ともに考え、ともにつくる インタビュー(カルビー・松本晃会長兼CEO)
はじめに

 様々な分野で活躍している方を朝日新聞社の渡辺雅隆社長が訪ねる連載「ともに考え、ともにつくる インタビュー」の4回目は、カルビーの松本晃会長兼CEOに登場していただきました。

 松本会長は「女性の活躍なしにカルビーの成長はない」という方針のもと、2009年に会長に就任以来、女性管理職比率を急速に上げ、7期連続で増収増益を続けています。「働き方改革」に力を入れ、自宅やカフェなど社外で勤務する「テレワーク」が毎日できるモバイルワークなども採り入れています。社員一人ひとりの暮らしを充実させながら、しっかりと成果を出す仕事のやり方などについてお聞きしました。

 インタビューの内容は社内ポータル、社内報「エー・ダッシュ」でも紹介しています。
3カ月ごと、年4回のペースで更新していく予定です。


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【ともに考え、ともにつくる インタビュー】
ダイバーシティーは成果を出すため
( カルビー・松本晃会長兼CEO × 朝日新聞社・渡辺雅隆社長)


▼ カルビー・松本晃会長兼CEOのプロフィールはこちら

 

渡辺社長(以下、渡辺) ダイバーシティーに取り組むようになった経緯を教えて下さい。


カルビー 松本晃会長兼CEO

松本会長(以下、松本)   前職の医薬品、医療機器メーカーのジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)の日本法人社長になったのが1999年です。当時はダイバーシティーという言葉の意味をよく知りませんでした。ある時、色々な国の人たちが集まるミーティングで上司に言われたのです。「アキラ、お前はダイバーシティーをまったくやっていない」と。単語は知っているけれど意味がわからなかったので聞くと「女性の管理職への登用をまったくしていない。やらないのにはどういう理由があるのか」ということでした。言われてみればそうだと思いました。J&Jはアメリカの会社ですが、その日本法人では女性の管理職がほとんどいませんでした。すぐにやろう、と決めました。私は60歳で退こうと思っていたので、それまでに社員の35%、管理職の25%、執行役員の25%を何がなんでも女性にする、という目標を立てました。

 J&Jには14の事業部がありました。目標を掲げた時、もちろんトップに女性はいませんでした。2008年にやめるまでに14のうちの6事業部のトップを女性にしました。女性にしたらどうなるか。男性の場合と一緒です。男と女は一緒だとわかりました。だからそれからよく言っています、「女性は優秀ですよ、男性と同様に優秀です」と。

 カルビーに入社したら案の定、男ばかりでした。日本の会社はみんなそうですから驚きません。この会社は当時からいい会社でした。ところが売り上げの成長がなかった。それと、もうかっていなかったのです。こんなにいい会社なのにこんなにもうかっていないことはおかしいと、色々な改革を進めました。そのうちのひとつがダイバーシティー、もうひとつが働き方改革です。それ以外にもあらゆる改革をやっていますが、何のためにやっているかというと成果を出すためです。ダイバーシティーは趣味でやっているわけではありません。これをやらないと会社がよくならないからやっているのです。


渡辺  ダイバーシティーをしないと会社がよくならない、ということが理解されづらいです。女性を管理職にすると色々なことを言う人が出てきます。


カルビーの営業利益と女性管理職比率の推移

松本  01年からダイバーシティーを始めて女性の管理職への登用をやりましたが、登用を断った人は一人もいません。管理職にすべき女性がいない、登用するにも人がいない、という人がいますが、それはやらせてみなければわかりません。私は人事に直接口を挟みませんが「あのポジションは女性にしたら」とは言います。女性が就くポジションを先に決めるわけです。決めれば、今いる人たちの中で一番適した人にやってもらえばいいのです。やってうまくいかなかったら元に戻せばいい。やらせもせずに、できる、できないと言っても何にもなりません。高校卒の新入野球選手が打つか打たないかは打たせてみなければわかりません。マウンドに立って投げて、うまくいくかどうかは投げさせてみなければわかりません。実に簡単なことです。

 女性は管理職になりたがらないと言うのも真っ赤なうそです。今までオファーして拒絶した女性は一人もいません。女性は責任と報酬のバランスを考えています。女性はこのバランスがないと絶対に管理職になりません。従ってどれだけ払えるかの問題です。役職手当の類いをたくさん払えと私が言うのはそこです。


渡辺  弊社はデスクから部長になるのですが、給与制度の関係で、デスク時代の方が給料が高くなることがあります。今の女性的な観点で言うと部長になり、責任が増えて給料が安くなるとどういう意味があるのか、ということですね。


