朝日のびのび教育賞2008年の受賞団体

朝日のびのび教育賞・第10回受賞の5団体紹介

2008年10月15日 朝刊

朝日新聞社の第10回「朝日のびのび教育賞」に5団体が決まった。それぞれ、地域社会としっかりつながった取り組みを重ねており、教育の新たな可能性を感じさせる。各団体の活動を紹介する。

第10回「朝日のびのび教育賞」には全国から247件の応募と推薦があった。朝日新聞社の記者が現地を調査したうえで、数回にわたる社内選考を行い、受賞団体を決めた。選考に際しては次の3人の教育の専門家のみなさんから意見をうかがった。

  • 黒沢惟昭氏(長野大教授)
  • 小松郁夫氏(玉川大教職大学院教授)
  • 瀧澤利行氏(茨城大教授)

北海道中標津農業高等学校農業クラブ(北海道) 環境保全にヒマワリ栽培

写真土壌改良のため、校内の農場に植えられたヒマワリ=北海道中標津町

 「おお! 出てきたぞ」――。思わず声をあげた生徒たちの視線は、円筒形の金属容器の小さな穴に注がれていた。じわりと油がしみ出し、ドリップコーヒー用のペーパーフィルターに一滴、また一滴と落ちていく。この油で自動車やトラクターを動かすバイオディーゼル燃料を作る。

 油の原料はヒマワリの種。2年前まで牧草地だった校内の1ヘクタールで育てた。この場所は、堆肥置き場から流れ出た糞尿に含まれていた硝酸性窒素が土壌を汚染。そこで昨年から、硝酸性窒素を効率よく取り込み、見た目にも美しいヒマワリを植え、秋に種を収穫することにした。

 「一石三鳥」のヒマワリ栽培。実は地域への提案だった。北海道中標津農業高校のある地区は人口約千人で、その20倍近い約1万9千頭の乳牛が飼われている。地区の河川を独自に調べたところ、硝酸性窒素汚染が判明。この解決策を示そうとした。

 農業クラブは1948年、全国の農業高校で誕生した。同校では全校生徒79人が参加する生徒会的な位置づけで、「食と環境」が活動の柱。常に「社会性」「科学性」「指導性」を心がけている。ヒマワリ栽培はそのわかりやすい例だ。「社会」の一員として物事を考え、「科学的」に課題を解決し、人をまとめ「指導」する。入宇田(いうだ)尚樹校長は「心がけることで、社会人としても、農業人としても成長していける」と話す。

 地域住民を対象にした食育学校も開いている。参加者が自分で搾った牛乳で乳製品を作ったり、半年がかりで野菜を育てたりし、食の原点を理解してもらう。

 地元生産者の依頼で商品開発も手がけ、食用に向かないとされていた和牛の部位で食品添加物を使わずハンバーグを完成させた。積極的な地域支援も使命だ。

 3年の水口昌美さんは「食の大切さ、命の大切さ、そして農業の大切さを、私たちの活動を通じて知ってもらいたい」と話す。

群馬県立高崎高等養護学校(群馬県) ミュージカルで個性引き出す

写真ライオンキングを上演する生徒たち=高崎高等養護学校(同校提供)

 全校生徒102人が出演するミュージカル「ライオンキング」は最終盤を迎えると、大合唱が公演会場の体育館にこだまする。盛り上がりが最高潮に達する場面だ。本番となる11月の文化祭を前に、主役を務める3年生の小林和貴さん(18)は「堂々と演技して感動を与えたい」と意気込む。

 群馬県高崎市の県立高崎高等養護学校では97年の開校以来、ミュージカルの上演に取り組んできた。毎年秋の文化祭では、約1千人の観衆の前で練習の成果を披露する。

 最大の特徴は、生徒がひとり残らず出演することにある。1年生はダンス、2年生は合唱、3年生は演技をそれぞれ担当。総合学習や国語、音楽の授業時間を使って、脚本づくりに知恵を絞り、歌の練習に汗を流す。大道具、小道具、衣装はほとんどが生徒の手づくりだ。

 思っていることをうまく表現できなかったり、集団で行動することが苦手だったり……とハンディキャップを抱える生徒も少なくない。そこで、脚本を担当する教職員は生徒一人ひとりの個性を引き出すため、希望を聞きながらそれぞれに合った役柄を割り当てる。たとえば、歌がうたえない生徒はダンスをし、逆に動くことが苦手な生徒は歌やセリフに力を入れる。

 全員で一つの舞台をつくり上げ、大観衆の前で演じ切ったという達成感は生徒たちの心に自信を育むという。1年次には集団の中で話すことさえままならなかった生徒が2、3年次には主役級の大役を務め、中学時に不登校だった生徒が皆勤になったという例もある。

 こうした努力を支える人の輪も拡大。保護者が衣装づくりに参加し、地元のプロの劇団が演技指導にあたるなど、近年は学校の枠を越えた活動へと成長した。

 今年は8月に群馬県内で行われた全国高等学校総合文化祭(ぐんま総文)にも出場し、自信を深めた。

愛川町立半原小学校レッドデビルス(神奈川) 駅伝クラブ、町の元気の源

写真全力で走り続ける子どもたち=神奈川県愛川町(同校提供)

 神奈川県中央北部、静かな山あいの愛川町にある半原小学校が週に3回、熱気に包まれる。3年生以上の児童の約7割が参加する駅伝クラブ「半原小レッドデビルス」の練習日だ。200人以上の児童が走り出す姿はまるで運動会のようなにぎやかさ。「今日もがんばるぞ」。響き渡る子どもたちの歓声は、地域の元気の源となっている。

