手塚治虫文化賞

第10回 手塚治虫文化賞

 日本のマンガ文化の発展、向上に大きな役割を果たした手塚治虫さんの業績を記念する「手塚治虫文化賞」(朝日新聞社主催)の第10回受賞作が決まった。

 2005年に発行されたすべてのマンガ作品の中で、最も優れた作品に贈る「マンガ大賞」には吾妻ひでおさんの「失踪(しっそう)日記」が選ばれた。自らの路上生活とアルコール依存症の体験をユーモアを交えて描いた。また、清新な才能の作者に贈る「新生賞」は、ひぐちアサさんに決まった。「おおきく振りかぶって」で、野球マンガに新たな表現領域を切り開いた。短編・4コマ・1コマを対象にする短編賞には伊藤理佐さんが選ばれた。「女いっぴき猫ふたり」「おいピータン!!」などで日常生活のおかしさを巧みに切り取った。マンガ文化の発展に貢献した個人・団体に贈る特別賞は、長年、海外コミックを日本に紹介してきた小野耕世さんに贈られた。

 大賞・新生賞・短編賞は選考委員が合議で決め、特別賞は朝日新聞社が選んだ。贈呈式は6月7日午後5時半から、東京・丸の内の東京会館で開かれる。

選考経過

〈復活を称賛、評価は大差〉

 マンガ大賞は、まず、選考委員を含むマンガ関係者と一般から推薦作品を募った。その中から選考対象作を決め、委員が持ち点15点(1作品最高5点まで)で投票、大賞候補を上位7位までの11作品に絞り込んだ(別表)。投票の結果、1位の「失踪日記」と、2位以下で大きく差が開いた。

 「ギャグマンガ家はだいたい10年やるとおかしくなるのに、よくぞ復活してきた」(いしかわ)、「吾妻さんを知らない、若い人が読んで20万部を超えた。懐古的な作家ではない」(印口)と、「失踪日記」を評価する声が相次いだ。反対意見も作品の内容に関するものは少なく、高評価は揺るがなかった。

 一方で、2人の審査員から5点を得た「NANA」を推す声も女性の選考委員から上がった。「少女マンガを読まない層への浸透度」(藤本)といった部分を評価する意見も出たが、全体の同意は得られなかった。 (西田健作)

社外選考委員の方々=敬称略、50音順

  • 荒俣宏(作家)
  • いしかわじゅん(マンガ家)
  • 印口崇(マンガ専門店店長)
  • 香山リカ(精神科医)
  • 呉智英(評論家)
  • 萩尾望都(マンガ家)
  • 藤本由香里(編集者・評論家)
  • 村上知彦(評論家)

1次選考結果(7位まで)

  • (1)「失踪日記」(吾妻ひでお作、イースト・プレス)=26点(呉5、藤本5、村上5、印口4、いしかわ4、荒俣3)
  • (2)「のだめカンタービレ」(二ノ宮知子作、講談社)=12点(萩尾5、香山3、いしかわ2、藤本2)
  • (3)「NANA」(矢沢あい作、集英社)=10点(香山5、藤本5)
  • (4)「働きマン」(安野モヨコ作、講談社)=8点(萩尾5、香山3)
  • (5)「ヒストリエ」(岩明均作、講談社)=7点(荒俣4、村上3)
  • (6)「もやしもん」(石川雅之作、講談社)=6点(いしかわ3、印口2、村上1)
  • (7)「イヴの眠り」(吉田秋生作、小学館)=5点(村上5)
  • (7)「王様の仕立て屋〜サルト・フィニート〜」(大河原遁作、集英社)=5点(印口5)
  • (7)「団地ともお」(小田扉作、小学館)=5点(呉5)
  • (7)「リアル」(井上雄彦作、集英社)=5点(萩尾5)
  • (7)「リトル・フォレスト」(五十嵐大介作、講談社)=5点(いしかわ5)

選考委員評

マンガ大賞
*異常体験を客観視しつつユーモラスに描いた。作家と自意識という日本近代文芸のテーマも読み取れる。(呉智英)
*ギャグマンガ家の過酷な精神状態からの、生還の記録。実体験が作家の内部で濾過(ろか)され、独自の表現へと昇華して生まれた。(村上知彦)
新生賞
*野球マンガという手あかのついたジャンルによく手をつっこんだ。ありそうでなかった論理的にプレーするという新発見が、物語に新たな光を与えている。(いしかわじゅん)
短編賞
*〈おいピータン!!〉妙にうれしいとか、納得するとか、安心する、といったことを非常にうまくすくいあげて見せてくれる。(藤本由香里)