手塚治虫文化賞

第12回 手塚治虫文化賞

 日本のマンガ文化に大きな足跡を残した手塚治虫の業績を記念する手塚治虫文化賞(朝日新聞社主催)の第12回受賞作が決まった。マンガ大賞は、石川雅之さんの「もやしもん」。新生賞に「トロイメライ」の島田虎之介さん、短編賞には大島弓子さん「グーグーだって猫である」がそれぞれ選ばれた。特別賞は、大阪府立国際児童文学館に決まった。

受賞した作品

 マンガ大賞に選ばれたのは農業大学を舞台にした石川雅之さんの「もやしもん」。菌と発酵という専門的なモチーフを掘り下げながら、学園ドラマとしても楽しめる点が評価された。

 清新な才能に贈る新生賞の島田虎之介さんは、多彩なエピソードを一つの物語にまとめる卓越した構成力でマンガ表現に可能性を開いた。4コマや1コマほか短編作から選ばれた大島弓子さんの「グーグーだって猫である」は、愛猫との日常描写から生と死という深奥なテーマを見つめた。

 特別賞は、マンガ文化の発展に貢献した個人・団体が対象。大阪府立国際児童文学館は、四半世紀にわたる貴重なマンガや児童書の横断的な収集と研究が評価された。

 大賞と新生賞、短編賞は選考委員が合議で決めた。特別賞は、委員の議論を基に朝日新聞社が選んだ。賞金は大賞200万円。ほかは100万円。贈呈式は6月12日、東京・丸の内の東京会館で。

選考経過

〈「マンガ研究に欠かせぬ拠点」〉

 マンガ大賞は、関係者の推薦と読者の投票で1次選考を行った。07年刊行作品を対象に、選考委員が15点の持ち点(1作につき最高5点)を投じ、10作に絞った。

 選考委員会では、1次で高得点だった「もやしもん」を中心に議論した。「発酵という科学をなんと狂言回しに仕立てて、面白い物語を作り上げた」(いしかわじゅんさん)、「自分も農大生になりたいと素直に感情移入する。いま勢いのある作品」(印口崇さん)など支持が相次ぐ一方、「手塚賞としては小粒」という意見もあった。

 「海街diary」のセリフ回しや構成の巧みさや、男女逆転というダイナミックな設定の「大奥」を高く評価する意見もあった。

 新生賞は「トロイメライ」の島田虎之介さんに異論なし。短編賞は萩尾望都さんの「山へ行く」を「日常とファンタジーが同居する傑作」と推す声も強かった。最後は選考委員でもある萩尾さんが席を外して投票。「グーグーだって猫である」を選んだ。

 特別賞は、藤本由香里さんが大阪府立国際児童文学館を「貴重な資料を横断的に収集しており、職員の専門性とあいまって、マンガ研究に欠かせない拠点である」と推薦。選考委員全員が賛同した。

社外選考委員の方々=敬称略、50音順

  • 荒俣宏(作家)
  • いしかわじゅん(マンガ家)
  • 印口崇(評論家)
  • 香山リカ(精神科医・立教大学教授)
  • 呉智英(評論家)
  • 萩尾望都(マンガ家)
  • 藤本由香里(評論家・明治大学准教授)
  • 村上知彦(評論家)

1次選考結果(6位まで)

  • (1)もやしもん(石川雅之、講談社)=24点(荒俣5、印口5、香山5、萩尾5、いしかわ4)
  • (2)海街diary(1)蝉時雨のやむ頃(吉田秋生、小学館)=15点(香山5、藤本4、村上4、いしかわ2)
  • (3)大奥(よしながふみ、白泉社)=10点(萩尾5、藤本3、香山2)
  • (4)レッド(山本直樹、講談社)=6点(村上4、呉2)
  • (4)ハチワンダイバー(柴田ヨクサル、集英社)=6点(印口5、いしかわ1)
  • (6)NANA−ナナ−(矢沢あい、集英社)=5点(萩尾5)
  • (6)闇金ウシジマくん(真鍋昌平、小学館)=5点(呉5)
  • (6)るくるく(あさりよしとお、講談社)=5点(印口5)
  • (6)海獣の子供(五十嵐大介、小学館)=5点(いしかわ5)
  • (6)よつばと!(あずまきよひこ、メディアワークス)=5点(いしかわ3、香山2)

選考委員評

マンガ大賞
*発酵学のテキストを読むような感じでいながら、きれいな女性もぞろぞろ出てきて楽しませる才能はすごい。物語に方向性も出てきて、ますます快調だ。(荒俣宏)
*菌との共生を描き、発酵学者の小泉武夫さんや寄生虫学者の藤田紘一郎さんを連想させるエコロジカルな作品。若者ドラマとしてもいい。(呉智英)
*主人公たちの成長物語にとどまらず、実在する菌をキャラクター化する秀逸な着想で、ファンタジーとしての広がりを得た。(香山リカ)
新生賞
*奇想とうんちくを縦横に駆使して読者を巧みに誘い、語り尽くされる物語の快楽。独特の絵柄もしっかりと物語を支える。ほとんど新人ばなれした抜群の技量だ。(村上知彦)
短編賞
*何度読んでもほのぼのとして新しく、気持ちのよい風が吹くように感じられる。「猫と私と世界」をテーマに、哲学的な歯ごたえさえ感じられる秀作。(萩尾望都)