朝日のびのび教育賞第12回(2010年度)

朝日のびのび教育賞・第12回受賞の5団体紹介

2011年2月4日 朝刊

 朝日新聞社の第12回「朝日のびのび教育賞」(ベルマーク教育助成財団後援)に5団体が決まった。全国で応募・推薦のあった92件から、朝日新聞記者の現地調査と数回の社内審査で選考した。児童・生徒の取り組みや社会教育活動のほか、授業の手伝いなど、地域の人たちによる学校支援の活動も対象になった。

◇ 狭山・学校支援ボランティアセンター(埼玉)/年間9千時間、授業を手助け

写真生徒たちに英語を指導するセンターのボランティア=埼玉県狭山市の狭山台中学校

 生徒数人ごとに1人の教師がつき、テーマに基づいて英語で議論する。埼玉県狭山市の狭山台中学校の選択授業(英語)では、少人数制の英会話スクールのような光景が見られる。

 担当教諭や外国人アシスタントのほかに、英語に堪能なセンターのボランティアも加わる。海外に勤務していた田中正利さん(68)は「生徒の進歩を実感できると、満足感を得られる」と言う。

 同校は、国語や数学でもボランティアを依頼している。橋本正之校長(56)は「マンツーマンに近い授業ができ、成果も上がっている」と喜ぶ。校舎の一部をセンターの事務所として提供している。

 センターは、市内26小中学校の授業を支援しているボランティア組織。支援は無償で交通費も個人が負担している。50〜70代の約350人が在籍。元教師が1割を占め、専門家も少なくない。各校に担当者を置き、業務ごとにグループ制を敷くなど組織的に運営しているのが特徴だ。市は運営費として年間70万円を補助している。

 2009年度は、9113時間の授業を支援した。教科別で見ると、小学校は理科、中学校は英数で、それぞれ全体の半分以上を占める。

 市関連の生涯学習講座の卒業生が中心となり、7年前から支援を始めた。「少人数授業にして子どもたちとともに学べないか、というのが原点」とセンター長の坂井敬一さん(76)は振り返る。

  事務局長の諸井寿夫さん(67)は言う。「私たちは子どもたちに生きがいをもらい、子どもたちは色々な大人と触れ合える」

◇ 外国人の子どものための勉強会(千葉)/日本語教え やる気支える

写真マンツーマン指導でにぎやかに授業は進む=千葉県松戸市

 「こんにちは」「来たよー」。午後5時。千葉県松戸市の新京成線常盤平駅前にある教室に外国人の子どもたちが集まってくる。一人ひとりにマンツーマンで先生が付く。20人余りが入れる教室はあっと言う間にいっぱいになった。がやがやしているが、活気にあふれている。

 親と一緒に来日して日本の小中学校に入ったものの、日本語がわからず授業についていけない。そんな子どもたちを支えているのが、このNPO法人「外国人の子どものための勉強会」だ。

 理事長の海老名みさ子さんはもともと専業主婦。子育てが一段落した後、友人と中国語を勉強、大学にも入り直した。中国人らと知り合う中で、来日した子どもたちが日本語指導のないままに学校へ行き、困っている話を聞いた。そこで1996年、知人と2人で小学生4人を相手に日本語を教え始めた。

 現在、勉強を教えるスタッフは20人余り。子どもたちは50人ほどになる。小・中学生を対象にそれぞれ週2回勉強会を開く。スタッフのほとんどが現職、OBの教員だ。家族や学校の問題の相談にものっている。

 生徒の一人、昨年1月に中国から来日した市立第一中2年の李天冶(リ・テン・イエ)さんは、週2回の教室が楽しみだという。「ここに来て、日本語もわかるようになり、色々なことにやる気が出てきた」。運動は苦手だが、ソフトテニス部に入部したそうだ。

 海老名さんは「子どもたちが必要としているのは日本語や勉強の指導だけではない。様々な体験をさせて、その子の持つ可能性を引き出してあげたい」という。

◇ 大阪府立松原高校「るるくめいと」(大阪)/中高へエイズ「出前講座」

写真エイズウィルス感染の仕組みを解説する松原高校の生徒たち=大阪市東淀川区

 「こんにちは! るるくめいとです」。大阪府内の中学校で1月、府立松原高校の生徒10人がエイズを題材にした授業の講師役を務めた。10年前から有志の生徒が中学や高校に出向き、予防法などを解説している。「わかりやすい」「大人が教えるより効果的」と評判の「出前講座」は通算100回を超える。

 地元の保健師の講演を聴いた生徒たちが1999年、「うちらも伝えようや」と活動を始めた。「知る・考える・動く」から1文字ずつ取って「るるく」と名づけ、学びつつ後輩に伝えてきた。

