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第21回(2017年)手塚治虫文化賞■  選考結果 「完成度の高さ・清新さ、評価」


  選考対象は昨年に刊行・発表された作品。最も優れた作品に贈るマンガ大賞は、社外選考委員の投票(持ち点15点で1作につき最高5点)による上位8作と、専門家や書店員の推薦1位の作品を合わせ、最終選考会で議論した。
 推薦1位で投票でも2位だった「ゴールデンカムイ」は、「まだ連載中で、これから来る山場を見たい」という意見が多く、代わって浮上したのは「花に染む」。「読者を選ぶところはあるが完成度も作家性も高い」(中条)と支持を集め、大賞を得た。
 投票1位「昭和元禄落語心中」は「鮮やかな完結は見事。落語に新しいファンも呼び込んだ」(ヤマダ)として、清新な才能に贈る新生賞に決まった。
 短編賞の「夜廻り猫」は、「あたたかさが心にじんと来る」(杏)など、多くの委員から評価された。
 特別賞は、40年続いた連載「こちら葛飾区亀有公園前派出所」を昨年完結させた秋本治さんを推す意見が委員からあり、朝日新聞社が選んだ。
(小原篤)



【→ 選考結果はこちら】 【→ 選考委員一覧・選考委員のコメントはこちら】 【→ 贈呈式のようす】



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マンガ大賞 1次選考結果


【1位】  『昭和元禄落語心中』 雲田はるこ(講談社) =選考委員推薦 19点(ヤマダ 5、中条 4、南 4、桜庭 3、里中 3)


【2位】  『ゴールデンカムイ』 野田サトル(集英社) =選考委員推薦 13点(里中 5、中野 4、ヤマダ 3、南 1)
       *関係者推薦 1位(書店員やマンガ雑誌編集者ら約200人が持ち点1点ずつ投票し、決定) 【→ 得票上位作品一覧はこちら】


【3位】  『クジラの子らは砂上に歌う』 梅田阿比(秋田書店) =選考委員推薦 5点(杏 5)


【3位】  『SAD GiRL』 高浜寛(リイド社) =選考委員推薦 5点(みなもと 5)


【3位】  『トクサツガガガ』 丹羽庭(小学館) =選考委員推薦 5点(南 5)


【3位】  『ど根性ガエルの娘』 大月悠祐子(白泉社) =選考委員推薦 5点(桜庭 5)


【3位】  『花に染む』 くらもちふさこ(集英社) 選考委員推薦 5点(中条 5)


【3位】  『レインマン』 星野之宣(小学館) =選考委員推薦 5点(中野 5)


昭和元禄落語心中
昭和元禄落語心中
(全10巻)

雲田はるこ/講談社

ゴールデンカムイ
ゴールデンカムイ
(既刊10巻)

野田 サトル/集英社

SAD GiRL
SAD GiRL
高浜寛/リイド社

トクサツガガガ
トクサツガガガ
(既刊9巻)

丹羽庭/小学館

ど根性ガエルの娘
ど根性ガエルの娘
(既刊2巻)

大月悠祐子/白泉社

花に染む
花に染む(全8巻)
くらもちふさこ/集英社

レインマン
レインマン
(既刊4巻)

星野之宣/小学館

 



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関係者推薦のマンガ大賞 得票上位作 


【1位】  『ゴールデンカムイ』(集英社) 野田サトル


【2位】  『私の少年』(双葉社) 高野ひと深


【3位】  『BLUE GIANT』(小学館) 石塚真一


【4位】  『乙嫁語り』(KADOKAWA) 森薫


【4位】  『こちら葛飾区亀有公園前派出所』(集英社) 秋本治


【6位】  『金の国水の国』(小学館) 岩本ナオ


【6位】  『死者の書』(KADOKAWA) 近藤ようこ / 原作:折口信夫


【6位】  『昭和元禄落語心中』(講談社) 雲田はるこ


【9位】  『君の名は。』(KADOKAWA) 琴音らんまる / 原作:新海誠


【9位】  『逃げるは恥だが役に立つ』(講談社) 海野つなみ


【9位】  『春の呪い』(一迅社) 小西明日翔


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社外選考委員


桜庭 一樹
桜庭 一樹(小説家)
 【→コメントを読む】

里中 満智子
里中 満智子(マンガ家)
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中条 省平
中条 省平 (学習院大学
フランス語圏文化学科教授)

