• 手塚治虫文化賞 第22回マンガ大賞受賞作品
  • 手塚治虫文化賞 第22回新生賞受賞作品
  • 手塚治虫文化賞 第22回短編賞受賞作品
  • 手塚治虫文化賞 第22回特別賞受賞作品
  • 手塚治虫文化賞 第21回受賞作品はこちら
  • 手塚治虫文化賞 第20回記念サイトはこちら(20回までの受賞作品をご覧いただけます)

第22回(2018年)手塚治虫文化賞■  選考結果


 第22回は、2017年に刊行されたマンガ単行本を選考の対象にしています。
書店員やマンガ雑誌編集者ら約200人による「関係者推薦」の結果も参考に、8人の社外選考委員がポイント投票を行いました。選考委員の持ち点は各15点で、最高点を5点とし配分します(ただし5点満点は1作品のみ)。



【→ 選考委員のコメントはこちら】 【→ 受賞作品と作者コメントはこちら】
【→ 贈呈式のようすはこちら】 【→ 手塚治虫文化賞公式サイト トップへ】



▲TOPへ戻る


 

マンガ大賞 1次選考結果 (ノミネート10作品)


【1位】  『ゴールデンカムイ』(集英社)野田サトル =選考委員推薦 8点(里中5、ヤマダ3)
       *関係者推薦 1位(書店員やマンガ雑誌編集者ら約200人が持ち点1点ずつ投票し、決定)


【1位】  『約束のネバーランド』 (集英社)原作:白井カイウ/作画:出水ぽすか =選考委員推薦 8点(秋本4、杏4)


【3位】  『傘寿まり子』 (講談社)おざわゆき =選考委員推薦 6点(里中4、ヤマダ2)


【3位】  『蒼き鋼のアルペジオ』 (少年画報社)Ark Performance =選考委員推薦 5点(秋本5)


【4位】  『うつヌケ うつトンネルを抜けた人たち』 (KADOKAWA)田中圭一 =選考委員推薦 5点(ヤマダ5)


【4位】  『狂気の山脈にて』 (KADOKAWA)田辺剛 =選考委員推薦 5点(中条5)


【4位】  『先生の白い嘘』 (講談社)鳥飼茜 選考委員推薦 5点(南5)


【4位】  『それでも町は廻っている』 (少年画報社)石黒正数 =選考委員推薦 5点(桜庭5)


【4位】  『BLUE GIANT』 (小学館)石塚真一 =選考委員推薦 5点(杏5)


【4位】  『MATSUMOTO』 (誠文堂新光社)作:LF・ボレ/画:フィリップ・ニクルー/訳:原正人 =選考委員推薦 5点(みなもと5)


 

※表紙は、最終候補作発表(2018年2月)時点の最新刊です。


ゴールデンカムイ
ゴールデンカムイ
野田サトル(集英社)

約束のネバーランド
約束のネバーランド
原作:白井カイウ、
作画:出水ぽすか (集英社)

傘寿まり子
傘寿まり子
おざわゆき(講談社)

蒼き鋼のアルペジオ
蒼き鋼のアルペジオ
Ark Performance(少年画報社)

狂気の山脈にて
狂気の山脈にて(全4巻)
田辺剛(KADOKAWA)

先生の白い嘘
先生の白い嘘
(全8巻)

鳥飼茜(講談社)

それでも町は廻っている
それでも町は廻っている
(全16巻)

石黒正数(少年画報社)

BLUE GIANT
BLUE GIANT
(全10巻)

石塚真一(小学館)

MATSUMOTO
MATSUMOTO
作:LF・ボレ、
画:フィリップ・ニクルー、
訳:原正人
(G-NOVELS/誠文堂新光社)

 


 

 

 

関係者推薦のマンガ大賞 得票上位作 


【1位】  『ゴールデンカムイ』(集英社) 野田サトル


【2位】  『漫画 君たちはどう生きるか』(マガジンハウス)原作:吉野源三郎/漫画:羽賀翔一


【3位】  『傘寿まり子』(講談社)おざわゆき


【3位】  『昭和天皇物語』(小学館)能條純一/原作:半藤一利/脚本:永福一成/監修:志波秀宇


【3位】  『ペリリュー ―楽園のゲルニカ―』(白泉社)武田一義/平塚柾緒(太平洋戦争研究会)


