明日への環境賞


第8回
明日への環境賞
Environment for tomorrow Prize

受賞の記録

財団法人 公害地域再生センター(あおぞら財団)(大阪市)
トンボの飛び交う青空を

 病院建設のために地域をまわっていた33歳のとき、訪ねた家の畳に無数の黒ずんだ傷があるのに気づいた。「なんですか、これ。猫?」。そう尋ねる森脇君雄さん(71)に、母親はかたわらの息子に目をやって、「ぜんそくの発作で苦しくて、この子がツメでかきむしった血の跡です」。

 この体験が原点になり、大気汚染の責任を問う裁判に駆り立てられた。工場のばい煙と車の排ガスで当時、大阪市西淀川区では昼も薄暗いほど汚染がひどかった。「子や孫の世代のため、青空を取り戻しトンボの飛び交う街にしたい」。そんな思いで森脇さんは原告団長を務め、和解金をもとに設立した「あおぞら財団」の理事長に就いた。

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西淀川公害訴訟の全記録を収蔵する環境資料館で、医学生たちに大気汚染の実情を説明する森脇君雄さん(右)=大阪市西淀川区で

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ばい煙を排出する被告企業の工場群。左下は発電所=1964年撮影(訴訟資料から)

 工場のばい煙は改善され、公害患者らの願いはかなったかに見えた。だが、ぜんそくの子どもは増え続け、この10年で倍増した。汚染の元凶はディーゼル車に移り、排ガスがまき散らす細かい粒子が肺の奥まで入って健康をむしばむ。
 森脇さんらはこうした実態を指摘し、排ガスによる健康被害の調査を国に働きかけてきた。それに後押しされ、環境省は05年度から小学生1万6000人を対象に健康調査に乗り出し、10万人規模で幼児のぜんそく発症の調査も始めている。
 公害のない街づくりのため、研究活動に力を入れているのが財団の特徴だ。急発進や無駄なアイドリングをなくせば、燃費はよくなって排ガスが減る。トラック業界に協力を求め、そうしたエコドライブに取り組み、研究成果を知らせるシンポジウムを開いてきた。
 財団の入るビルには昨春、公害訴訟の全記録を収蔵する環境資料館が開設された。薬袋の裏に記した闘病のメモや70年代に公害をテーマに小学生が書いた作文などもある。患者たちの苦しんだ経験や裁判の成果を次の世代に残し、地域の再生に生かそうと、企業の新人研修や中学生の社会見学にも利用されている。
 「日本で起きたような公害がいまアジアに広がっている。公害とどう闘って、街を再生させてきたのか。その経験を伝えたい」と森脇さんは話す。


<西淀川公害訴訟>
 工場のばい煙と車の排ガスによる複合大気汚染の責任を初めて追及した訴訟。大阪市西淀川区の公害患者らが企業と道路管理者の国などを相手取って78年に提訴した。1次訴訟で企業に賠償を命じる判決が出た後、被告企業が39億9000万円を支払って和解。その和解金の一部を基本財産として96年9月、財団法人「公害地域再生センター(あおぞら財団)」が設立された。国側の責任を認める2次〜4次訴訟の判決を受けて、高裁で98年、国が公害対策の実施を約束した和解が成立。20年ぶりに全面決着した。

(2007/04/13)


◆その他の第8回受賞者・団体
*山本純郎氏(北海道根室市)
絶滅の危機にあるシマフクロウを守るため、長年にわたり生息環境の整備や啓発活動に取り組んできた。1994年に世界初の人工孵化を成功させるなど、保護・増殖活動の輪を広げている。
*特定非営利活動法人 シナイモツゴ郷の会(宮城県大崎市)
東北地方の淡水魚シナイモツゴの保護を中心に、ため池、小川、田んぼで成り立つ日本の原風景と生態系を取り戻す活動に取り組んでいる。
*屋久島・ヤクタネゴヨウ調査隊(鹿児島県上屋久町)
学問的に信頼性の高い調査を続けながら、民・官・学協働の事業で中心的な役割を果たし、絶滅が危惧されるヤクタネゴヨウの保全に尽力している。