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ジャーナリズムの使命 - [検察改ざん疑惑スクープ]

朝日新聞社CSR報告書・会社案内「読者とともに 2011」

ジャーナリズムの使命

 新聞社に求められる最大の社会貢献。それは、隠された社会不正を掘り起こすこと、とりわけ権力監視の役割を果たすことだと私たちは考えます。


検察改ざん疑惑スクープ

 障害者団体向けの郵便割引制度が悪用された郵便不正事件で、朝日新聞社は2010年9月、大阪地検特捜部の主任検事が証拠品のフロッピーディスク(FD)を改ざんした疑いがあることをスクープし、新聞協会賞を受賞しました。「新聞の力を示す、すぐれた調査報道として高く評価できる」との理由でした。

 郵便不正事件も、朝日新聞が調査報道で端緒をつかみ、キャンペーン報道によって不正の実態を明らかにしました。その過程で大阪地検特捜部が捜査に乗り出し、実体のない障害者団体に偽の証明書を発行したとして、厚生労働省の局長だった村木厚子さんを逮捕・起訴しましたが、ずさんな捜査が明らかになり、村木さんは無罪になりました。

 改ざん疑惑は、現場の記者が捜査の問題点を検証するなかで検察関係者から証言を得て、FDを解析することで紙面化につなげました。

 主任検事や上司だった前特捜部長と元副部長が逮捕・起訴され、検察は解体的出直しを迫られています。一方、無罪判決を機に、検察の取材、供述報道のあり方も問われています。今回の受賞は、ジャーナリズム本来の使命が権力の監視にあることを再認識させるものでした。



問われた記者としての覚悟
自分との戦いでもあったスクープへの道のり

大阪本社社会グループ・板橋洋佳

 証拠改ざん事件は、記者としての覚悟が問われた取材でした。

 今春(2010年)、厚生労働省の元局長や元係長の公判を傍聴して、「なぜ捜査と公判でこれほどのずれがあるのだろうか」と思いました。検察担当の私がすべきことは何か。当時の捜査を検証しようと決め、取材を続けるなかで改ざん疑惑をつかみました。

 今回のような調査報道は、裏付けをどれだけ重ねて真実に近づけるかが鍵です。改ざんを報じるために、データが書き換えられたフロッピーディスクの入手と、改ざんの跡を確認するための専門機関でのFD解析が必要だと判断しました。

 8月、FDを所有する元係長の弁護人は、私にこう言いました。「改ざんなんて信じられない。本当だとしても、検察担当のあなたが検察を批判する記事を書けるのか」。メディアへの不信を痛感しながら、「検察担当だからこそできることがあります」と決意を伝えました。説得には数週間かかりました。

 いずれ発表される情報を書くときの競争相手は、他社の記者です。しかし今回は、本当の敵は自分自身なのだと気づきました。記事にする努力をあきらめたら、疑惑は埋もれたままになってしまうからです。

 できる限りの裏付けをとり、つかんだ事実をわかりやすく正確に伝える――。新聞記者としての原点を改めて見つめ直した体験でした。

    *

 板橋洋佳(いたばし・ひろよし) 1999年4月、下野(しもつけ)新聞(宇都宮市)に入社。2007年2月に朝日新聞に移り、神戸総局を経て08年4月から大阪本社社会グループ。34歳。