ともに考え、ともにつくる インタビュー(楽天・和崎信哉会長兼社長)
はじめに

 様々な分野で活躍している方を朝日新聞社の渡辺雅隆社長が訪ねる連載「ともに考え、ともにつくる インタビュー」の3回目は、WOWOWの和崎信哉会長に登場して頂きました。

 NHKで長年ドキュメンタリー制作に携わったのちにWOWOWの会長へ転身。就任当初、加入者数が4期連続で減っていたのを一転させ、10期連続増へと導いて2016年には過去最高にまで伸ばしました。公共放送のNHKと、無料広告放送の民放の2元体制が続いていた日本の放送の世界に、お金を払ってでも見たいと思わせる「有料放送」という柱を根付かせるための取り組みなどについてお聞きしました。

 インタビューの内容は社内ポータル、社内報「エー・ダッシュ」でも紹介しています。
3カ月ごと、年4回のペースで更新していく予定です。


▲このページのTOPへ


 

【ともに考え、ともにつくる インタビュー】
ブランドへの期待に応えるものを
( WOWOW・和崎信哉会長 × 朝日新聞社・渡辺雅隆社長)


▼ WOWOW 和崎信哉会長のプロフィールはこちら

 

流通業」から「テレビ事業者」へ

渡辺社長(以下、渡辺) 和崎さんはNHKでテレビの世界に関わってからWOWOWにいらっしゃいました。WOWOWは2016年に25周年を迎えました。その間、メディア状況は大きく変わっていると思いますが、それをどんなふうにご覧になっていますか。


WOWOW 和崎信哉会長

和崎会長(以下、和崎)   まずテレビということで言うと、持論なのですが、「テレビは技術革新の上に成り立つ文化」だと思っているんですね。僕はNHKにいた38年のうち28年はプロデューサーとディレクターとして現場で番組、主にスペシャル番組をずっと作っていました。最初はフィルムで取材、編集をしていましたが、それはVTRに変わりました。モノクロがカラーになり、衛星という伝送手段もできた。そしてアナログからデジタル・ハイビジョンへ。こういう流れの中で「技術革新の上に新しいテレビ文化を育てていくんだ」「それをおもしろがるんだ」という気持ちを強く持ち続けてきました。


渡辺 和崎さんが来られた時、WOWOWの加入者は右肩下がりでした。


WOWOW 加入件数の推移

和崎 初めてWOWOWへ来て、その事業内容を勉強させてもらって何を思ったかと言うと「WOWOWはテレビ局ではないのではないか」ということです。「実は流通業だ」という意識を強く持ちました。当初、WOWOWはアナログ放送が中心で、セットトップボックス(STB)(※1)がないと見られませんでした。各メーカー系列の電器店など流通の方々にSTBを販売してもらって、加入してもらう必要がありました。

 WOWOWは91年に始まってから、流通業の方々と一緒になってSTBを販売し伸びてきました。ところがデジタルになるとSTBはまったくいらないんです。STBの機能が全部テレビに内蔵されているので、電話ひとつかけてもらえれば約15分後にスクランブルを解除しご視聴して頂くことができる。そこで「これまではセットトップボックスを販売する流通業だったけれど、これからはテレビ事業者になろう」「もう一度テレビの原点に戻ろう」と全社員に言いました。加入者が減ってきたのは危機だったんですけど、これはチャンスだと。「改めて番組、オリジナルコンテンツに力を入れ直そう」ということを始めました。するとそれがひとつの流れとしてうまくいき、加入者増に転じました。


渡辺  「テレビ局としての原点に戻るんだ、コンテンツでいくんだ」という方針転換ですね。


▲このページのTOPへ


 

「有料放送文化」を根付かせたい

和崎  僕自身、チャレンジングな意識がありました。日本のテレビというのは2元体制で成り立っていると言われています。確かに公共放送のNHKと無料広告放送の民放とこの二つが70年近くにわたって日本の放送文化を築いてきました。アメリカにもヨーロッパにもある「有料放送」というジャンルが欠けているんです。スポンサーがなくて、視聴者の方と直接向き合う形が育っていない。しかしこれは逆にチャンスだと思いました。放送の3元体制をつくろう、つくるべきだと考えたんです。そのために「我々は流通業じゃなくてテレビ屋なんだ、クリエーターなんだ」という矜持、プライドを持とうとWOWOWの経営陣に言い、それをずっと今まで掲げてきました。その転換がWOWOW、あるいは僕にとって1番大きかった。その手応えも、まぁ、3元体制とまで生意気なことは言えませんが、2.5元くらいまでにはなってきたかなぁと思っています。


