日々の農作業は地元農家の人たちが担当する。子どもたちの疑問にはメールで応じている。今年度は県内の10校が参加。子どもたちは種まきや収穫などのために年に4、5回は農場を訪れる。

 「実際に日々の世話をしないので無責任になるのでは……」。地元の当初の不安をよそに、休日、草むしりにやってくる子どもたちも多い。付属小では農家の人たちを招待し、収穫したそばをごちそうする予定だ。田口君は「農作業の苦労はパソコンでもわかった。おいしいおそばでお礼したい」と話していた。