手塚治虫文化賞

第8回新生賞

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新生賞

もりもと崇 『難波鉦異本(なにわどらいほん)』(少年画報社)で、江戸時代の遊女の世界と現代感覚を融合させた表現に対して

©もりもと崇/少年画報社

《遊郭舞台、話に広がり》

 「まさか手塚先生の名を冠した賞をいただけるとは想像の範囲外。急にひなたに引っ張り出されたモグラみたいなもので、まだあっけにとられています」

 増え始めた時代劇マンガ誌に、遊郭を舞台にした作品を持ち込み、何本かの読み切りを経て01年、初めての連載として受賞作を描き始めた。

 「ほかのマンガは切り合いが多くて、女の人もあまり出てこない。それなら、人も死なず、女の子が出てきて読んでホッとする“はし休め”みたいなマンガがあってもいいだろう、と思って」

「難波鉦異本」から©
もりもと崇/少年画報社

 大坂新町の遊郭。無愛想で口は悪いが、客あしらいとソロバンにたけた遊女・和泉と、井原西鶴らなじみ客が、和泉の付き人の少女ささらの目を通して描かれる。色気と情緒漂う浮世絵風の柔らかな描線と、毒気を吐く劇画風のどぎついデフォルメを使い分け、揚げ代がわりにもらった大トカゲの話や、男装した和泉の相撲見物など、一風変わった「廓(くるわ)もの」を展開する。

 「遊女ものにはパターンがある。売られてきてしごかれ、のし上がり、悲しい最期を遂げる。そのパターンはおさえつつも、もっと広がりのある話を描きたい。だから、遊女の外出が比較的自由だった大坂を舞台に選んだ。西鶴は、常識外れの遊びをいろいろさせてサマになるので使いやすい。説教たれる大人にも、エロオヤジにもなれる便利な人です」

 この時代の風俗を描いた杉浦日向子さんが江戸の粋なら、こちらは大坂のコテコテ路線か。

 「関東の人から見たらコテコテに見えるかなあ。僕はアク抜きして出してるつもり。西鶴を読むと、この時代の大坂ってコテコテというよりノターッとしてそうなところですよ」


《もりもと崇》

 もりもと・たかし。1970年、兵庫県生まれ。山本康人氏のアシスタントをしながら、98年、秋田書店「プレイコミック」へ持ち込んでデビュー。以後、リイド社「コミック乱」、少年画報社「斬鬼」、その他へせっせと持ち込むが、掲載誌がなぜか時代劇誌に偏る。連載も単行本も本作『難波鉦異本』が初めて。単行本2巻が04年6月9日に発売。

※受賞者プロフィールは当時のものです。