朝日のびのび教育賞2003年の受賞団体

地域密着、活動に成果 第5回「朝日のびのび教育賞」6団体受賞

2003年11月04日 朝刊

写真のびのび賞祝賀会にご出席の皇太子ご夫妻

 朝日新聞社の第5回「朝日のびのび教育賞」に、6団体が決まった。それぞれ学校、地域の人々が手を結び、創意や工夫に満ちた活動を通じ、成果をあげている。子どもを取りまく環境は厳しさを増し、たくさんの課題を抱えるなか、教育の針路を考えるうえで貴重なヒントが含まれる各団体の活動を紹介する


中古車いすを世界に贈る 栃工高国際ボランティアネットワーク(栃木)

写真来日した車いすの利用者に、修理する様子を見せる福祉機器製作部の生徒たち=栃木県栃木市の栃木工高で

 栃木県立栃木工業高校の倉庫には、中古の車いすが所狭しと並ぶ。県内外の病院や福祉団体などで使い古されたこれらの車いすを修理し、東南アジアなどに送り届ける活動を続けている。これまでに21カ国に約1520台を贈った。

 きっかけは同校創立30周年を控えた90年だった。「工業高生が持っている技術でボランティア活動ができないか」と考え、生徒らが近隣の養護学校の遊具を直したり、自作の福祉機器を研修旅行でタイに出向いて届けたりした。

 そんな折、県内に住むタイ人の障害者が日本の中古車いすを集めて本国に送る際、保管と修理を同校に依頼してきた。生徒たちが「空飛ぶ車いす」と呼ぶ活動は、こうして始まった。

 活動の中核となるのは福祉機器製作部だ。非政府組織(NGO)などと組んで担当。生徒会や福祉委員会は地元の養護学校や老人ホームに出向いて交流会を開き、募金活動も行う。全校をあげて地域と海外でのボランティア交流を両立させている。同部員らは毎年、タイの福祉施設に出向き、現地で障害者の車いすを直す「タイボランティア活動」も続けている。

 前部長の須藤誠さん(18)=3年=は2年連続でタイを訪れた。大事そうに扱うタイの障害者の姿が焼き付いている。「だからこそ、僕らも力の限り直させてもらおうと思った」と話す。

肌で音感じ、調和奏でる 豊ろう少年太鼓(愛知)

写真体で音を感じながら太鼓の練習をする豊ろう少年太鼓のメンバー=愛知県豊橋市の県立豊橋聾学校で

 「ツクドン、ツクドン、ツクドンドン」

 リズムを口ずさむ加藤亜紀子先生に合わせて、子どもたちが太鼓をたたきだす。他のグループが次々と音を出し始めると、まるで体育館全体が振動しているかのようになった。

 毎週金曜日の6時限目、愛知県豊橋市の県立豊橋聾(ろう)学校で行われている「総合的な学習の時間」(総合学習)の太鼓授業の様子だ。参加しているのは小学3年から6年までの計20人で、「豊ろう少年太鼓」のグループ名を持つ。

 太鼓演奏活動は93年、和太鼓2台を購入したのが始まりだ。当初は経験者もなく、職員が夏休みに、県内の太鼓のプロ集団から指導を受けるなどして基本技術を習得、子どもたちに指導した。

 聴覚障害を持つ子どもたちがリズムを合わせるのは大変だ。職員が指揮者のようにばちの動きを示し、「ツク」「ドン」などと音を口ずさむ。その動きを読みとり、合わせていく。次第に音を肌で感じ、体で表現する喜びを覚えていった。

 いまでは、笛やかねを組み合わせるなど調和のとれた演奏もできるようになり、地域の祭りや老人ホームの慰問演奏にと引っ張りだこだ。

 今春からは総合学習にも採り入れた。大井真校長は「障害を乗り越え、何事も前向きに挑戦していく意欲も芽生えている。社会参加の効果も大きい」と話す。

自然の中で子ども育成 伊座利校(徳島)

写真ヒジキを採る伊座利校の子どもたち=徳島県由岐町で

 「気いつけて渡れよ」。5月上旬のある日、漁師の大きな声が響いた。

 伊座利(いざり)校の子どもたちは漁船で岩場へ向かった。腰まで海につかりながらカマでヒジキを刈る。湯で煮たり、天日干しをしたり、1カ月ほどの作業の後、日曜市で販売する。

 指導するのは「ヒジキ作りの名人」と言われるおばあちゃんだ。

 徳島県の南部、由岐町立伊座利小と由岐中伊座利分校の総称が「伊座利校」だ。計15人のへき地校。地元生まれは1人だけで、ほかは他地域から来た子どもだ。

 地区にはかつて、約400人が住んでいた。いまでは約50世帯約100人。過疎化に危機感を募らせた。地域のあり方を考える中で「伊座利校の灯を消すな」と、全国に「留学」を呼びかけた。