渡辺  お金を払って番組を見るという風土がない日本の視聴者のマインドを変えるのは大変ではありませんでしたか。


和崎  非常にありきたりな言葉で言うと、お金を払ってでも見たいものがあるかどうかの一点だと思います。例えばドキュメンタリーひとつとってもNHKの制作力は圧倒的です。地上波の民放各局が50年以上にわたって視聴率競争して作り、培ってこられた番組制作力も非常に強いものがある。その中で、我々は、負担金にあたる受信料をとっているNHKとも、「B to B to C」でビジネスをしている民放とも違うコンテンツを、どう作ってどう見せるのかということを制作、編成の現場へ絶えず投げかけてきました。
 そのキーワードとして私は「上質」という言葉を掲げたんです。そこに全力をかけようということを06年から始めました。


渡辺 以前、お話を伺った時にドラマの成功例のひとつとして「空飛ぶタイヤ」(※2)を挙げていました。


和崎  例えば自動車メーカーがスポンサーだったり、広告会社が入ったりすると、テレビ局にある種の自主規制が生まれる。そうすることによってストーリーが影響を受けてしまうことがあります。ところが我々のところは幸いにしてスポンサーがない。だから、欠陥車両によって親子が死傷してしまった実際の事故を下敷きとして大企業のリコール隠しを描いた原作「空飛ぶタイヤ」に正面切って向き合うことができる。そういうドラマを作ったわけです。

 編成についても同じことが言えます。今でこそテニスと言えばWOWOWと視聴者には言って頂けますが、WOWOWはグランドスラムの全米、全仏、全豪を開局翌年の1992年から放送していました。でもこれまでほとんど話題にならなかった。それは、4大大会のうちウィンブルドンだけ放送できていなかったからです。だから僕が来てから、ウィンブルドンの衛星放送の放送権の獲得を目指しました。それはどういうことか。4大大会のうち三つの時は75点じゃないんですよ。経営感覚で言うと50点の効力しかない。ところが四つそろうと、それは100点じゃなくて120点の力を出すんですね。テニスの分野でグランドスラムというトップのカテゴリーを四つそろえると、じゃあ今度は空いている枠で何をするんだという話になった時、例えば楽天ジャパンオープンや他の大会をやろうということになる。トップの上質なものを120の力でまず見せていくことが、次の編成につながっていくんです。


渡辺  テニスは開始時間も終わりの時間も定まらないから番組を作りにくいのではないですか。


和崎  だからテニスは地上波テレビに最も向かないコンテンツなんですよ。1試合が1時間で終わる試合もあればフルセットで5時間かかる試合もある。全てのテニスコートが全天候対応ではないので雨が降ると1時間とか2時間の中断が挟まるケースもある。そうすると編成のしようがないんですね。

 08年にウィンブルドンを始めた時もWOWOW内部でものすごい反対がありました。当時、WOWOWは1チャンネルしか持っていませんでしたから、テニスをやり始めると、映画やドラマを見たい視聴者から抗議の電話がかかってくる。営業からも「やってもいいけどダイジェストにして、全部試合が終わってから定時編成にしましょう」と言われましたが、「それはだめだ」と答えました。スポーツは生中継が生命線だからです。じゃあそのために、デジタル移行時に何チャンネルとるかという次のメディア戦略を考えた時に、まさにテニスのようなものがちゃんとできるようにしよう、ということで11年に3チャンネル化した時、うち1チャンネルをライブチャンネルにして生中継をずっと流せるような戦略をとりました。


渡辺  2012年にはビデオオンデマンド(VOD)が始まりました。


和崎  IP通信による動画配信の波が見え始め、オンデマンドの配信をしようという決断を11年にしました。VODサービスのビジネスモデルを考えた時、当時は定額課金にするのか、都度課金にするのかという二つしかなかったのですが、我々は会員制ビジネスをしているので、会員の方々への付加サービスとして無料でVODを使うことにしました。今いる会員の方に優越感を味わって頂こうと。

