
- 宮崎県立宮崎西高付属中
講師:甲野善紀さん
- 講師プロフィール

「みなさん、科学の道を目指すなら、“説明できない”と言われていることに挑戦するといいですよ」
武術研究者の甲野善紀さんが訪れた宮崎西高付属中は、理数系カリキュラムに重点を置く中高一貫教育の学校だ。甲野さんは、自分より身長も体重も上回る芥田(あくた)陽介くんを畳の上に手招きし、「ひじを曲げて。私が押し下げても動かないようにがんばって」。
こういう時、曲げた腕の内側を力ずくで押し下げて相手の体勢を崩そうとしても難しい。だが芥田くんの手首近くを甲野さんがゆっくりと押したと見えた瞬間、芥田くんの腕はガクンと下がり、バランスを崩していた。「なぜ!?」
「護身術を教えて」という女子には「暴漢に手首をつかまれたら、自分の腕をはたくといい。そして逃げる」。相手ではなく自分の腕をたたくことでつかまれた手を外せるのは「なぜ!?」。半信半疑で友達と試してみると、あっさり逃げられるから驚きだ。


「身体では、同時にいくつものことが並列的に起きている。この複雑なシステムを説明することは、ロボット工学者にもできないそうです」
甲野さんの身体操法は、介護の現場でも高い評価を得ている。この日は、自力で立てない人を無理なく抱き起こす「添え立ち」の練習を「私より教え方がうまいから」と、息子の陽紀(はるのり)さんに託した。
「ぞうきんを絞れる人はいる?」。陽紀さんの質問に大爆笑。みんな手を挙げたが、ここがポイントだ。座り込んだ友達の背後からわきの下に両腕を差し入れ、「手のひらを外に向けながら、ぞうきんを絞るように手首を回し、相手のへその下あたりで腕を組む」。こうすると相手も自分も楽なのだとか。あとは手で土をかき寄せるようにして、同時に足を伸ばし、立ち上がるだけ。
あちこちから「できた!」「軽い」と歓声があがる。甲野さんを添え立ちさせる生徒も現れ=写真=、拍手喝采だ。
とかく現代人は、科学的に説明できないことを否定しがち。でも、「身体を通すと、物事の不思議さや学問の限界がよくわかる。その時に抱いた『なぜ』という疑問が、次の進化へとつながるんです。自分だけが感じた、説明できないことをどう伝えていくか、理数系学問の立場から考えてみては」。
それにはまず実感することだと、甲野さんは身体の動きで教えてくれたのだった。
●宮崎市、全校156人、下高原信義校長。授業を受けたのは2年2組の38人、担当は国語科の前田直子先生。

モデル役を務めた芥田くん
「思いきり力を入れたのに簡単にやられてしまった! 人間の不思議さや潜在能力を感じました」
クラシックバレエのコツを教わった内田葵さん
「甲野さんに胴を支えられてターンしたと思ったら、抱え上げられていたのでビックリです!」
(文・安里麻理子 写真・白谷達也)
(朝日新聞朝刊掲載2008/12/18)
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