 児童の有り余るエネルギーを走ることに向けよう。7年前、小野沢正義教諭(51)の発案で、6年生の有志4人が「よこはま国際ちびっこ駅伝大会」に出場。初出場ながら総合優勝を飾った。これをきっかけに子供たちは走ることを目標とするようになった。

 練習に合わせて早寝早起きするなど、正しい生活習慣が身についた。学校は1年ほどで変わった。レッドデビルスは、数々の大会で入賞を続け、学校一の人気クラブへと成長した。

 子どもたちの頑張りに刺激され、ボランティアの大人たちの輪も広がっている。

 練習日にはいつも教員や保護者、地域住民が学校の外周コースに立ち、安全に気を配る。元校長や教頭も率先して参加し、声援を送り続ける。練習コースの道路をわざわざ避けて通勤する人も多い。子どもたちの成長を地域全体で温かく見守るようになった。

 目標に向かってひたむきに努力する子どもたちの姿に触発されるかのように、新たな分野に挑戦する人たちも出てきている。

 中学進学後も陸上を続けて活躍する卒業生や、フルマラソンに挑む保護者。異動した若手教員は赴任先の学校で駅伝クラブをつくって明るい学校づくりにつなげるなど、取り組みが学校や地域を超えて徐々に広がっている。

 粟野進校長(59)は「チームの応援を通じて地域が再び学校に目を向けてくれた。地域みんなが誇りを持てる学校に育っている」と話す。

彦名地区チビッ子環境パトロール隊(鳥取県) 身近な所から地球考える

写真活動中の彦名地区チビッ子環境パトロール隊=今年3月、米子市彦名町(同隊提供)

 貴重な湿地としてラムサール条約に登録された中海に面する鳥取県米子市彦名地区で、91年から定期的に環境調査を続けてきた。「川にご飯粒・食べかすは落ちていないか」「中海にゴズやボラなど魚が見られたか」など20項目を5段階でチェックし、100点満点で評価している。

 隊員は小学3年生から高校3年生までの13人。向井哲朗さん(67)や元隊員の島根大学生ら3人のサポーターが指導している。

 90年ごろの中海は、干拓事業や生活排水の流入で赤潮や青潮が発生し、水質汚濁が問題化していた。使い古しのパンティーストッキングを台所の排水カゴに付けて生活排水を浄化した上で流すなど、身近な環境保全策を提案していた向井さんが「次世代を担う子どもたちにこそ地球規模の環境問題を身近な所から考えてほしい」とパトロール隊を発足させた。

 向井さんは手作りの環境新聞「中海」を毎月1回地域に配布し、パトロール隊の活動や参加した子どもたちの感想も掲載している。地域の人たちから「頑張っているね」と声をかけられた子どもたちは自信を持ち、家庭でも「お母さん、皿の油汚れは古布で一回ふいてから洗うと水が汚れんよ」などと話すという。その成果か、環境パトロールの年間平均点数は91年の42点から昨年は82点と大きく改善した。

 中海に船で出て水質分析したり、実験や観察をとり入れた親子学習会を開いたりして「科学する心」も育てている。子どもたちは生物化学的酸素要求量(BOD)などの専門用語にも少しずつ慣れ、03年には「地球にやさしい作文・活動報告コンテスト」で環境大臣賞に輝き、今年は「ストップ温暖化一村一品大作戦全国大会」の奨励賞に選ばれた。韓国・安山市で昨年7月開かれた「日中韓子ども湿地交流事業」で取り組みを発表するなど、環境を通した国際交流にも活動の幅を広げている。

あまわり浪漫の会(沖縄県) 伝統芸能アレンジ、130公演

写真演技やダンスを繰り返し練習する出演者=沖縄県うるま市

 歌やダンスを織り交ぜながら、琉球王朝時代を舞台にした芝居が進行していく。沖縄県うるま市の中高生約120人が演じる「肝高(きむたか)の阿麻和利(あまわり)」。沖縄の伝統芸能「組踊」を現代風にアレンジしたステージで、9年に及ぶロングラン公演を続けている。

 「舞台では全員が主役。不登校の子も、人前で話せない子も、ここに来れば輝ける」。公演の企画運営にあたる「あまわり浪漫の会」会長の長谷川清博さんは話す。

 阿麻和利は地元にある勝連城の15世紀の城主。首里王府に「逆賊」として討たれた人物だが、舞台では高い志を持った民衆思いの領主として描かれる。「肝高」は「気高い」の意味だ。

 初演は2000年。旧勝連町(うるま市)の教育委員会が「子どもたちに地域への誇りを持ってほしい」と企画した。脚本は沖縄の劇作家に依頼。地元の中学生に参加を呼びかけた。だが、初練習に集まったのは7人。関係者がメンバーをかき集めた。

 当日、会場となった勝連城跡には約2千人の観客が詰めかけた。拍手と歓声を浴びた子どもたちからは「この感動を1回だけで終わらせたくない」と活動の継続を求める声が上がった。翌年、父母らが中心になって「浪漫の会」を設立。以来、130回を超す自主公演を重ねてきた。

 練習は週2回、夕方の3時間。蒸し暑いホールで、ダンスや芝居、楽器の演奏を繰り返す。地域の住民も集まってくる。演出の平田大一さん(39)は「子ども以上に変わったのは大人たち。町に誇りを持ち、子どもたちを見詰めるようになった」と話す。

 阿麻和利役を演じる与勝高校3年の登川航さん(17)は「みんなが一つのことに頑張れる。一生懸命になることが格好良いと思える場所」と言う。11月にはハワイで初の海外公演を予定している。「世界への発信」という夢の実現に向けて、メンバーは熱のこもった練習を続けている。