十代、こんな本に出会った
宮崎駿さん
『君たちはどう生きるか』宮崎駿さん
なぜか「懐かしい」と感じた
アニメーション映画ってね、現実主義のかたまりにならないと創(つく)れないんですよ。夢なんて見ていられない。
たとえばアニメーターは、いや応なく自分の記憶を引っ張り出してきて絵を描く。机を持ち上げる描写ひとつでも「この机ならこれくらいの重さだ」と、必ず覚えがあるものを描く。記憶の総量の中に埋もれていた配線にパッと電気が通る、そんな感じです。
そういう体験を、中学生の頃、吉野源三郎の『君たちはどう生きるか』(現在は岩波文庫など)という本でしました。中の挿絵を見た瞬間に、なぜか「懐かしい」という配線に電気が通った。
この本は、いよいよ戦争だという予感の中で書かれたもので、中学生のコペル君と叔父さんがデパートの屋上で街を見下ろしながら人間について語り合ったりするんだけど、記憶にないその光景を「懐かしい」と感じたのはなぜか。今でも、空襲前の東京の写真集をめくっては、挿絵の光景を探し求めているようなところがあります。
その後、僕は高校生になるわけですが、高校時代って、将来のために何か始める時期と言われるけれど、何も始められなかったんですよね。自意識が強過ぎて、蝕(むしば)まれるように生きていましたから。「とにかくここはやり過ごさなければ」と思っていた。
<え・米田民穂>
剣道部を2カ月で退部。学校の図書館の本を片っ端から読んだな。ドストエフスキーから二葉亭四迷、ツルゲーネフへ。でも、『地下室の手記』『ルーヂン』ときて、「分からん! 俺(おれ)は文学に向いていない」と。以来、文学を読むのはあきらめました。
それが18歳の時かな、サンテグジュペリの『人間の土地』に出会ったのは。この本には、郵便機の飛行士だった作者自身の極限体験がつづられていて、まず彼らが飛んだ空が今とは違う。羅針盤を頼りに無蓋(むがい)の操縦席に座り、2千メートル上空を飛ぶ毎日。結局、自分の落ち度で砂漠に墜落しちゃって……。
映像的だし厳粛、ちょっと狂気じみた作者の生き方も気に入っています。堀口大学の翻訳がまたカッコイイんだ!
僕の経験から言うと、読書で人生が変わるなんて、そんな衝撃的なこと簡単には起こりませんよ。でも、「世界にはこういう考え方もある」「こんな生き方をした人がいた」ってことは、本で知っておいてもいいです。
(聞き手・安里麻理子 写真・吉永考宏)
◆おすすめは
僕は、本は出会うものだと思っているから本屋へ行って買います。中には人に薦められて出会う本もあって、最近では『神去(かむさり)なあなあ日常』(三浦しをん著、徳間書店)。高卒後、山仕事をすることになった青年の話で、山からは逃げ出せない、携帯電話もない、でも働いているうちおめでたいことになる。こういう人生があってもいいじゃない。
『夜は短し歩けよ乙女』(森見登美彦著、角川文庫)は、「外堀を埋める」とか言葉遣いが面白い。実際にいるし、外堀ばかりウロウロしているヤツって。衝撃的だったのは、『悪童日記』(アゴタ・クリストフ著、ハヤカワepi文庫)。時々読み返すけど、やっぱりすごい。今の若い人が読んでみてもいい本じゃないかな。
- 『夜は短し歩けよ乙女』

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- 著者:
- 森見登美彦
- 出版社:
- 角川文庫
- 価格:
- ¥580(税込)
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- 『悪童日記』

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- 著者:
- アゴタ・クリストフ
- 出版社:
- ハヤカワepi文庫
- 価格:
- ¥693(税込)
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- 『神去なあなあ日常』

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- 著者:
- 三浦しをん
- 出版社:
- 徳間書店
- 価格:
- ¥1,575(税込)
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- 『君たちはどう生きるか』

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- 著者:
- 吉野源三郎
- 出版社:
- 岩波文庫
- 価格:
- ¥798(税込)
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- 『地下室の手記』

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- 著者:
- ドストエフスキー
- 訳:
- 江川卓
- 出版社:
- 新潮文庫
- 価格:
- ¥420(税込)
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- 『人間の土地』

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- 著者:
- サン=テグジュペリ
- 訳:
- 堀口大学
- 出版社:
- 新潮文庫
- 価格:
- ¥580(税込)
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