 実はこのビジネスモデルは今ではネット通販大手のアマゾンがそうです。映画やアニメが見放題になるアマゾンプライム会員には映像や動画配信に対する課金はしていません。自分たちの会員の囲い込みにつながる付加サービスです。当時、色々検証した結果、VODビジネスとして定額課金や都度課金をしてもビジネスとしてはうまくいかないだろうという見込みでした。それだったら今いる人たちにより満足して頂こうと。その結果、加入者全体のパイを広げるという戦略をとることにしました。


渡辺  弊社も朝日新聞デジタルを有料で運営していますが、そこのところは難しいですね。


和崎  朝日新聞というか、クオリティーペーパーのビジネスモデルは我々と非常に似ていると思います。まさに会員ビジネス。定期購読者は会員ですし、WOWOWをご覧頂いているのも会員。新たなIP通信の領域、映像、情報配信をどうビジネスモデルに組み立てるかには色々な選択肢があり、まだ結論は出ていません。今はオンデマンドを付加サービスとしてやっていますが、課金をすればどうなるかということは、次の時代に向けて当然検討していかざるを得ないと思っています。


WOWOWのあゆみ


【▼ WOWOWについて 】


▲このページのTOPへ


 

高感度の方々へ上質なものを届ける

渡辺  WOWOWの会員の年齢層も新聞と似ています。若い人たちへの施策はありますか。


和崎  誤解をおそれずに言えば、下手に若者に寄り添うべきではないと考えています。地上波の民放、NHKは1億人をターゲットにしてビジネスをしていますが、我々の総合エンターテインメントという領域ではそれが1000万人です。エンターテインメントに感度の高い方々がターゲットです。その方々は自分の見たい、気に入ったものにはちゃんとお金を払ってでもアクセスして下さる。その人たちとどう双方向性をもって関係を築けるか。そこに最大の注力をしています。我々のメインターゲットは50代、60代が多いです。その若返りを考えながらも、我々はエンターテインメントに感度が高く、お金を払って頂ける方をどう増やしていけるのか。それを考えるのが第一です。

 ただ、メディアの変化によってスマートフォンなどモバイル端末の性能が上がり、50代、60代より20代、30代がそれにアクセスし始めました。下手をするとテレビと逆転してしまうかもしれない。新たなメディアの出現、広がりの中で、我々は我々のコンセプトである「上質」でそろえ抜いたものを出せるか。若者をキャッチしたいし、キャッチしないと次は描けないけれど「若者が」「若者が」と言っていると、本筋を忘れる時がある。それは違うと思うんです。我々がよって立つのはまさに世の中を支えるメインの人たちで、エンターテインメントへの感度が高い人。そこをしっかりグリップし、そこを広げていくんだ、と考えています。その次の話としてメディアが変化する中で、若者がどうそこへアクセスしているのか、そこに向けてどう上質なものを届けられるのか、がポイントかなと思っています。


渡辺  年齢は関係なく、上質のエンターテインメントをしっかり届け、そこへお金を出して頂ける人たちとの関係性をしっかり作っていく。若くてもそういうことをわかってくれる人たちもいる。安易に若い人に向けたことをすると本筋を揺るがすことになる、ということでしょうか。


和崎  僕は保守的なのかもしれないですけど、若い人向けというのは落とし穴がある気がします。若い人たち向け、ではなく、我々が出そうとしているコンテンツのアウトプットの先にたまたま若い人がいて、そこへどう我々の上質なコンテンツをお届けすることができるか、というように、ちょっとひねらないと危険かなと思います。


渡辺  私たちも紙ではなくデジタルの世界で若い人たちを意識した「withnews」というものがあるのですが、それを運営している人たちは「若い人だから軽いものを、と意識すると間違えそうだ」と言います。つまり「若い人でも本質的なこと、大事なことを彼らのセンスに合う形で出していけば、ちゃんとついてきます」と言っていて、なるほどな、と思いました。


和崎  僕はそういう感覚は正しいと思います。若い人であろうが年配の方であろうが、我々が朝日新聞に抱くのはブランドに対する期待感です。お金を払って新聞をとる。あるいは、新聞はとらなくても新たなデバイスでそれを見る、というのは朝日新聞というブランドに対する期待だと思うんですよ。