【6位】  『BLUE GIANT』(小学館)石塚真一


【7位】  『約束のネバーランド』(集英社) 原作:白井カイウ/作画:出水ぽすか


【8位】  『とんがり帽子のアトリエ』(講談社)白浜鴎


【9位】  『BEASTARS』(秋田書店)板垣巴留


【9位】  『コウノドリ』(講談社)鈴ノ木ユウ


【9位】  『宝石の国』(講談社)市川春子


▲TOPへ戻る


 

 

 

社外選考委員


秋本治
秋本治 (漫画家)
【→コメントを読む】

桜庭 一樹
桜庭 一樹(小説家)
 【→コメントを読む】

里中 満智子
里中 満智子(マンガ家)
 【→コメントを読む】

中条 省平
中条 省平 (学習院大学
フランス語圏文化学科教授)

 【→コメントを読む】

南 信長
南 信長 (マンガ解説者)
 【→コメントを読む】

みなもと太郎
みなもと太郎
(漫画家・マンガ研究家)

 【→コメントを読む】

ヤマダトモコ
ヤマダトモコ
(マンガ研究者・ 明治大学
米沢嘉博記念図書館)

 【→コメントを読む】

 




▲TOPへ戻る


 

 

手塚治虫文化賞 選考委員コメント

 

◆ 秋本治選考委員コメント ◆


 今回から「手塚治虫文化賞」の選考委員に参加させていただきました。毎日、発行される星の数ほどあるコミックスの中から自由に選んで下さいと言われ、漫画好きには嬉しい限りです。


 しかし、好きな作品と「手塚治虫文化賞」に値する作品という基準は難しい。予想以上に悩みます。そこで「新規選考委員」という事で、怖い物知らずで、自分が大好きな作品を集めました。『蒼き鋼のアルペジオ』『約束のネバーランド』『踏切時間』『女子かう生』など推薦しました。


 残念ながら、説得力の弱さで今回は賞にはもれてしまいましたが、他の候補作で『ゴールデンカムイ』は、納得の作品で毎週、毎週引っぱる力の強さと、情報力の凄さは完璧ですね。


 『BEASTARS』は動物と実社会を上手にからめたパワーのある作品でした。おもしろいです。


 『大家さんと僕』は、だれにも読みやすく、その中にテーマが入っていて、上手に構成されていますね。何度も読んでみたい作品です。


 選考委員の方が推薦する20作近くの作品を読んで、改めて漫画というジャンルは自由で、奥の深いものだと感じました。


 漫画作品もパソコンが主流となり、3D背景を使用したり、彩色は実写以上のリアルな表現も可能な時代となった今……日本で漫画が誕生してから最高のレベルに達していると感じます。しかし、漫画が誕生して変わらないのは、一人で作品を作っているという事。個人の自由な考え方が作品になります。


 いままでは好きな作品を読んでいましたが、選考委員としてこれからは、より多くの漫画に触れて、ベテラン、最新鋭、新人の意欲的作品を紹介していければと思います。


◆ 秋本治選考委員 1次推薦作 ◆


蒼き鋼のアルペジオ

【マンガ大賞】
『蒼き鋼のアルペジオ』Ark Performance
『約束のネバーランド』白井カイウ/出水ぽすか
『ハッピーシュガーライフ』鍵空とみやき
『椿町ロンリープラネット』やまもり三香
『バディゴ!』黒崎みのり
【新生賞】 里好(『踏切時間』)
【短編賞】 『女子かう生』若井ケン



◆ あきもと・おさむ ◆


秋本治

1952年東京都葛飾区生まれ。漫画家。
76年、「週刊少年ジャンプ」にて『こちら葛飾区亀有公園前派出所』でデビュー。
40年間一度も休載せず週刊連載を続けた。2016年12月より、青年誌4誌に4作品を同時連載中。
第21回手塚治虫文化賞特別賞受賞。