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中野 晴行
中野 晴行 (まんが編集者)
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南 信長
南 信長 (マンガ解説者)
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みなもと太郎
みなもと太郎
(漫画家・マンガ研究家)

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ヤマダトモコ
ヤマダトモコ
(マンガ研究者・ 明治大学
米沢嘉博記念図書館)

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手塚治虫文化賞 選考委員コメント

 

◆ 杏委員 コメント ◆


 「手塚治虫」そして「文化」この言葉が組合わさった賞とは、一体どういうものか。一年間に出版される漫画本の数というのは星の数ほどあり、全てを個人が把握することは不可能と言い切っても間違いではない。


 そこで作品を選ぶ基準は何なのか。選考委員の責は重い。


 ……と、完璧に選ぶのは無理だし、前回と同じく一読者の視点を基本に、出会った作品で、子供から大人にすすめたい、十年後も二十年後も愛されるタイトルを幾つか挙げさせていただいた。『クジラの子らは砂上に歌う』は、ミステリー&ファンタジー。実際にあった出来事なのではないかと錯覚させる作者の手腕と綿密に練られた異世界観は、モノクロの漫画なのに色鮮やかだ。


 予想外の変化球と見せかけながら、『トクサツガガガ』は青春スポ根モノと言っても良いような、社会人特撮オタクの生態を描いた作品。様々な分野のマニア達が集まることで、特撮だけに特化しすぎず共感を得るドラマを展開している。読んだ後すぐに友達と共有したくなって勧めたのはこの作品だった。


 さて、大賞は『花に染む』。多角的に展開される『駅から5分』と連作でありながら叙情的に、文学的に、美しい絵で掘り下げられる人間関係。選考会の中で「この作品を全部理解して評価できているか、自信が無い」と言う意見も散見されたほど、読後の感覚は人それぞれなのだろう。ある意味、印象派と表現しても良いのかもしれない。


 短編賞は『夜廻り猫』。1ページの中に凝縮されたドラマ。現代を生きる様々な年代、環境の人間たちの「涙」を探す猫、平蔵。ページをめくるたびに次々とドラマが移り変わっていくが、登場した人々のドラマは、そのページの前も後もあるのだろうと思わせてくれる。心がじんわりと暖かくなり、何度も見返したくなる作品。


 特別賞には、秋本治氏を挙げさせていただいた。四十年もの間、一度も原稿を落とさなかったプロ精神、色あせることなく、時代を切り取り続けた偉業。小学生の頃から大好きでした。


◆ 杏委員 1次推薦作 ◆


クジラの子らは砂上に歌う

【マンガ大賞】
(1)『クジラの子らは砂上に歌う』梅田阿比 5点
(2)『阿・吽』おかざき真里 4点
(3)『ドリフターズ』平野耕太 3点
(4)『雪花の虎』東村アキコ 2点
(5)『ましろのおと』羅川真里茂 1点
【新生賞】 『夜廻り猫』深谷かほる
【短編賞】 『夜廻り猫』深谷かほる



◆ あん ◆


あん

1986年東京都生まれ。俳優。
15歳でモデルデビューし、2005年からパリコレなど海外のショーに出演。
07年から俳優活動を始め、以降ドラマ、映画、雑誌など多方面で活躍中。16年にエッセー集『杏の気分ほろほろ』(朝日新聞出版)を出版。



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◆ 桜庭一樹委員 コメント ◆


 『昭和元禄落語心中』は、最終巻まで読んで真価がわかったと思いました。一つの国の歴史、落語という文化の中を生きた八雲という人物を描き切っています。また、過去を舞台にして印象深い人物を書くことはできても、〝現代の日本まで引っ張ってくる〟ことには予想外の向かい風が吹き、たいへんな胆力がいるはずです。このラストまでよくぞ書いたと思ったのです。


