連載「プロメテウスの罠」の試み
特別報道部

「プロメテウスの罠(わな)」を始めるとき、考えたのは「伝える」ことの大切さでした。
新聞というのは記事を発するだけでは不十分で、それを読者の心にまで届ける必要があります。きちんと伝わらなければ、お金を払う値打ちがないと思われてしまうかもしれません。ではどうすればいいのか、と考えた末に幾つかのことを決めました。
まず、「論」でなく「事実」を書くことにしました。論はこちらの意見です。しかし読者が知りたいのは事実だと思えたからです。3・11以降、情報はあふれていました。しかしその半面、多くの人が「事実」に飢えているように見えました。
次に、具体的に書くことにしました。読者の心にすとんと落ちるのは具体的な生の話です。事実を事実として受け取ってもらうため、取材相手には実名で語ってもらうようにしました。分かりやすく、物語的に書くことにもしました。新聞は論文ではありません。少なからぬお金を取って読んでもらうものです。ならば読みやすく、事実を物語に紡ぎ上げてみよう。中学生が理解できるくらい分かりやすく、と思っていました。
新聞は毎日家まで届きますから、新聞が出る限り毎日載せることに決めました。が、1日の分量は短めにしました。頭に浮かべたのはNHKの連続テレビ小説です。1回の放映時間は短いけれど、毎日続きます。なんとなく翌日も見たくなるように作られています。
連載を担当している特別報道部は、3月末時点で部長以下13人の陣容です。本業は調査報道の特ダネで、ほとんどの部員はそちらに携わっています。プロメテウスにかかわっているのは常時だいたい4、5人です。
社会の片隅でネタを掘る
特別報道部とは、朝日新聞の中では比較的新しい部署です。さかのぼると2006年、編集局長直属の特別報道チームとして発足しました。2009年秋に特別報道センターへと拡充され、昨年10月に特別報道部と名前が変わりました。
部の一番の特徴は、記者クラブに足場を置いていないことでしょうか。記者クラブは情報の出口です。そこで網を張って情報をキャッチするのが多くの記者のスタイルです。ところが特別報道部の記者は、記者クラブを持ちません。必然的に、情報をキャッチするのは社会の中と言うことになります。
さまざまな情報がいったん社会の隅に紛れ込んだ後、それを探し出してくる作業です。その中にはとんでもない特ダネが混じっています。探り当てるためには多くの人に会わなければなりません。街を歩かなければなりません。それでいて成果はなかなか上がりません。苦しみながら、しかし遠い目標は失わず。日夜骨身を削っているのが実情です。









