どくしょ応援団

本を読もう。何を読もう? 迷ったら「どくしょ応援団」へ。親子で、ひとりで、夢中になれる本との出会いがここに!

オーサー・ビジット

2009年度のレポート [中・高校編]

大阪国際大和田高

講師:安藤忠雄さん

講師プロフィール

 「私の人生、しまった!ばかりです。ケンカでは、優等生だったんですけれどねぇ」。建築家の安藤忠雄さんが自身の10代をふり返ると、「ウワッ」。教室がわいた。

授業風景

 授業を受けた2年H組は、国公立大学受験を目指す中高一貫クラス。一方、安藤さんは、大阪の下町で生まれ育ち、野球に魚釣り、そして生来の気の強さからケンカに明け暮れた毎日。成績は下から数えた方が早く、経済的にも大学進学は断念。その後、なぜ建築家を志したのか。生徒たちは、大学で学ぶことと将来の職業の関連を知りたかった。

 「私には、生涯忘れられない風景があります」。〈御堂筋〉〈銀橋(桜宮橋)〉〈大阪市中央公会堂〉は、幼少時代につながる「心の風景」。そしてもうひとつ、祖母と暮らす長屋の増築時の風景がある。「中学2年生でした。一心不乱に働く大工さんを見て『家をつくる仕事には、人を夢中にさせる面白い何かがあるのだ』と、直感的に気づいたのです」。建築家という職業を意識した最初の風景だ。

授業風景
授業風景

 「ですから皆さん、心にある風景は大事ですよ。今、いちばん気に入っている風景は何ですか?」

 「淀川にかかる鳥飼仁和寺(にわじ)大橋の風景」をあげたのは、西原惟仁(ゆいと)くん。「河川敷に人々が楽しそうに集っていた、そういう場所が地域にあったという記憶を忘れないでほしい」。馬上夏穂(うまがみかほ)さんの「うちでは帰宅をチャイムで知らせるので、玄関」にもうなずきながら「ピンポーンという音の向こうに家族の姿を見ている。大切な人がすぐそこにいるという気持ちを、社会にも広げて」。一人ひとりの風景に未来を託した。

 「ケンカの優等生」におっかなびっくりだった生徒たちも、「話を聞いたら、めちゃ楽しい!」。安藤さん、最後に「人生をつくるのは自分です。主張してください。学問で知的体力を鍛えてください。私の場合は独学でしたが、それは拳の代わりに、知力でケンカすることにしたからです」。

 ●大阪府守口市、全校751人、河合章校長。2年H組は13人、担任は白木晴子先生、授業の担当は橋部尚子先生。

集合写真

北尾朋大(ともひろ)くん

「安藤さんの生き方を知り、ぜひお話を聞きたかった。クラスの皆が将来探しをしていたところなので、とてもよかったです」

安藤さん

「独学は大変難しい。私はやむを得ずしたまでで、常に『この職業で食べていかなければ』という緊張感があった。大学へ行った人には一を聞けば分かる話も、私は十まで聞いてようやく……、そんな厳しい現実もありました。チャンスがあるなら大学で学び、地域や社会、この国の未来に役立ててください」

(文・安里麻理子 写真・白谷達也)
(朝日新聞朝刊掲載2010/03/11)