 『花に染む』は、独特の時間の流れの中、プロットが不思議な形で重層化されていました。長い夢を見たような読後感がいまも続いています。


 『夜廻り猫 今宵もどこかで涙の匂い』は Twitter で回ってくるものを一篇ずつ読んでいました。単行本でまとめて再読すると、ワンシチュエーション物でここまで無限にアイデアが出て、読者にも飽きさせないところがすごいと気づきました。


 候補作はどれも面白く、正直とても困りました。落選した中で、大賞候補作では『ど根性ガエルの娘』をわたしは推しました。構成力が巧みです。最初に書かれた平和なシーンが、後半で繰り返されるとべつの恐ろしい意味を持ったり、あぁ、このシーンをこのタイミングで出すか、という〝見せる技術〟に翻弄されました。また現実の苦しみを物語として落としこむバランスの取り方、体力、強い呪力も感じました。私小説『死の棘』のような恍惚と目眩! どうしても書ききってほしいです。『 SAD GiRL 』もよかったなぁ。最後の「生きていこう」で落涙……。


 短編賞候補作では『ヒューマニタス』(山本亜季作、小学館)の豊かな物語の連続に驚きました。『ぼのぼの』(いがらしみきお作、竹書房)四一巻も、災害、ぼのぼのの誕生、母の死が描かれて素晴らしかった。四一巻でこんな凄いことになっていたとは !! ほか、わたしは『吉野朔実劇場 吉野朔実は本が大好き』(吉野朔実作、本の雑誌社)を推しました。読書家としての集大成の一冊。装丁もうつくしく、作った人たちの深い愛を感じました。


◆ 桜庭一樹委員 1次推薦作 ◆


ど根性ガエルの娘

【マンガ大賞】
(1)『ど根性ガエルの娘』大月悠祐子 5点
(2)『ちはやふる』末次由紀 4点
(3)『昭和元禄落語心中』雲田はるこ 3点
(4)『透明なゆりかご』沖田×華 2点
(5)『それでも町は廻っている』石黒正数 1点
【新生賞】 『プリンセスメゾン』池辺葵
【短編賞】 『吉野朔実は本が大好き』吉野朔実



◆ さくらば・かずき ◆


桜庭一樹

1971年生まれ、鳥取県出身。
小説家。99年にデビュー。2007年に『赤朽葉家の伝説』で日本推理作家協会賞、08年に『私の男』で直木賞を受賞。
ほかに『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』『GOSICK―ゴシック―』シリーズなど。



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◆ 里中満智子委員 コメント ◆


 当たり前のことすぎて「今更」と言われそうだが、最終選考に残る作品は皆素晴らしい。世の中に数え切れないほどの多くの漫画作品があり、それら全てに作者の人生が反映されている。それらを「比べて」「選び取る」なんてとても無理だし、傲慢だ。私なんか「うわーっこんなの私にはとても描けない! みんな凄いなぁ」と憧れでいっぱいになり、選考委員なんかやっていいのか? と縮こまってしまう。


 だから私は「一読者」として「この作品をもっと多くの人に読んでもらいたい」「感動と応援を表したい」と思ってのぞむだけだ。


 『ゴールデンカムイ』は相変わらず面白さに圧倒される。身の毛もよだつ恐ろしい状況が繰り広げられたり、正気でない人物が数多く登場したりするにもかかわらず、明るさが漂う不思議な魅力がある。惜しくも受賞は逃したが、今後もリズムを保ちつつ楽しませてほしい。


 『花に染む』は読み手の熟練度が問われる作品。作者は長年実績を積みながら「読者を選ぶ勇気と自信」を強い覚悟を持って形にしたのだと察する。時間をかけて味わってほしい作品。


