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10代、こんな本に出会った 時代を読む この3冊 キャンパス発 気になる新刊 読書クラブ通信 ひとりごと

 

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10代こんな本に出会った

 

ラディゲ『肉体の悪魔』 漫画家・ヤマザキマリさん

漫画家・ヤマザキマリさん

「ここでは足りない」成熟に憧れ

 フランスとドイツを1カ月間、1人で旅したのは中2の冬。本当は、ビオラ奏者の母が行くはずが、仕事の都合でドタキャンに。だからと14歳の娘に行かせる親も親だけど「ルーブル美術館に行ってくるわ」と出かけた私も私でした。昔から絵を描くことが本能のように好きで母はそれを知っていた。親子で「規格外」なんです。

 それでも列車でパリに向かう時は心細かったな。言葉が通じなくて困っていると、通りすがりのイタリア人が助けてくれた。それが「マルコじいさん」で仲良くなった。

 『肉体の悪魔』(ラディゲ著、新庄嘉章訳、新潮文庫など)は、日本に帰ってから手にしたフランスの小説です。15歳の少年が恋に溺れ、人妻を妊娠させる。そんな作品をラディゲは10代で書いた。ヨーロッパは成熟している!と何だか納得したのでした。

 というのも、当時の私にはアイドルに浮かれる同級生が子どもっぽく見えたし、高校の進路相談で「絵描きでは食べていけない」と決めつけられて、この国には自分を成長させてくれるものがないと思い込んで焦ってた。そんな時でした。マルコじいさんが「美のルーツ、イタリアに来て学ぶがよい」と誘ってくれたのは。

 日本文学を読むようになったのは、フィレンツェの美大で油絵と美術史を学ぶかたわら同棲(どうせい)していた自称・詩人のイタリア人の影響です。貧乏でしたが、彼と仲間が交わす文学論は私を成長させてくれる気がしたものです。

17歳の8月。イタリアへ渡ってすぐのころ(本人提供)

17歳の8月。イタリアへ渡ってすぐのころ
(本人提供)

 例えば『砂の女』(安部公房著、新潮文庫)。人は時に、はしごを上れば助かると知りながら底辺にとどまる。そんな不条理な一面が人間にはあるんだと教えられたっけ。

 詩人と暮らして約10年、イタリア生活に見切りをつけたのは27歳の時です。思いがけず子を授かり、分娩(ぶんべん)台で息子を抱いた時に、現実が見えた。この子との生活を守らなければ、と帰国し、生活のために描いた漫画が思いがけずヒットして、マルコじいさんの孫と結婚するというオマケまでついてきた。

 私には常に「ここでは足りない」という感覚があるんです。だからイタリアで夫と過ごすのも年に数カ月。人生は一度きり。「規格」に捕らわれず生きるのも、いいかも。

(ライター・安里麻理子 写真家・吉永考宏)


肉体の悪魔

肉体の悪魔          ■
ラディゲ【著】
新庄 嘉章【訳】
[出版社] 新潮文庫
[価 格] 464円

砂の女

砂の女         ■
安部 公房【著】
[出版社] 新潮文庫
[価 格] 562円


おすすめは

 2千年以上前に現代都市の原型を築いた古代ローマ人は尊敬に値する。その後も人間は様々な文化や技術を生んできた。だが、そこに無理はないでしょうか。

 『ある遭難者の物語』(G・ガルシア・マルケス著、堀内研二訳、水声社・1620円)では、カリブ海で遭難した水兵が、漂流中は洋上の生物に、生還後は人間に翻弄(ほんろう)される。

 『老人と海』(ヘミングウェイ著、福田恆存訳、新潮文庫・464円)は魚と戦い続けた老漁師の話。最後に勝つのは人間か自然か。この2冊は、人間が築いた社会に依存し過ぎると大切なものを失うよと、教えてくれる気がします。


ある遭難者の物語(新装版)

ある遭難者の物語(新装版)   ■
G・ガルシア・マルケス【著】
堀内 研二【訳】
[出版社] 水声社
[価 格] 1,620円

老人と海

老人と海
ヘミングウェイ【著】
福田 恆存【訳】
[出版社] 新潮文庫
[価 格] 464円


 ▼プロフィール
 1967年、東京都出身。17歳で渡伊、97年に漫画家としてデビュー。
 代表作に古代ローマを舞台にしたタイムスリップ風呂漫画『テルマエ・ロマエ』。


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