▲TOPへ戻る


 
 

◆ 杏選考委員 コメント ◆


 子供が一心に眠る姿を見ると、『海のトリトン』を思い出す。人とは違う時間軸で成長するトリトン一族は、深い眠りの中で一気に成長するのだ。子供の頃に読んだ手塚治虫作品は、人生の様々なタイミングで、心の奥底からひょこっと顔を出してくる。


 三回目の選考会参加、今年もどれもが様々な人生に影響を与えただろう作品だ。


 『BLUE GIANT』はプロとは何なのかを痛感させられる。普通のことを普通にやっていては突出できないのだ。才能以上の努力がぶつかり合う、ジャズを題材にした青春漫画。「先生の白い嘘」は目を背けたくなる衝撃。刺激が強すぎて老若男女、特に若い世代に薦められるだろうかと悩みながらページをめくったが、実は若い人にこそ読むべきメッセージがあるのかもしれないとも思った。『約束のネバーランド』は先が読めない展開と、子供達が知と力を駆使して乗り越える姿に目が離せない。


 大賞は満を持しての『ゴールデンカムイ』。本筋と寄り道、シリアスと笑い。緩急どちらも味わい深い。短編賞『大家さんと僕』は最後の最後まで暖かい笑いに包まれた作品。新生賞『BEASTERS』は一年間で一気に6巻出した勢いときらめき、そして動物漫画という決して広くないジャンルに更なる光をあてる独創性が評価された。


 漫画業界人が多い選考員の中で私は「いち読者」枠だと思っているが、その視点から見るとなおさら、皆様の選考における漫画の作り手や読み手双方への深い愛情を感じた。意見をぶつけ合いながら、この一年のベストを選びたいし、候補に上がった作品もできるだけ列挙して紹介したい、伝えたい。熱い想いは何度も「手短に」と言われつつも、長くなってしまう。惜しくも逃した作品群も、素晴らしいものばかりだった。


 この文章を読まれる方も、きっと漫画好き。共感もして欲しいし、面白い漫画を教えていただきたい。


◆ 杏選考委員 1次推薦作 ◆


BLUE GIANT

【マンガ大賞】
『BLUE GIANT』石塚真一
『約束のネバーランド』白井カイウ/出水ぽすか
『BEASTARS』板垣巴留
『舞妓さんちのまかないさん』小山愛子
【新生賞】 椙下聖海(『マグメル深海水族館』)
【短編賞】 『大家さんと僕』矢部太郎



◆ あん ◆


杏

1986年東京都生まれ。俳優。
15歳でモデルデビューし、2005年からパリコレなど海外のショーに出演。
07年から俳優活動を始め、以降ドラマ、映画、雑誌など多方面で活躍中。
レギュラーを務めるラジオ番組発の書籍「BOOK BARお好みの本、あります。」を18年に出版。



▲TOPへ戻る


 
 

◆ 桜庭一樹選考委員 コメント ◆


 大好きな大好きな『それでも町は廻っている』を大賞に推しました。萌え、日常系、ミステリ、SFと、ジャンルをまたぎ、雄大さとミニマムな魅力を同時に持った稀有な作品です。ラストもとってもよかったなぁ~。「みんなのために消える」ことと「物を書く人になる」のは同じことで、そういう少女の高校三年間を描いた作品だったんだと思いました。


 その一方で、候補三年目の『ゴールデンカムイ』にも、今年こそという気持ちがあり、右手と左手で一作ずつ推しているような複雑な気持ちでした。受賞には納得して、かつ安堵もしました。


 新生賞は『BEASTARS』が抜きん出てよかった。多様性を巡る物語なので、今日的なテーマから伝わる著者のメッセージに、学ぶことが多くありました。


 ほか、わたしは椎名うみさんの『青野くんに触りたいから死にたい』を推薦しました。ここまで〝つぎの展開を当てられない〟書き手がいるかなぁ、と。この個性を大事に、おおきく羽ばたいてほしいと思います。