 『昭和元禄落語心中』は人物の業が香り立つ大人のドラマだ。落語という舞台を借りて人間同士の「間合い」を丁寧に描いていて時代を代表する作品になっている。

 『夜廻り猫』はお茶漬けかと思って食べたら濃厚なリゾットだったという感じ。静かでいて濃密な魅力がある。


 『ヒューマニタス』は社会派エンターテインメントとしての完成度が高く、もっと読みたい! と身悶えしてしまった。


 『ど根性ガエルの娘』は明るく楽しく読めてしまうのが不思議なほどの、痛ましい衝撃的感動作。


 『吉野朔実は本が大好き』。吉野さんがもういないことはとても残念だ。書評として読むべき本だと思う。


◆ 里中満智子委員 1次推薦作 ◆


ゴールデンカムイ

【マンガ大賞】
(1)『ゴールデンカムイ』野田サトル 5点
(2)『こちら葛飾区亀有公園前派出所』秋本治 4点
(3)『乙嫁語り』森薫 3点
(3)『昭和元禄落語心中』雲田はるこ 3点



◆ さとなか・まちこ ◆


里中満智子

1948年大阪府生まれ。マンガ家、大阪芸術大学キャラクター造形学科教授・学科長。
64年『ピアの肖像』でデビュー。代表作『アリエスの乙女たち』『海のオーロラ』『天上の虹』など。
2006年に文部科学大臣賞、10年に文化庁長官表彰を受賞。



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◆ 中条省平委員 コメント ◆


 マンガ大賞では、くらもちふさこの『花に染む』が圧倒的な存在感と完成度で抜きんでていたと思います。


 この作品の前編というべき『駅から5分』は、作者の巧緻な物語技法が頂点に達した作品で、同時多発的群像劇を見事に作りあげています。


 一方、『花に染む』は、『駅から5分』の1エピソードを展開しなおした長編で、正統的な日本の少女マンガの技法を活用し、純粋無垢のラブストーリーを、4人の男女が交錯する複雑な感情のドラマとして描きだしています。日本の少女マンガが発展させてきた主題と技法が結晶した感嘆すべき作品です。


 『駅から5分』と『花に染む』の連作は、「花染町」という土地が舞台です。なぜこの地名か? という種明かしは、連載開始から5年経ってなされました。この息の長い構想の周到さが驚異の的です。しかも、それは日本の文学的伝統と深く結びつくものでした。マンガのなかで西行の思想を不自然でなく甦らせるという力業が可能な作家は、そう多くはないでしょう。今こそ、くらもちふさこという稀有の作家を顕揚し、再評価すべき絶好の機会だと考えます。


 『昭和元禄落語心中』も、落語家たちの4代にわたる因縁にみちた人間関係のドラマをたゆみなく描きだす話法の巧みさに驚きます。また、そこには、夫婦の心中と子供の誕生をめぐる二重の謎解きが仕掛けられていて、一種のミステリーとしても読みごたえがありました。

 新生賞ではもう一作、山本亜季の『ヒューマニタス』にも注目しました。いまの日本から完全に離れて、世界とその歴史のなかの、われわれ日本人には想像もつかないような多様な社会や文化を描く志の高さこそ、真に「新生」の名に値します。


 短編賞では、私はいがらしみきおの『ぼのぼの』を推しました。とくに2016年刊の第41巻は、東日本大震災の記憶を寓話として語り、しかも、その記憶を人間の悲しみという普遍的な主題に昇華しているのです。これ以上いうことはありません。


◆ 中条省平委員 1次推薦作 ◆


花に染む

【マンガ大賞】
(1)『花に染む』くらもちふさこ 5点
(2)『昭和元禄落語心中』雲田はるこ 4点
(3)『ディザインズ』五十嵐大介 3点
(4)『ニュクスの角灯』高浜寛 2点
(5)『死者の書』近藤ようこ/原作:折口信夫 1点
【新生賞】 『ヒューマニタス』山本亜季
【短編賞】 『ぼのぼの』いがらしみきお