 僕はWOWOWもそうでないといけないと考えているんです。テニスであろうがサッカーであろうが、WOWOWは、必ず世界最高峰の試合を最初から最後までやってくれますよね、という。あるいはWOWOWがオリジナルで作るドラマは、スポンサーに配慮がある民放や公共放送のNHKとは違う、視聴者との関係だけで成り立つコンテンツですよね、と。そういうブランドが定着すれば、若い人は、それをタブレットでご覧になるかもしれない。年配の方はそれをテレビで見るかもしれない。そういうことであって、新聞も同じだと思います。ある種の信頼感なり期待値でご覧になる。それは若くても、年配であっても、そこに期待値がなければ別のところへ向かわれるわけです。


渡辺  「エンターテインメントとエンゲージメント(※3)」が、2020年の新しいWOWOWを作る原動力だとおっしゃっていますね。これは、送り手と受け手という関係からもう一歩先を見た言葉ですよね。


和崎  そうです。放送のデジタル化により、データ放送が可能になり、これまでも、色々な形で視聴者の個々により寄り添った情報をお届けしてきました。リアルな場では、様々なイベントを開催したりしてつながりを深めてきた。これからももっと深めていかなければいけないのですが、新たな通信のデジタル・デバイスの出現により、受け手も、送り手である我々もその関係を一対一で築くことができる、その仕掛けができるということが見えてきました。次の中期経営計画が始まる2017年に向けて、これまでもエンゲージメントという言葉を掲げてはきましたが、まだ本質的なエンゲージメントは確立されていないので、それを、次の時代に向けての検討材料としています。


朝日新聞社 代表取締役社長 渡辺雅隆

渡辺  どうしてそういうことをお聞きしているかと言うと、博報堂の方がメディアの役割について「届ける」から「つなげる」へ、という言い方をしたんですね。情報の送り手、ニュースの送り手というところから、つないでいく役割へ、と。それは色々な課題を解決していくために一緒になって考えていくということもありますし、おっしゃったような会員とWOWOW、それから会員同士、というつながり方ですね。そういうことができると関係性がより強くなるし、そこがすごく大事なのではないかと最近思っています。


和崎  その前提が朝日新聞やWOWOWというブランドに対する思い入れであったり信頼であったり期待であったりですね。加入者を確保するために、上質を忘れてしまうことが時々あります。単発の、ひとつの出来事で目先のことを拾おうとしただけでも、それが積み重なると、上質というブランドのイメージ、エンターテインメントの最上級のブランドだというイメージが崩れます。その瞬間、我々のよって立つところはなくなると思うので、そこは絶えず振り返って、振り返ってやっていかないと、と思っています。


▲このページのTOPへ


 

テレビ局からメディアへ

渡辺  「総合エンターテインメント・メディア企業へ」ということもおっしゃっていますがどういうことを考えていますか。


和崎  我々はテレビ局ではなくメディアに変わりたいと思っています。放送もあれば通信もある。通信も、これから次世代の通信システムの時代になれば、もう我々が今考えている数段先のこともできる。それからもうひとつ、リアルな向き合いの中で、会員同士のコミュニティーを活性化していくということにも取り組んで行くメディア企業になりたい、なろうという考えです。まだイメージしか持っていませんが、それを具現化する目標を中期経営計画の中に盛り込み、それを何年がかりで実現できるのかわからないながら、その中で、我々は自分たちが掲げた夢に近づいていきたい。夢はビジネスとして成り立たせることが重要です。5年では無理なことでも10年スパンの中で大きな夢を持つ。

 2020年というのが日本のメディア状況で言うとどうしてもひとつのステップになります。その次のステップ、今から2ステップ先ぐらいでやっと「総合エンターテインメント・メディア企業」の「総合」の部分が、少しは木が育って、水をやれば葉が緑になる、というところまでできればいいなぁと思っているんですけどね。


渡辺  私たちも2016年度から始まった中期経営計画をつくる際、企業理念をどうするか考えた結果「ともに考え、ともにつくる ~みなさまの豊かな暮らしに役立つ総合メディア企業へ」としました。


和崎 同じですね。


渡辺  同じなんです。お話を伺って思ったのですが、私たちにはニュースを発信するにしても紙だけではなくネット、リアルな場もあります。文化行事もスポーツイベントもしています。するとそれ全体がメディアとして人々の色々な生活の場面に関わってきます。そういうことを通して関係性を深めていきたいと思っています。だからすごくよく似ています。