 短編賞を受賞した『大家さんと僕』も、とってもよかった。著者にとって大家さんとは、老人、女性。つまり他者です。その二人が歩み寄り、理解しあっていく、知性と愛のあるドラマに胸を打たれました。これからもぜひマンガを描き続けてほしいなぁと思いました。


 ほか、わたしは益田ミリさんの『沢村さんちシリーズ』を推薦しました。娘を中心にしつつ、老いたお父さんとお母さんのやりとりにもしみじみ味があり、人生の未知の部分を見る思いでした。


 ちばてつや先生の『ひねもすのたり日記』も、すばらしく面白かったです。(当たり前のことで、失礼なのは承知で書くのですが……)回想シーンの入り方や緩急のつけかたが容赦無く上手で、翻弄され続けでした。マンガ描くのうますぎでしょ~!! 泣いたり笑ったりしてあっというまに読み終わりました。二巻はまだか!?


◆ 桜庭一樹選考委員 1次推薦作 ◆


それでも町は廻っている

【マンガ大賞】
『それでも町は廻っている』石黒正数
『バイオレンスアクション』浅井蓮次/沢田新
『大家さんと僕』矢部太郎
『岡崎に捧ぐ』山本さほ
『青のフラッグ』KAITO
【新生賞】 椎名うみ(『青野くんに触りたいから死にたい』)
【短編賞】 『沢村さん家の久しぶりの旅行』益田ミリ



◆ さくらば・かずき ◆


桜庭一樹

1971年生まれ、鳥取県出身。小説家。99年にデビュー。
2007年に『赤朽葉家の伝説』で日本推理作家協会賞、08年に『私の男』で直木賞を受賞。
ほかに『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』『GOSICK―ゴシック―』シリーズなど。



▲TOPへ戻る


 

◆ 里中満智子選考委員 コメント ◆


 『ゴールデンカムイ』を読んでいると体温が上がる気がする。生命と食、知恵、サバイバル、闘い、陰謀、暴力、欲望が大鍋にぶち込まれてグツグツと煮えたぎり、濃厚なスープに仕上げられている。過激なシーンが多くても不思議なことに下品ではない。登場人物たちの熱量の高さ、しぶとさに敬服する。丁寧に描かれた大自然とアイヌ文化表現が、作品全体の格調を高めている。


 『約束のネバーランド』は、セリフの必然性が見事だ。漫画はつい「画面」で見せてしまいがちになるが、セリフの必然性、リズム、説得力も、漫画の重要な要素だ。画面ももちろん魅力的で、セリフとコマ割、表情の三位一体の魅力を知らしめてくれる作品だ。


 『BEASTARS』は、現実の人間社会での力の差や立場の違いを、「動物たちの社会」に置き換えて描くことでよりデフォルメ化された社会を無理なく描けている。「この手があったのか!」と驚くが、動物の表情を描きこなす画力のある人だけに可能な表現方法だ。脱帽。


 『大家さんと僕』は、最初「絵が描ける芸人さん」が「一番とっかかりやすいエッセイ漫画を描いてみた」というモノかと思っていた。数ページ読んで「アレ…?」と思い10ページ読んだらもう「誤解しててすみません」という気持ちになった。読み進むにつれ、自分の気持ちがどんどん和んでいくのがわかった。テーマそのものが「なごむ」からだと思われたらそれも誤解だ。エッセイ漫画はテーマではなく作者の感性と「読者への姿勢」で決まる。作者の「読者への伝え方」と「コマどりの間の取り方」は、才能と努力のたまものなのだろう。とにかくもっと続きが読みたい。


 『傘寿まり子』は痛快な作品だ。高齢化社会だからどうこうというのではなく、ヒロインがきちんと生きている、その生き方に説得力がある。


◆ 里中満智子選考委員 1次推薦作 ◆


ゴールデンカムイ

【マンガ大賞】
『ゴールデンカムイ』野田サトル
『傘寿まり子』おざわゆき
『阿・吽』おかざき真理
『ペリリュー ―楽園のゲルニカ―』武田一義/平塚柾緒(協力)
【新生賞】 矢部太郎(『大家さんと僕』)
【短編賞】 『漫画 君たちはどう生きるか』吉野源三郎/羽賀翔一