 「出前講座」はまず、クイズや人形劇でエイズの知識を解説。続いて寸劇「ラビン・ユー」で、17歳のカップルがつきあう様子をコミカルに演じ、エイズをより身近な問題として提起する。

 同世代に働きかけるこうした取り組みは、ピア・エデュケーション(仲間の教育)と呼ばれる。メンバーの酒井活美(いくみ)さん(3年)は「大人が話せば堅苦しく感じることも、同年代だと耳を傾けてもらえるみたい」と話す。

 メンバーは、エイズウイルス(HIV)感染者との交流を年数回続けている。「出前講座」は当初、エイズ予防に重点を置いていたが「感染者は排除されたと感じる」と指摘された。それ以来、差別される心情も紹介するなど感染者に寄り添った目線を心がける。教員は助言はするが、生徒の自主性を尊重する。

 乾千紘さん(同)は「るるくを始め、前向きになれた」と振り返る。

 HIV感染は世界的には減る一方、国内では増加している。大切なメッセージを伝えているという自覚が、メンバーに自信を与えている。

◇ ナチュラル・リサイクル・コーポレーション(広島)/腐葉土作りから販売まで

写真地元の小学生や幼稚園児らと一緒に腐葉土づくりに励む原田中の生徒=尾道市原田町

 ナチュラル・リサイクル・コーポレーション(NRC)は、広島県尾道市の中山間地にある市立原田中学校の模擬会社の名前だ。12人の全校生徒が「社員」。社長や課長もいる。株主は地域の人たちだ。主力商品は学校周辺の落ち葉をかき集めて、1年半発酵させた腐葉土。その製造や販売を通じて、地域との連携を深めている。

 原田中の生徒たちはほとんどが幼なじみだ。高校進学などで町外へ出ると、引っ込み思案になりやすい――。そう心配した学校側の発案で、2005年に発足した。企画や運営、販売を通じ、臆することなく自分の気持ちを伝える力を養うことを狙った。

 1株100円で、地元の人たちに出資を依頼。企画開発、生産、営業販売、財務の4課があり、生産課には全社員が所属する。毎年2月には株主総会を開催。決算報告をし、次期役員を承認する。社是は「社会貢献」だ。

 生徒の数が減り、主力の「腐葉土づくり」には09年秋から、将来の社員である地元の原田幼稚園、原田小学校の子どもたちも参加する。

 手作り感ときめ細やかな対応が評判を呼び、地元・尾道市や広島市の商店街で開く1日街頭販売は人気で、オープン前から待ちかまえている固定客もいるほどだ。腐葉土で育てたパンジーのプランターを地域の交差点に置いたり、小学生と一緒に葉ボタンを持って高齢者宅を訪ねたりするなど、社是を実践している。

 2月に社長を退任する3年の古藤文乃(ことう・あやの)さん(15)は「一人ひとりが地域の方に感謝の気持ちを持って活動してほしい」と後輩にメッセージを送る。

◇ 直方谷尾美術館(福岡)/子の感性生かし作品解説

写真「子どものための美術館」。展示作品を子どもスタッフ(左から2人目)が選び、解説もする=福岡県直方市の直方谷尾美術館

 館内の照明を落とした一室に、十数人の「子どもスタッフ」が並んだ。子どもたちの作品解説を聞こうと約30人の聴衆が集まっている。学芸員の中込潤さん(37)に促されてマイクを握る。

 「この絵の一番いいところは月です。月以外に光がないので、月の光がよりきれいに見えます」

 小学4年生の錦辺遥香(にしきべ・はるか)さんが説明したのは油彩画「インカの集落」(立花重雄作)。月明かりに照らされた山頂の街並みが多彩な陰影で描かれている。

 「一つの所をいろいろな色で塗ることで、その時の光の当たり方で見えたいろんな色を表すことができます」

 福岡県直方市の直方谷尾美術館で3月21日まで開催中の「子どものための美術館」は、公募に応じた市内の小3〜中3の男女21人がスタッフとなって企画した。地域とのつながりを深め、学校以外のまなびやにしようと2005年度に始め、6回目になる。

 1〜3月の展覧会に向け、半年前から準備する。所蔵品約2千点から1人1点、展示品を選ぶことから始める。作品を調べる過程で、作家に手紙を送って質問もする。

 子どもの感性を生かした解説が売りになる。中込さんは「現実と空想の世界を自然に行き来できる子どもたちは自由に鑑賞できる」と話す。

 作品理解を深める子どもの姿は作家にとっても喜びだ。福岡県八女市の画家樋口善造さん(79)は、自作を選んだ小4の藤田真穂さんと会場で対面。「よく調べたね」と握手をした。「小さいうちから芸術との接し方を学べるいい企画」