 転校希望者の中には非行に走った「問題児」もいる。受け入れは地元でとことん話し合ったうえで決める。学校任せではなく、地域で面倒をみようというのだ。

 漁師さんたちは「おっちゃん先生」と呼ばれる。学校周辺には海が広がる。身近な自然をテーマにした全校生の磯学習を手助けし、子どもの漁師体験のために一緒に漁に出ることもある。

 「漁師さんたちは、しっかり子どもを見守ってくれる。そのおかげで、子どもたちは安心して自分の力を試し、生き生きとしてくる」と小学校の浜出君子校長は話す。

フリースクールの草分け 東京シューレ

写真活動は幅広い。発表を控え、けいこをする演劇サークルの子どもたち=東京都北区の東京シューレ王子で

 不登校の子どもを抱える親たちが集まり、東京都北区のビルの一室で活動を始めてから18年。日本のフリースクールの草分け的な存在だ。ここに通い、育った子どもは1千人に上る。

 現在は、スペースと名づけた拠点が都内3カ所にあり、6歳から20歳まで約200人の学びと交流の場になっている。支援役のスタッフは約30人。シューレを「卒業」した若者もまじる。

 算数・数学などの基礎学習から歌、ダンス、手芸、パソコン、英会話まで毎日のプログラムは多彩だ。毎週木曜日は、ものづくり、博物館見学など様々な経験を積む。

 「シューレは、精神を自由に使うというギリシャ語から取りました」と理事長の奥地圭子さんは話す。

 三つのスペースの活動も自由、自治を重んじ、子どもたちの話し合いでプログラム、行事の内容を固める。電車好きの子が中心になって1年がかりで鉄製ミニ・トレインを制作した。「何もしない自由」もある。

 おもに家庭で過ごす各地の子を支援するホームシューレ、18歳以上を対象にしたシューレ大学を開設する一方、フリースクールの全国組織結成の核になるなど活動範囲はますます拡大している。

 「各方面とのきずなが太くなり、弱い立場の子どもへの社会の理解が少しずつ深まってきました」。奥地さんは18年を振り返って語った。

車いすも安心な地図作製 かどま〜る(大阪)

写真地図づくりのため、スーパーの店員から話を聞く高校生=大阪府門真市で

 車いすの人が、安心して街を動き回れるように、段差やスロープの有無、車いすで入れるトイレが、どこにあるのかなどが一目でわかる地図をつくっている。

 「車いすで入店できる店の一覧表があればなあ」。地図づくりは、母校の大阪府立門真西高校を訪れた野村強起さん(32)のこんな一言で始まった。97年のことだ。

 野村さんは交通事故が原因で車いす生活を余儀なくされている。生徒会活動をしていた後輩たちがすぐに反応した。

 高校生たちは出身中学を回り、地図づくりの協力者を募った。その輪は広がり、市内の多くの高校の生徒が中核になっている。野村さんはいま、「隊長」だ。

 98年冬の第1回から、大規模調査のときは100人以上が集まる。小規模調査は数十回にのぼる。4人一組で市内の商店や公共施設を回る。盲導犬同伴の可否などもチェック項目。「困った時はどこに行けば対応してくれるか」まで調べた。

 99年夏に201軒の店舗や施設を紹介した地図が完成。1200部を無料配布した。01年5月からは「改訂版」の調査に取り組んでいる。来年夏に完成の予定だ。

 昨年から参加した門真なみはや高校2年の江夏(こうか)美鈴さん(17)は「楽しんで取り組んでいることが人の役に立つ。それがうれしい」と話している。

祭りで水田駆け、村おこし 西郷村教育委員会(宮崎)

写真学年や学校ごとに、子どもたちは思い思いに「子どもみこし」をつくり、練り歩く=宮崎県西郷村で

 「わっしょい、わっしょい」。毎年7月の第1日曜日、子どもたちの元気な声が水田に響く。

 宮崎県西郷村の田代神社に平安時代から続くとされる豊作祈願の田植え祭り「御田祭(おんださい)」だ。3千人弱の小さな過疎の村が、人口の倍ほどの観光客でにぎわう。村にある二つの小学校と1中学校の約200人全員が、祭りを通して郷土を学ぶ教育を実践している。

 祭りの日、小学生は泥だらけになって、さまざまな手作りみこしを担ぎ水田を駆けめぐる。村を知ってもらうため特産品や名所などをかたどる。総合的な学習の時間に約1カ月かけてつくる。

 女子中学生は早乙女姿になり、婦人会の指導を受け、歌に合わせて田植えに加わる。男子中学生は祭りを見物するお年寄りの車いすを押すなど、介護役を務める。

 郷土の歴史、文化を勉強し、祭りに備える。当日は見物客の感想も聞く。中学生はそれらを毎年2月、保護者らに発表している。

 元々は、過疎化に伴う生徒数の減少から、集団教育の必要性に迫られて始まった試みだった。だが、取り組みは自然と、村おこしや世代間交流につながった。

 祭りの模様はビデオに撮り、成人式で流す。同村の宮脇勤教育長は「故郷を振り返る良い機会にもなっているようだ」と話す。