◆ ちゅうじょう・しょうへい ◆


中条省平

1954年神奈川県生まれ。学習院大学フランス語圏文化学科教授、映画評論家、マンガ評論家。
仏政府給費留学生として渡仏し、パリ大学文学博士号取得。著書に『マンガの論点 21世紀日本の深層を読む』など。



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◆ 中野晴行委員 コメント ◆


 受賞作については、順当な作品に落ち着いたと思います。順当すぎるのが気になるところではありますが……。


 私が推した作品の中で大賞にノミネートされたのは、星野之宣さんの『レインマン』と野田サトルさんの『ゴールデンカムイ』の2作品でした。


 『レインマン』は、ポルターガイストや幽体離脱など、さまざまな超常現象を人間の脳の未知の領域と結びつけ、最新の脳科学や量子物理学を駆使して描くという異色のサイコSF作品です。量子コンピュータ<Bレイン>の暴走など、人間が制御できないテクノロジーが引き起こす恐怖も描かれた本作のバックボーンにあるのは、2011年3月11日に起きた東日本大震災による津波の被害とその後に起きた福島第一原子力発電所のメルトダウン事故だと思います。昨年は『シン・ゴジラ』や『君の名は。』など、「3.11」をバックボーンに持つ名作が登場しましたが、震災から5年の歳月を経て、ようやくクリエーターたちにあの悲劇を作品の中に昇華し継承する心の余裕が生まれてきたのだと思います。本作もその系譜にある作品として評価します。


 『ゴールデンカムイ』は昨年もノミネートされ惜しくも大賞を逃しました。現在でも、もっとも力のあるマンガだと感じています。編集者や書店員、ファンによる関係者推薦でも多くの人がこの作品を選んでいます。


 手塚治虫がなによりも読者の声を大切にしたマンガ家である以上、手塚治虫文化賞もファンや関係者の声を無視できないと考えていました。また、手塚治虫がアイヌの近代史を描こうとしながら、さまざまな社会的な状況によって、連載途中で方向変換を余儀なくされた『シュマリ』の無念を晴らす作品としていつかは受賞してもらいたい作品です。2年続けて受賞が成りませんでしたが、いつの日にか必ず、と期待しています。


◆ 中野晴行委員 1次推薦作 ◆


レインマン

【マンガ大賞】
(1)『レインマン』星野之宣 5点
(2)『ゴールデンカムイ』野田サトル 4点
(3)『BLUE GIANT』石塚真一 2点
(3)『ワールドトリガー』葦原大介 2点
(3)『金の国 水の国』岩本ナオ 2点
【新生賞】 『盆の国』スケラッコ
【短編賞】 『まんが政治VS.政治まんが 七人のソーリの一〇年』佐藤正明



◆ なかの・はるゆき ◆


中野晴行

1954年大阪府生まれ。マンガ編集者。
2008年『謎のマンガ家・酒井七馬伝』で日本漫画家協会賞特別賞。
京都精華大学マンガ学部客員教授、デジタルハリウッド大学客員教授。著書に『やなせたかし 愛と勇気を子どもたちに』など。



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◆ 南信長委員 コメント ◆


 1次選考では若い描き手を優先したが、これを最終候補に挙げられたら仕方ない。というわけで、最終的には『花に染む』に票を投じた。


 第13回のマンガ大賞候補となった『駅から5分』は、常に最先端の表現を追い求めるくらもちふさこのひとつの到達点を感じさせる作品だった。アクロバティックな演出と画面構成、ユニークなキャラクターと複雑な人物相関は圧巻。映画や小説などを含めても、あそこまで高度な表現はなかなかないだろう。その続編というかアナザーストーリーとして描かれた『花に染む』も、さらに洗練されたハイエンドな表現と美しく張りつめた物語に圧倒される。


 到達点に見えたのは通過点にすぎなかったのだ。完結後に『駅から5分』の世界に立ち戻る構成にも意表を突かれる。これを機に受賞作を手に取るなら、ぜひ『駅から5分』も併せてお読みいただきたい。


