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2018年(第24回) 受賞団体



 

 世界の子どもたちに本を届ける活動に貢献した団体に贈られる第24回国際児童図書評議会(IBBY)・朝日国際児童図書普及賞(IBBY、朝日新聞社主催)に、フランスの団体「レ・ドワ・キ・レーブ」(LDQR)が選ばれた。目の不自由な子のために「触(さわ)れる絵本」を手作りする工房を訪ね、本作りにかける思いを聞いた。(ディジョン〈フランス東部〉=中村靖三郎)



 形や動き、楽しんで理解

 パリから高速鉄道で約1時間40分。フランス東部ディジョンの駅から、さらに車で15分ほどの郊外にLDQRの小さな工房がある。ボランティアたちが様々な本の素材に囲まれながら、一つひとつのパーツを縫い付けていた。

LDQRの本の製作現場。ボランティアの人たちが、一つひとつのパーツを手作業で縫い付けている=2018年9月3日、フランス・ディジョン、中村靖三郎撮影
LDQRの本の製作現場。ボランティアの人たちが、一つひとつのパーツを手作業で縫い付けている
=2018年9月3日、フランス・ディジョン、中村靖三郎撮影

 

 LDQRは「夢見る指先」という意味。「触れる絵本」は点字だけでなく、動物や食べ物などが立体的に表現され、手で触りながら形や動きなども楽しめる。製作責任者のマリリン・ドールさんは「印刷などを除くとほぼ全て手作業です。なめらかな水やザラザラした砂、チクチクする草など多様な触感を楽しめるよう考えて作っています」。1冊を作るのに平均4時間ほど。形や構造が複雑な本では6時間かかることもある。1冊ずつ手作りされた本は、フランスのほか欧米を中心に10カ国語以上に翻訳され、各地に届けられている。

 統括責任者のビビアナ・ディアスさん(36)は「触れる絵本は特に発達段階にある子どもにとって重要です」と話す。例えば、「恐竜」を目の見えない子にどう理解させるか。目が見えれば、巨大な生き物ということや姿、形が一目でわかる。触れる絵本では、触り心地の異なる複数の素材を比較したり動かしたりしながら、視覚から得る情報の代わりになるイメージを感じてもらうという。大学とも連携し、子どもたちが本をどのように触ってどう理解しているのかも調査しながら、本作りに反映している。

 



 1冊ずつ手作り、色鮮やか

 絵本作りのきっかけは、団体の創設者フィリップ・クローデさん(66)が小学校の教師だった1992年、目が見えないアマンディンという少女を受け持ったことだった。図書館にも本屋にも彼女に読める本がない。「本なしに、どうやって読み書きを教えるというのか。解決策を見つけるのは教師としての義務だと思った」と振り返る。

 そこで作ったのが、触れる絵本だ。親たちとも協力し、94年にNPOとしてLDQRを設立。すると、本を知った学校や親などから、製作の依頼が相次いだ。だが、1冊ずつ手作りするため、費用も時間もかかりすぎる。「どんな商業的な出版社も作ることができない本」(クローデさん)だった。そこで、人手を確保するため、アルコール依存など何らかの問題を抱えて長い間、仕事に就けずにいる人や難民の人たちと連携することにした。一定の条件で報酬を支払い、現在、地元のボランティアや学生らも含めて、約30人が工房で絵本作りにあたる。

 

LDQRの触れる絵本。トマトの触感を風船で表現している。
LDQRの触れる絵本。トマトの触感を風船で表現している。

 

 子どもたちから寄せられる感想は「こんな本があるなんて知らなかった」という「驚き」だ。色鮮やかなデザインも特徴の一つで、障害の有無にかかわらず、全ての子どもが楽しめるように作られている。ディアスさんは「目の見える子と一緒に本を読み、同じ経験を共有することに子どもたちはとても感激します」と話す。

 国際的な連携も広がり、定期的な会議や展示会などのネットワークは24カ国になった。それでもまだ、必要な子どもたちに十分な本が届けられていないのが現実だ。クローデさんは強調する。

 「一つの国だけではお金がなくて出来ないことも、各国が一緒になって協力し合えば、もっと多くの本を作ることができる。目が見えないことが問題じゃない。問題は解決策を見つけられない私たちにある」


[ 2018年9月18日付 朝日新聞朝刊紙面に掲載 ]



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