◆ さとなか・まちこ ◆


里中満智子

1948年大阪市生まれ。マンガ家、大阪芸術大学キャラクター造形学科教授・学科長。
高校2年時に『ピアの肖像』でデビュー。代表作『アリエスの乙女たち』『海のオーロラ』『天上の虹』など。
2006年に文部科学大臣賞を受賞。



▲TOPへ戻る


 

◆ 中条省平選考委員 コメント ◆


 マンガ大賞の1次選考で、私は田辺剛の『狂気の山脈にて』を強く推薦しました。第1の理由は、その驚嘆すべき超絶的な筆力です。とくに建築学的な描写は圧倒的で、ピラネージやモンス・デジデリオといった先人の世界を連想したほどです。原作はラヴクラフトですが、主題として「宇宙には人間の知らない何かがある」という未知の存在への畏怖を強調しています。これは人間中心主義への懐疑を示す姿勢であり、大地震や原発事故を通過した現代日本の無意識的不安を生々しく反映するものだと思います。ジャンルとしてのホラーマンガというより、そうしたアクチュアリティを持った作品として高く評価したいと思います。


 新生賞では『カフェでカフィを』のヨコイエミを推しました。掌編連作を重ね、同一の登場人物や事物を再登場させることで世界の運命の不思議さを浮かびあがらせる手法に感心しました。絵柄も洗練されて、とてもおしゃれです。


 短編賞では久世岳の『うらみちお兄さん』に票を投じました。幼児向けのお遊び番組をパロディにしたものですが、主人公のお兄さんを悪魔的にシニカルな人間として描くという設定の妙に唸らされます。登場人物たちが交わす会話の面白さに作者の言語感覚の冴えが見られる点も大きな魅力です。


 結果的に私が推した作者、作品は受賞を逸しましたが、大賞の野田サトル『ゴールデンカムイ』は日本近代史に鋭い異見を突きつける骨太な冒険マンガとして今年の大賞にこれ以上ふさわしい作品はないと思いますし、新生賞の板垣巴留『BEASTERS』も、物語の構想、画力ともに一頭地を抜く作品であり、授賞に心から賛成しました。なかでも、短編賞の矢部太郎『大家さんと僕』は、一見ヘタウマ風のユーモアエッセーマンガというありがちな作風ですが、人間を見つめるまなざしに距離感と温かさが見事なバランスで共存して、深く感動させられました。


◆ 中条省平選考委員 1次推薦作 ◆


狂気の山脈にて

【マンガ大賞】
『狂気の山脈にて』田辺剛
『ニュクスの角灯』高浜寛
『零落』浅野いにお
『ウムヴェルト』五十嵐大介
『映像研には手をだすな!』大童澄瞳
【新生賞】 ヨコイエミ(『カフェでカフィを』)
【短編賞】 『うらみちお兄さん』久世岳



◆ ちゅうじょう・しょうへい ◆


中条省平

1954年神奈川県生まれ。学習院大学フランス語圏文化学科教授、映画評論家、マンガ評論家。
仏政府給費留学生として渡仏し、パリ大学文学博士号取得。
著書に『マンガの論点 21世紀日本の深層を読む』など。


 

▲TOPへ戻る


 

◆ 南信長選考委員 コメント ◆


 一昨年のマンガ大賞において一次選考で1位、各選考委員のコメントでも高評価だった(自分も最高点を投じ最終選考会で強く推した)にもかかわらず受賞を逃し、昨年は関係者推薦1位だったがやはり受賞には至らなかった『ゴールデンカムイ』。今回は一次選考、関係者推薦ともに1位である。これで受賞できなかったら、あまりに理不尽というものだ。その意味でも"三度目の正直"の受賞は喜ばしい。