 受賞は逃したが、『トクサツガガガ』も多くの人に読まれてほしい作品だ。隠れオタクの生態を面白おかしく描くだけかと思いきや、マイノリティの立場から見た社会の同調圧力の理不尽さ、ジェンダーによる束縛、親からの抑圧といった現代的な問題にもスマートに切り込んでいく。巻を重ねるごとに、特撮を通して人生の機微に触れるような"深イイ話"も増えており、教育的ですらある。それでいて教訓めいた話で終わらせず、しっかり笑えるオチをつけるところもいい。たまたま主人公が特撮オタクなだけで、すべての趣味に通じる普遍性もある。心から好きなものがある人生とは、なんて豊かなんだろうと改めて思う。


 新生賞の『昭和元禄落語心中』は10巻で完結というパッケージも含め完成度が高い。時間のつながり、血のつながり、芸のつながりが一貫して描かれ、30巻分ぐらいの読みごたえと満足感あり。短編賞の『夜廻り猫』は、ツイッターで誰に頼まれたわけでもなく描き始めた物語が多くの人の心を打ったという、それ自体の物語性にもグッとくる。


◆ 南信長委員 1次推薦作 ◆


レインマン

【マンガ大賞】
(1)『トクサツガガガ』丹羽庭 5点
(2)『昭和元禄落語心中』雲田はるこ 4点
(3)『たそがれたかこ』入江喜和 3点
(4)『先生の白い嘘』鳥飼茜 2点
(5)『ゴールデンカムイ』野田サトル 1点
【新生賞】 『ファイアパンチ』藤本タツキ
【短編賞】 『まんが家総進撃』唐沢なをき



◆ みなみ・のぶなが ◆


南信長

1964年大阪府生まれ。マンガ解説者。
朝日新聞読書面でコミック欄を担当するほか、各媒体で活躍。
著書『現代マンガの冒険者たち』『マンガの食卓』『やりすぎマンガ列伝』。近刊に楠見清氏との共著『もにゅキャラ巡礼』がある。



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◆ みなもと太郎委員 コメント ◆


 毎回、「候補作の豊麗さに比べ授賞ワクが少なすぎる」というのが正直な感想です。最終審査まで残った作品は、どれも各委員の信念が「これは絶対落とせない」という所まで絞り込まれているので、「じゃあ全部にあげればいいじゃない」と思ってしまうワケですね。あと、その年限りの候補作と、連載が何年も続いていて、毎回候補に挙がってこられる作品を、同じリングで評議するのも何か不公平感が拭えません。これは今のマンガ文化独特の現象なので、「長期連載部門」みたいなワクを設けるべきではないかと考えます。


 以上が全体の感想で、次に個々の作品について述べますと、今回も涙を飲んだ高浜寛作品は来年に期待。吉本浩二『淋しいのはアンタだけじゃない』は難聴の世界を探るという、これまでにないジャンルに真ッ正面から挑戦し、マンガならではの説得力に富んだ作品になっている点を大いに買いました。武田一義『ペリリュー 楽園のゲルニカ』は戦後70年以上が過ぎた現在の世代が、いかに過去の戦争に向き合い、語り継ぐことが出来るかという、ひとつの優れた解答を見せてもらった思いがし、大いに感動しました。山田参助『あれよ星屑』はモット評価されるべき。ぽんとごたんだ『桐谷さん ちょっそれ食うんすか!?』は美味しがるばかりの世間のグルメマンガにいささか「食傷」している私としては、みんながいやがる「ゲテモノ食い」を楽しむ視点が新鮮に映りました。


 新生賞の『夜廻り猫』は第1次選考まで知らなかったので点をつけていませんが、高く評価出来ますし、受賞に異存はありません。ただ山本亜季『ヒューマニタス』は近年希な新人の出現で、「2作受賞」もあり得たのではないかと考えます。最後に、マンガの原点である「ギャグ」をひたすら探りつづけている目立たない作家、上野顕太郎をモット知ってほしく思い『夜の眼は千でございます』を推した次第でございます。紙数が尽きました。おアトが宜しいようで。


