©浦沢直樹 スタジオナッツ/
手塚プロダクション/
長崎尚志/小学館
《「アトム」大胆リメーク》
「PLUTO(プルートウ)」は03年から小学館「ビッグコミックオリジナル」に連載中。単行本は2巻まで出ている。
スイス最強のロボット、モンブランが何者かに破壊され、同じ頃、ロボットの権利を擁護する団体の幹部が殺される。二つの現場に共通する痕跡。だがロボットは人を殺せないはず……。捜査にあたるロボット刑事ゲジヒトは、自分を含む世界最強の7体のロボットが標的だと気づき、日本のアトムに接触する。
原作の「鉄腕アトム・地上最大のロボット」(64・65年)は、最強のロボットとなるよう作られたプルートウが、世界各国のロボットに闘いを挑み、アトムが巻き込まれていくストーリー。
「PLUTO(プルートウ)」から
©浦沢直樹 スタジオナッツ/
手塚プロダクション/長崎尚志/
小学館
《浦沢直樹さん(ひと)》
記憶に残る最初の漫画は手塚治虫の代表作「鉄腕アトム」。4歳の時に読んだアトムの名編「地上最大のロボット」だ。その作品をリメークした「PLUTO(プルートウ)」で、第3回の「MONSTER」に続く2度目の大賞を獲得した。
「心の真ん中に鎮座する」という原作に挑んだだけに、漫画界切っての人気作家も受賞に特別な感慨を抱く。
「描く時、いま手塚さんならどうするかと考えた。時事的なものを採り入れる人だから、米国とイスラムの対立なんてきっと描くはずだと思って原作を読むと、(敵役のロボット)プルートウは中東の王様みたいな人が製造している。原作にすべてがもう書いてある気がしました」
リメークは手塚治虫との真っ向勝負。プロデューサーの長崎尚志さんと共同でストーリーを練り、手塚の長男・眞さんが監修を務めた。アトムらロボットの戦いのドラマに国際政治謀略を絡めた硬質なサスペンスに仕立てた。
漫画の次に力を注ぐのはロックで、ライブも開く実力だ。息抜きはレコード磨き。往年の名盤を丹念にふき、虹色の光をよみがえらせる。
その喜びは、手塚漫画の「古典」に新たな命を吹き込んだ「PLUTO」と通じる。「今を追いかけるばかりで過去の遺産を忘れていいのか、という漫画の現状への思いがありましたからね」
(文・小原篤)
◆手塚眞さんコメント
浦沢さんからお話をいただいたとき要望したのは、父・手塚治虫に対し、変な遠慮をせずに真正面から真剣勝負をして欲しい、それと、浦沢さん自身の絵で描いてほしい、という二つでした。だから、最初に見せてもらったアトムのキャラクターがあまりに原作の通りなので、お願いして直してもらいました。
できあがった第1話は原作を生かしつつ、間違いなく浦沢作品になっていた。「これなら大丈夫」と確信しました。下書きを毎回見せてもらっていますが、「この物語は一体どこへ行くのだろう」と、楽しさといい意味での不安でドキドキしながら読んでいます。
《浦沢直樹》
うらさわ・なおき。1960年、東京都生まれ。82年小学館新人コミック大賞で入選。翌83年『BETA!』でデビュー。主な作品に『MONSTER』『20世紀少年』『パイナップルARMY』『MASTER キートン』『Happy!』がある。90年に『YAWARA!』で小学館漫画賞受賞。『MONSTER』で97年メディア芸術祭漫画部門優秀賞、99年手塚治虫文化賞マンガ大賞、01年小学館漫画賞受賞。『20世紀少年』で、01年講談社漫画賞、03年小学館漫画賞受賞。
※受賞者プロフィールは当時のものです。
《長崎尚志》
ながさき・たかし。1956年、宮城県生まれ。元小学館ビッグコミックスピリッツ編集長。その後フリーとなり、浦沢直樹氏の作品『PLUTO』『20世紀少年』をプロデュース。また、漫画原作者として、東周斎雅楽のペンネームで『イリヤッド─入矢堂見聞録─』、江戸川啓視のペンネームで『青侠』他を手がける。手塚治虫氏の作品『陽だまりの樹』初代担当編集者。
※受賞者プロフィールは当時のものです。
《手塚眞》
てづか・まこと。1961年、東京都生まれ。実験的な短編映画やハイビジョン映像など、あらゆる映像媒体に精通するほか、小説の執筆、イベントの企画、講演、CDやマルチメディアのプロデュースなど、ジャンルを超えた表現活動を続けている。代表作品に『TEO─もうひとつの地球』(富士通CD-ROM)、『ブラック・ジャック』(テレビアニメ)がある。99年、劇場映画『白痴』がヴェネチア国際映画祭デジタル・アワード受賞。
※受賞者プロフィールは当時のものです。