和崎  そっくりです。で、そっくりだとやっぱり御社の方が強いですよ。歴史も基盤もあります。我々のところはそういう意味だと、できてたかだか25年です。


渡辺  ともに総合メディア企業を目指している中で、WOWOWには極めて上質なエンターテインメントが核にあります。私たちにはニュース、報道が核にあります。そこに、今、さきほど話題にでたアマゾンや、Hulu(※4)など、様々なサービスが出てきています。こういう状況は今後どうなっていきますか。


和崎  それがわかればぜひ教えて頂きたいのですが、我々は我々の考え方でやるしかないかなと。

 WOWOWというプレミアム・ペイチャンネルがやるべき、やろうとしているのはこういうことだ、というのを今、詰め始めています。そのひとつは4K(※5)に象徴される映像の高度化、もうひとつはIPの動画配信の展開です。展開の仕方にはすごい幅があります。我々はその中のどこを目指すのか。これからはもう1社でできることの限界があると思うんですね。一人勝ちというか、1人だけがうまくいって後は…、という構図では続かない。そういうことを視野に入れ、放送やメディアの壁を越えて様々なパートナーとのアライアンス(提携)を組みながらやっていこう、という絵を描き始めているところです。


渡辺   WOWOW、日本テレビ、Huluの共同制作ドラマが2017年2月から放送されますね。


和崎  その前段にTBSさんと組んだことがあって色々勉強させて頂きました。
 地上波テレビの持っているリーチの長い力と、我々がものを作る方法の違いがわかりました。こういうことを今後あちこちでやりたいんです。それぞれにとっておもしろがれるトライアル。地上波さんにとっても、動画配信事業者にとっても、我々プレミアム・ペイチャンネルにとってもおもしろがれることは何なのか。一人勝ちの構図は続きません。そうじゃない構図は何があるのか。その中で、我々としてはNHKや民放キー局の皆さんと色々なことをしていきたいと思っています。


渡辺  「NHKと一緒に」と言うとドキュメンタリーなどでしょうか。


和崎  色々あると思うんですけど、人を出したり、人に来て頂いたり、ということも含みます。
 元NHK会長の福地茂雄さんから依頼があり、我々のコールセンターを見てもらったことがあるのですが、NHKのコールセンターとのあまりの違いに驚いていました。有料放送と負担金で成り立つ公共放送とではお客様との向き合い方が違うんですね。その違いをわかって頂くだけでも全然違う。色々な交流を色々なレベルですることでお互いに刺激を受けることができると思います。


渡辺  コールセンターで思い出しました。和崎さんはWOWOWに来られた当初1年間、自ら家電量販店やコールセンターを回り、利用者の関心を探ったと伺っています。


和崎  当時、WOWOWは流通企業だったので。あらゆる量販店を全部回りました。
 当時はアナログからデジタルへの過渡期です。アナログ契約はどんどん落ちていくのですが、それを落ちるだけに任せておけませんから。デジタルで持ち直してくれるまではアナログで支えないと会社の経営が成り立たないという非常にかじ取りの難しい時でした。


▲このページのTOPへ


 

WOWOWの「レガシー」作りへの夢

2ショット

渡辺  開局25周年記念で国際パラリンピック委員会(IPC)と立ち上げたドキュメンタリーシリーズ 「WHO I AM」は東京大会が開催される2020年まで5年間、世界のパラリンピックの選手を取り上げ続けます。


和崎  この番組企画にはものすごく思い入れがあり、何としても成功させたい。このような番組を制作したいと思ったのは2011年3月11日の東日本大震災がきっかけです。あれ以降、1年間の色々な流れを見ていたら、日本人の価値観というか生き方に対する捉え方が明らかにそれまでとは変わったと僕は感じました。阪神大震災の時とも違う変化です。
 戦後ずっと、日本人の生き方や豊かさの基準は常に「モノ」と「カネ」でした。それがうまくかみ合いながら経済成長し、個人の生活が豊かになる。バブルが弾けてそれが終わったかと思っても、やっぱりその後も、人は豊かな生活を追い求め、生活はお金が中心でした。そこに生き方、幸せがあったのだけれど、3・11以降、僕自身もそうだし、色々な方々の生き方というかものの考え方が変わった、変わり始めた、と感じたんです。