◆ みなもと太郎委員 1次推薦作 ◆


レインマン

【マンガ大賞】
(1)『SAD GiRL』高浜寛 5点
(2)『ペリリュー楽園のゲルニカ』武田一義 4点
(2)『淋しいのはアンタだけじゃない』吉本浩二 4点
(4)『あれよ星屑』山田参助 1点
(4)『桐谷さんちょっそれ食うんすか!?』ぽんとごたんだ 1点
【新生賞】 『ヒューマニタス』山本亜季
【短編賞】 『夜の眼は千でございます』上野顕太郎



◆ みなもと・たろう ◆


みなもと太郎

1947年京都府生まれ。漫画家・マンガ研究家。67年「別冊りぼん」でデビュー。
代表作『風雲児たち』『ホモホモ7』など。第8回手塚治虫文化賞特別賞受賞。
第14回文化庁メディア芸術祭マンガ部門で優秀賞受賞。



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◆ ヤマダトモコ委員 コメント ◆


 今回の最終選考会の帰り道は、泣けてしかたがありませんでした。くらもちふさこさんは、大大大好きな作家さんです。個人的に好きなだけでなく、100年後も高く評価されるべき創作者だと思っています。『花に染む』は10年かけて完結した作品、ご自身も画業45年というすばらしいタイミング。ですが、今回大賞に推すという発想が私にはなかった。


 私の場合、くらもち作品は、発表されてすぐではなく少し時間を経てその素晴らしさが染みてくることが多いので、大賞に推されていた中条さんにその理由をお聞きしました。ご説明にはもちろんすごく納得し、また「くらもち作品の入門書として少し難しくないですか?」という私の質問に、初めてくらもち先生の作品を読んだけれども、もっと他の作品も読みたくなった、とおっしゃる選考委員の方がいらしたことも心強かったです。


 それでも最終投票に際し、『昭和元禄落語心中』に票を投じる私がいました。本作は昨年から今年にかけアニメも大成功し、落語に、マンガを介して大勢の新しい鑑賞者を呼び込み、ある意味社会現象を起こしました。それも大事ですが、10巻でピシッと完結の気風のよさ、その完結内容の見事さに震えました。雲田はるこさんの、最も尊い資質だと私が感じるのは、「よいものをより多くの人に知らせたい」という気持ちの強さです。そのよいものの中には、落語だけでなく、くらもちさんも世界を大きく切り開いて来られた「少女マンガ」というジャンルが含まれます。ある意味、今の雲田作品が生まれる世界を開いてきたくらもち作品の大賞受賞。母のようなくらもち作品の大賞と、娘のような雲田作品の新生賞。もちろん納得できる贈賞です。


 私が泣けた最も大きな理由は、くらもち作品を賞に推せるチャンスに、別の作品を推す事態が自分に起こってしまったことへの驚きです。辛かった。それは、今のマンガの豊饒さへの驚きに他なりません。みなさま、受賞おめでとうございます。


◆ ヤマダトモコ委員 1次推薦作 ◆


昭和元禄落語心中

【マンガ大賞】
(1)『昭和元禄落語心中』雲田はるこ 5点
(2)『ゴールデンカムイ』野田サトル 3点
(3)『逃げるは恥だが役に立つ』海野つなみ 3点
(4)『プリンセスメゾン』池辺葵 2点
(5)『金の国 水の国』岩本ナオ 2点
【新生賞】 『ニュクスの角灯』高浜寛
【短編賞】 『キレる私をやめたい ~夫をグーで殴る妻をやめるまで~』田房永子



◆ やまだ・ともこ ◆


ヤマダトモコ

1967年富山県生まれ。マンガ研究者。マンガ関係の展示監修やライターも手がける。
2005~10年、川崎市市民ミュージアムにてマンガ担当の嘱託職員。
09年より明治大学 米沢嘉博記念図書館スタッフ。日本マンガ学会理事。



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