手塚治虫文化賞

第12回マンガ大賞

第12回 | マンガ大賞 | 新生賞 | 短編賞 | 特別賞 | これまでの受賞の記録

ユルくまじめに菌描く 学園ドラマの一面も

『もやしもん』 石川雅之さん作(講談社)

©石川雅之/講談社

 「かもすぞー」。キャラクター化された菌たちが空気中を飛び交いながらしゃべる、異色の「菌マンガ」。菌が見えるという特殊能力を持つ大学生を主人公にした学園ドラマは、6巻までで累計272万部のヒットになった。青年誌の連載ながら、小学生からもファンレターが届く。

 タイトルにある「もやし」とは、酒造りなどに使う種麹(たねこうじ)のことだ。東京の某農業大学に入った「もやし屋」の跡取り息子が、風変わりな教授を始め、クセのある仲間たちと出会い、様々な騒動に巻き込まれていく。

 日本酒やワインづくりの工程や人々の思いが、丁寧に描かれる。暮らしのあちこちにかかわる菌や発酵にまつわるうんちくも満載で、日本菌学会の講演にも招かれたほど本格的。知識やエピソードは専門家の教えを受けているのではなく、教科書を読んだり、学生やバーテンに聞いたりして仕入れている。

 「僕は素人だから、かみ砕いた話の方がおもしろい」。作中では、理屈っぽい話になると可愛い菌が「わーい」と乱入する。一方で、菌と人間とのかかわりから、現代の社会を考えさせる硬派な一面も持っており、きまじめさとユルさのバランスが絶妙だ。

 主人公の能力はもちろん虚構だが、力点はむしろ、お気楽で変わったキャンパスライフに置かれている。そこが、審査員から高く評価された。「元々、群像劇が好きなんです。これも人間ドラマを描いた群像劇と思ってほしい」

「もやしもん」第6巻の入った段ボール箱を手にする石川さん

《石川雅之さん(ひと)》

 乳酸菌やピロリ菌などあらゆる菌の姿が見え、声まで聞こえる。そんな風変わりな農大生が主人公の学園コメディー「もやしもん」で手塚治虫文化賞のマンガ大賞を受けた。

 マンガを描き始めたのは高校を卒業してすぐのこと。しかし「知識も経験も足りない」と痛感し、工事現場や倉庫、飲食店で働いた。とはいえ創作の苦しみに比べたらアルバイトの方が楽。次第に画材を買う金で飲みに行き、ペンも執らなくなる。実家に引きこもった時期もあった。

 転機は約6年前に訪れた。虫がはう部屋で弁当をかきこむ自分に「これじゃいかん」。そんな時に編集者から連載の話が舞い込む。実家近くにあった大学農学部のキャンパスを舞台にすることを思いつき、その後、酒蔵を取材した。杜氏(とうじ)が発した「酒は菌の声を聞いて造る」との言葉から「もやしもん」のとっぴな発想が生まれた。「今度こそ」と専門書を読みあさりながら描いた。

 「予想外」の好評で、コミック誌「イブニング」の長期連載に。だが「大学に行ってないのに、学生生活がよく描けている」と褒められると、違和感を抱く。「戦争体験がなくても戦争マンガは描ける。自分が行ってみたい大学を描いただけ」。だから、若い読者から「農大を志望します」との反響が来ると「そんなことを言われても、これはマンガだから」と思う。時折のぞく厳しい視線が、ほのぼのした作風をピリッと引き締めている。


《いしかわ・まさゆき》

 74年、堺市生まれ。97年に「日本政府直轄機動戦隊コームインV」でデビュー。99年に「神の棲む山」で、講談社のちばてつや賞準入選。初の本格連載「もやしもん」は雑誌「イブニング」(講談社)で04年から連載中。

※受賞者プロフィールは当時のものです。