 とはいえ、『先生の白い嘘』も本来なら大賞に選ばれておかしくない作品だ。男と女の性と愛、罪と罰をこれほど生々しく描いたものが、かつてあっただろうか。優越感と劣等感、羨望と軽蔑、執着と嫌悪、支配と従属が複雑に絡み合う人間関係は、まるで生傷に塩を塗り込まれるような痛みを伴う。読んでいて息が詰まり目を背けたくなる。でも、目を離せない。重くグロテスクな題材ながら最終的には救いもあり、後味は悪くない。隅々まで神経の行き届いたセリフ、奥行きのあるキャラクター造形、大胆かつ繊細なコマ割りと構図など、マンガ表現としてのクオリティも高い。


 本作も含め、近年の鳥飼茜の充実ぶりは図抜けている。その意欲的な創作活動を、おそらく代表作となるはずの本作の完結を機に顕彰したかったが、必ずまたチャンスはあるだろう。


 新生賞の『BEASTARS』は、従来の動物擬人化ものでは暗黙の了解で"なかったこと"にされていた「食う/食われる」の関係に大胆に切り込んできたのが斬新。作画、ストーリー運び、世界観の構築ともに新人とは思えぬほどうまい。


 短編賞の『大家さんと僕』は、お笑い芸人の余技かと思ったらとんでもなかった。一見素人っぽいが自分の線を持っているし、構図や演出も効果的。大家さんの言動をただ面白おかしく描くのではなく、ツッコミつつも敬意があるからこそ品格のある笑いとなり、ベストセラーにもなったのだ。


◆ 南信長選考委員 1次推薦作 ◆


先生の白い嘘

【マンガ大賞】
『先生の白い嘘』鳥飼茜
『たそがれたかこ』入江喜和
『あれよ星屑』山田参助
『銃座のウルナ』伊図透
『ムシヌユン』都留泰作
【新生賞】 西村ツチカ(『アイスバーン』『北極百貨店のコンシェルジュさん』)
【短編賞】 『大家さんと僕』矢部太郎



◆ みなみ・のぶなが ◆


南信長

1964年大阪府生まれ。マンガ解説者。
朝日新聞読書面でコミック欄を担当するほか、各媒体で活躍。著書『現代マンガの冒険者たち』『マンガの食卓』『やりすぎマンガ列伝』。
近刊に美術評論家・楠見清氏との共著『もにゅキャラ巡礼』がある。



▲TOPへ戻る


 

◆ みなもと太郎選考委員 コメント ◆


 えーと、実は私が前回まで推していた作家さんが二人までも(高浜寛・上野顕太郎)、他所でマンガ賞を獲得されちゃいましたので、今回は心オダヤカに審査に向かいました。オウムサリン事件を扱ったフランスの作品、LF・ボレ『MATSUMOTO』のタイトルは、「松本智津夫」のことかと思ったら、我々さえも忘れがちな「松本サリン冤罪事件」がマンガの中心であり、このときの捜査の不手際、役人の硬質さが「地下鉄サリン」の結果を招いた、という鋭い視点に感銘を受けました。


 オーサ・イェークストロム『北欧女子オーサが見つけた日本の不思議』のオーサは、ある意味現代の「イザベラ・バード」にも見え、日本マンガに人生を賭ける作者に好感を覚えました。


 今回私が推して受賞を逸したのは以上2作品で、「ゴールデンカムイ」は前々回、私のイチオシだったにもかかわらず、その年しか取れない『鼻紙写楽』を優先し、結果スルーした作品だったので、今回の受賞で肩の荷がおりました。


 ちばてつや先生は『ひねもすのたり日記』で短編賞に推したのですが、特別賞に選ばれたので嬉しいです。


 『大家さんと僕』も一次選考では知らなかったのですが、その後読んで頷くものがあり賛成に回りました。


 『BEASTARS』は既に2冠を取っているので逡巡しましたが、既刊を通読し、この新人は3冠の価値がある! と確信しました。ディズニー、フライシャーらによってほぼ確立され、手塚治虫も踏襲し、「ファーリー」と称され欧米のオタクからもやや軽く見られてきた、この「擬人化動物ジャンル」が、本作によって革命を起こすかも知れない。その可能性すら感じられます。いや~今回は収穫が多かった。それにしてもヤッパリ、授賞ワクをもっと拡げてほしいデス。