 そういう中で2012年のロンドン五輪の閉幕後にロンドン市内であった英国の五輪、パラリンピック選手の合同パレードを市民が、僕の想像をはるかに超える熱狂で迎える光景、とりわけパラアスリートに対する熱狂ぶりを見た時、ある種の思いがおこりました。「共生」とでもいうのでしょうか。WOWOWの編成の柱のひとつにはドキュメンタリーがあるので、何としても我々日本人があまり知らない世界の超一流パラアスリートを追いかけるものを作りたいという思いが湧きました。そこでできたのが「WHO I AM」です。WOWOWにとっての、今よくオリンピックで言われる「レガシー(遺産)」を作りたいんです。年8本ぐらいの番組を5年間積み重ねる中で、世界のトップ・パラアスリートを追いかけるドキュメンタリーが40本以上できる。それを世界の様々な国々へ、団体へ届け、展開する中で、2020年というより、2025年くらいに振り返った時に、それがエンターテインメントチャンネルWOWOWの東京五輪・パラリンピック大会のレガシーと言われるものになっていれば・・・。これは夢です。夢だけど、もう具体的にスタートさせた夢です。


渡辺  日本人はどちらかと言うと日本選手びいきというか、日本選手が活躍していると一生懸命になると思われているような気がします。でも、リオ五輪の時、デジタルでの報道を担当した社員が言っていました。「読まれるのは日本人選手が活躍している記事ばかりではなかった」と。日本以外でも、活躍ぶりが際立ったような選手の記事が一番読まれたそうです。
 デジタルだとそういうことが全部わかります。朝日新聞社は、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会で「東京2020オフィシャル新聞パートナー」になりました。東京のような成熟した都市で開かれるオリンピックでは、パラリンピックも含め、ぜひみんな一緒にスポーツを楽しめるようなことを考えたいと思っています。


和崎  そういう輪を、この4、5年の間にもっと広げていきたいと思っています。


渡辺  私たちもまったく同じ思いです。とても勉強になりました。ありがとうございます。


▲このページのTOPへ


 

プロフィール 和崎信哉(わざき・のぶや)氏

和崎信哉氏 和崎信哉氏 プロフィール
 わざき・のぶや
1944年11月22日、京都市生まれ。
京都大学教育学部卒業後の68年、NHKに入局。
プロデューサーやディレクターとしてNHK特集
「シルクロード」などのドキュメンタリー制作に28年間
取り組む。天台宗大阿闍梨の高僧・酒井雄哉さんに2年間
密着し放送した特集「行~比叡山 千日回峰~」をもとに
した著書「阿闍梨誕生」もある。
95年から衛星放送に携わり、総合企画室[デジタル放送推進]局長から理事。地上デジタル放送推進協会専務理事をへて06年に会長としてWOWOWへ。
07~15年は社長で15年6月から再び会長。10年から衛星放送協会会長も務める。



▲このページのTOPへ


 

WOWOW 

社名は、驚きや感動を表す英語の感嘆詞「WOW!」を二つ重ねたもの。WOWOWの三つの「W」にはWorld-Wide-Watchingの意味があり、世界中のエンターテインメントを人々に届けたいという気持ちが込められている。


BSデジタル放送の三つのチャンネル(映画、ドラマ、スポーツ、音楽など総合エンターテインメントチャンネルの「WOWOWプライム」、スポーツ、音楽、ステージなどライブコンテンツの生中継中心の「WOWOWライブ」、映画専門チャンネルの「WOWOWシネマ」)で24時間のフルハイビジョン放送をしている有料衛星テレビ局。放送衛星(BS)によるサービスを中心に、ケーブルテレビ、CS放送(スカパー!)、ひかりTVでもサービスを提供する。


16年11月末時点の累計加入件数は282万件。
東京都港区赤坂に本社があり従業員数は280人(16年9月末)。【→ WOWOW 企業サイトはこちら】


▲このページのTOPへ


 

注釈

 (※1)セットトップボックス(STB)
 衛星放送などの放送信号を受信して一般のテレビで視聴可能な信号に変換する装置


 (※2)「空飛ぶタイヤ」
 実際にあった自動車会社のリコール隠し事故を下敷きにしたドラマで2009年に放送


 (※3)エンターテインメントとエンゲージメント
 ブランドに消費者が積極的に関与することで構築される、ブランドと消費者との間の絆


 (※4)Hulu
 月額933円(税抜き)で30,000本の映画・ドラマが見放題のオンライン動画配信サービス


 (※5)4K
 フルハイビジョンの4倍の画素数で、大画面でも高画質が実現できる

 


(企画構成・霜田 紗苗、撮影・林 正樹、ウェブデザイン・田渕 裕美)


▲このページのTOPへ