手塚治虫文化賞

第11回 手塚治虫文化賞

 日本のマンガ文化に偉大な足跡を残した手塚治虫さんの業績を記念する「手塚治虫文化賞」(朝日新聞社主催)の第11回受賞作が決まった。

 昨年発行されたすべてのマンガ単行本の中から最も優れた作品に対して贈るマンガ大賞には、バレエマンガを究めた山岸凉子さんの「舞姫 テレプシコーラ」。清新な才能や画期的なテーマに与えられる新生賞には、軍隊生活を描いた大西巨人さんの重厚な同名小説に精緻(せいち)な作画で挑み、異色のマンガとして完成させた「神聖喜劇」の、のぞゑのぶひささんと企画・脚色の岩田和博さんが選ばれた。短編・4コマ・1コマ作品を対象とする短編賞は、庶民を主人公にした心温まる人情ドラマを創作した、森下裕美さんの「大阪ハムレット」に決まった。マンガ文化の発展に貢献した個人・団体に贈る特別賞は、今回は該当がなかった。

 大賞・新生賞・短編賞は選考委員の合議で決め、特別賞については委員会での議論を参考に、朝日新聞社が決めた。贈呈式は6月6日午後5時半から、東京・丸の内の東京会館で開かれ、大賞にはブロンズ像と副賞200万円、新生賞と短編賞にはブロンズ像と副賞100万円が贈られる。

選考経過

〈上位作品は高評価相次ぐ〉

 マンガ大賞は、マンガ関係者の推薦と読者による投票を参考に1次選考の対象作品を選んだ。選考委員が1作品につき最高5点による持ち点15点で投票。2位だった「のだめカンタービレ」が辞退したため、大賞候補を上位8作に絞った。

 最終の選考委員会では、過半数の委員が高得点を投じた「テレプシコーラ」に支持が集まった。約30年前のバレエマンガ「アラベスク」を経て、「現在のバレエを取り巻く状況を過不足なく盛り込み、新たな地平を切り開いた」(藤本由香里さん)など高評価が続出し、「大賞にふさわしい」(萩尾望都さん)という意見が大勢を占めた。

 1次選考で3位だった「大阪ハムレット」にも、「このストーリーは、この絵でなければ支えられない。そのために絵を変えた勇気も買いたい」(いしかわじゅんさん)など高評価が相次ぎ、短編賞にすんなりと決まった。

 議論が集中したのは「神聖喜劇」だった。原作が戦後小説の中でも屈指の重量級作品であるため、「マンガが労作であることは認める」としながらも、「セリフが原作通りすぎる」などの異論もあった。最終的には作品としての「異端の面白さ」が評価され、新生賞に決まった。

 特別賞については、マンガ評論家の故・米沢嘉博さんらを推す声もあったが、専門家の意見を参考に、朝日新聞社内で検討した結果、該当者なしとした。 (秋山亮太)

社外選考委員の方々=敬称略、50音順

  • 荒俣宏(作家)
  • いしかわじゅん(マンガ家)
  • 印口崇(マンガ専門店店長)
  • 香山リカ(精神科医)
  • 呉智英(評論家)
  • 萩尾望都(マンガ家)
  • 藤本由香里(編集者・評論家)
  • 村上知彦(評論家)

■1次選考結果(8位まで)

  • (1)「舞姫 テレプシコーラ」(山岸凉子、メディアファクトリー)=21点(萩尾5、村上5、荒俣4、いしかわ4、藤本3)
  • (2)「のだめカンタービレ」(二ノ宮知子、講談社)=18点(香山5、萩尾5、藤本5、いしかわ3):辞退
  • (3)「大阪ハムレット」(森下裕美、双葉社)=13点(いしかわ5、印口5、呉3)
  • (4)「もやしもん」(石川雅之、講談社)=10点(印口3、村上3、荒俣2、呉2)
  • (5)「へうげもの」(山田芳裕、講談社)=7点(荒俣5、村上2)
  • (5)「大奥」(よしながふみ、白泉社)=7点(藤本3、香山2、村上2)
  • (7)「DEATH NOTE」(大場つぐみ・作、小畑健・画、集英社)=6点(香山3、藤本2、萩尾1)
  • (8)「団地ともお」(小田扉、小学館)=5点(呉5)
  • (8)「皇国の守護者」(佐藤大輔・作、伊藤悠・画、集英社)=5点(印口5)

選考委員評

マンガ大賞
*筋肉の使い方が正確な上に、キャラクターの性格や悩みをじっくりと掘り下げ、ドラマに重層的な深みを与えている。これまでになかったバレエマンガだ。(萩尾望都)
*様々な主題が響きあい、登場人物の死が衝撃を呼ぶ「事件」となった。山岸凉子の集大成ともいうべき力作。(村上知彦)
新生賞
*不可解なまでの情熱にあふれた異端の面白さがある。現代のマンガがこういう表現を引き寄せてしまったというすごみを感じることができる。(呉智英)
短編賞
*細心の配慮による泣かせる人情コメディー。「大阪ハムレット」を描くために、これまでの4コマ作品などがあったのだと思う。(印口崇)