◆ みなもと太郎選考委員 1次推薦作 ◆


MATSUMOTO

【マンガ大賞】
『MATSUMOTO』LF・ボレ/フィリップ・ニクルー/原正人(訳)
『漫画 君たちはどう生きるか』吉野源三郎/羽賀翔一
『北欧女子オーサが見つけた日本の不思議』オーサ・イェークストロム
『女流飛行士マリア・マンテガッツァの冒険』滝沢聖峰
『百姓貴族』荒川弘
【新生賞】 オーサ・イェークストロム(『北欧女子オーサが見つけた日本の不思議』)
【短編賞】 『ひねもすのたり日記』ちばてつや
              受賞4人は、やはり少ない



◆ みなもと・たろう ◆


みなもと太郎

1947年京都府生まれ。漫画家・マンガ研究家。67年「別冊りぼん」でデビュー。
代表作『風雲児たち』『ホモホモ7』など。第8回手塚治虫文化賞特別賞受賞。
第14回文化庁メディア芸術祭マンガ部門で優秀賞受賞。



▲TOPへ戻る


 

◆ ヤマダトモコ選考委員 コメント ◆


 ついに『ゴールデンカムイ』の大賞受賞です。関係者推薦にも連続して選ばれており、満場一致でした。


 ここ数年本賞の大賞に推す作品を選ぶ際"『ゴールデンカムイ』よりおもしろいか? 重要作か?"を規準にしている自分がいました。本年度は、1次選考時には推薦の2位に『ゴールデンカムイ』(『プリンセス・メゾン』と同列で)、1位には田中圭一さんの『ウツぬけ』を推しました。1作しか推薦できない短編賞にも『ウツぬけ』『ペンと箸』『若ゲのいたり』などの功績で田中さんを、「新生賞」にも、新境地を開いたという意味で田中さんを推しそうになりましたが、こちらも1作しか推薦できないので、今年度は本作! と思っていた『BEASTARS』を推しました。


 しかし、しかしです。本賞の最終選考会までに、「文化庁メディア芸術祭」の新人賞と「マンガ大賞」の大賞をとってしまったのです。それ自体はおめでたいのですが、正直3度推しになるなら田中さんに「新生賞」を差し上げたかった。「なんで手塚治虫文化賞は色んな賞の後に最終選考会がやってくるんだよー!」と思ったくらい(←逆恨みです)。それほどまでに、本年度の田中さんの作品はすべてすばらしく、特に『ウツぬけ』には何か大きな結果を差し上げたかった。理由を説明した私の熱い推薦文をそのままここに掲載したいくらいですが……。ただ、最終結果には何も不満はありません。


 短編賞の『大家さんと僕』は候補にあがってくる前から好きな作品です。続きがぜひ読みたいです。ちばてつや先生の特別賞は遅すぎたくらいです。たくさんのすばらしい作品と誠実なお人柄で、現在マンガ界全体の要となっていらっしゃる存在です。


 本年度は色んな意味で「強い」作品・作家がそのまま受賞した年です。受賞のみなさま、本当におめでとうございます。


◆ ヤマダトモコ選考委員 1次推薦作 ◆


うつヌケ うつトンネルを抜けた人たち

【マンガ大賞】
『うつヌケ うつトンネルを抜けた人たち』田中圭一
『ゴールデンカムイ』野田サトル
『プリンセスメゾン』池辺葵
『傘寿まり子』おざわゆき
『弟の夫』田亀源五郎
【新生賞】 板垣巴留(『BEASTARS』)
【短編賞】 田中圭一(『うつヌケ』ほか)



◆ やまだ・ともこ ◆


ヤマダトモコ

1967年富山県生まれ。マンガ研究者。マンガ関係の展示監修やライターも手がける。
2005~10年、川崎市市民ミュージアムにてマンガ担当の嘱託職員。
09年より明治大学 米沢嘉博記念館図書館スタッフ。



▲TOPへ戻る