どくしょ応援団

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おはなしのくに

かーかん、はあい 子どもと本と私俵万智

「みちくさ」って楽しいね

 眠る前に、お話を一つ二つ読むのが息子との習慣だ。寝ついたら、そーっと起きだし、一つ二つ仕事を片づけるのだが、それが三つ四つ五つと溜(た)まっていると、こちらの気持ちにも余裕がなくなってくる。つい先日も、短いお話をさっさと読んで、はいおしまい、と電気を消そうとしたら、息子は不満げな顔で、こう言った。「おかあさん、いまのは時間かせぎでしょ」

 日本語の使い方としては、ちょっとヘンだが、要するに、こちらのおざなりな態度を責めているらしい。「なによ、そういうのを言いがかりっていうんだから」――早く寝てほしい時に限ってもう、めんどくさいなあと、つい声を荒らげてしまう。

 「たくみんは、ちがうお話がよかった」

 「なに? じゃあ、なにがよかったか言ってよ」

 「……ぶたのぶたじろうさん」

 ぶたのぶたじろうさんは、最近お気に入りのシリーズだ。それにしても、なんて肩の力が抜けるタイトルだろうか。なごむ。タイトルだけで、なごむ。

 じゃあ、ひとつだけね、とこちらも態度を軟化させ、息子のリクエストで『ぶたのぶたじろうさんは、あらしのうみにおそわれました』(内田麟太郎作、スズキコージ絵、クレヨンハウス・998円)所収の「まけずぎらいのヒョウ」を読むことにした。

 のんのこやまに、のんびり向かうぶたじろうさん。まけずぎらいのヒョウは、早く着くことだけを考え、ぶたじろうさんを追い越してゆく。頂上で得意げに待っていたヒョウに、ぶたじろうさんは「みちくさ」の楽しさを語る……。

 ユーモアと詩的感覚に満ちた文章を、ゆっくり声に出して読んでいると、先ほどまでのせかせかした気分が、すーっと消えていった。なんだかぶたじろうさんに「目的地まで、急げばいいってもんじゃないですよ、おかあさん」と、囁(ささや)かれているような気さえする。まさか息子も、それを狙って選んだわけではないだろうが、心にしみる一話だった。

 ぶたじろうさんの魅力は、この「のんびり感」だけではない。時にはシュールな話も展開するのだが、それをすとんと伝えてしまうマジックのような日本語が、おもしろくてたまらない。

 「そのときです。ぶたじろうさんがおしりからかわいいうたをながしたのは」「きがつくと……、ぶたのぶたじろうさんは、どんばらぶたのすけになっていました」。おならや食べ過ぎが、こんな表現で、さらっと書かれている。スズキコージさんの絵も素敵(すてき)だ。お話の不思議さや怖さや温(ぬく)もりを、無限に閉じ込めて、見飽きることがない。

 さて、息子が二歳の頃に始まったこの連載も、最終回。来年はもう小学生だ。けれど、一緒に本を読む時間には、終わりはないと思う。ご愛読、ありがとうございました。

◇「かーかん、はあい」(07年11月〜今月掲載分)は来年1月に朝日新聞出版から刊行予定です。

『ぶたのぶたじろうさんは、あらしのうみにおそわれました』
作:
内田麟太郎
絵:
スズキコージ
出版社:
クレヨンハウスド
価格:
¥998(税込)
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俵万智 たわら・まち 歌人。62年大阪府生まれ。早大在学中から短歌を始め、87年、高校教師時代に『サラダ記念日』(河出文庫)を出版、260万部を超える大ベストセラーに。評論『愛する源氏物語』(文春文庫)で04年紫式部文学賞、子育ての日々を詠んだ『プーさんの鼻』(文芸春秋)で06年若山牧水賞。最新刊は、新井満氏との共著、CDブック『プーさんの鼻のララバイ』(共同通信社)。