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時代の変化に合わせて働き方も変える

松本  御社もそうだし御社に限りません。日本の多くの会社はやり方が間違っているんです。時代が変わったのだから、働き方も時代に合わせないといけません。昔は護送船団方式でした。新聞社でもみんな生きていけました。今、そんなことは決してありません。競争の時代に入ってしまったのです。競争の時代に入ると会社が求めるのは何かというと成果です。従って成果に対して公平であるべきだというのが私の考えです。私の改革はすべて成果のためです。


朝日新聞社・渡辺雅隆社長

渡辺  「ダイバーシティ委員会」は各職場での課題解決のようなことをするための組織ですか。


松本  ダイバーシティーを全社の文化にしようと思いました。本社だけでやっていては何の意味もありません。だから全ての事業所、支店などに委員会を作りました。


渡辺 委員会のミッションはどういうものですか。


松本  ダイバーシティーとは何か、ということを理解してもらうことから始めました。ダイバーシティーという言葉を聞いたことがない人たちに、その意味をわかってもらわないといけません。東京の本社から何かメッセージを送っても、誰も見ていないし聞いていません。まずは現場ごとにダイバーシティーを理解してもらう。意味が分かっても、多くの人は反対します。しかし、ぽつぽつと、これをしないと会社はよくならないと思う人が増えると実行するようになり、女性を登用してみようとする人が増えます。鹿児島県と茨城県で女性の工場長が誕生しました。工場長は男の仕事だと思われていましたが、それは誤解です。そうした誤解は戦後40年間の成功の中で生まれたと思います。


 

▼ カルビーのダイバーシティーの主な取り組み 【→ カルビーについて】

ダイバーシティ委員会 工場、支店、関連会社といった事業所ごとに「ダイバーシティ委員会」を2010年に設置。各事業所トップのリーダーシップのもと、「ダイバーシティ委員」が中心となって各職場の課題解決を目指す。出産・育児・介護・職場のコミュニケーションなどをテーマとしたセミナーや交流会も開催する。
ダイバーシティフォーラム ゲストによる講演や、社内の優れた取り組みに対する「ダイバーシティ表彰」を実施。年に1度開き、希望する社員が参加できる。
モバイルワーク 自宅やカフェなど社外で勤務する「テレワーク」が毎日できる。パートや工場勤務の人を除き、契約社員を含めた入社3年目以上の社員が対象。これまでは週2回を上限としていたが4月以降はこの制限を撤廃した。
メンター制度 執行役員(メンター)が管理職の女性従業員(メンティ)をサポートする。メンティはその年度で初めて部長・課長職についた従業員で、月1回の面談を実施。女性管理職の成長支援が目的。
C&Aの評価制度 Commitment & Accountability(約束と結果責任)の評価制度を導入。年に1回、社員全員が直属の上司と契約を結び、成果を評価する制度。会長や社長も含め、管理職の目標と成果を社内データベースで公開。目標達成のための責任の所在を明らかにする。

渡辺  高度経済成長から1980年代くらいまでですか。


松本  1990年が境です。90年以降、経済は悪くなりましたよね。90年からさかのぼること40年くらいはあまりにもうまくいった。あり得ない時代が続きました。だからきっといいことはまだ続くと思っていたのですが、90年以降はまったくありません。だから「失われた10年」と言いました。そしてまた元に戻りたいと言っているうちに今度は20年がたち、今27年目です。失われっぱなしで絶対に戻ってきません。時代は変わりました。だから働き方も徹底的に変えなければいけません。どう変えるのか。求めているのは成果です。労働時間ではありません。これは、カルビーであろうが朝日新聞社であろうが全く一緒です。


渡辺  そうですね。ずっと会社にいてもらうことを求めているわけではありません。


松本  長く働くことは頼んでいません。よい材料でよい記事を書けばみんな読みます。


渡辺  その切り替えをしたいと思っていますが、新聞記者の仕事は「こうとしたものだ」という思い込みがずっとあり、ずっとその方法でやってきているので難しいです。


松本  徹底的に頭から切り替えないとだめです。


渡辺  社内には「仕事が好きで好きで仕方がない」「好きでやっているのだから色々と言わないでくれ」というタイプの社員もいます。


松本  働きたい人は働けばいいでしょう。ただ、その人に部下がいたら、部下の時間を奪ってはいけません。


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魅力的な人間がいい仕事をする

渡辺  松本さんが伊藤忠商事に入られたころの仕事ぶりのことなどを読ませていただくと、どっぷり仕事をしている感じがしました。


松本  「モーレツ」です。


渡辺  そうですよね。転機はいつですか。


松本  世の中が変わったのだから自分を変えざるを得ません。昔はモーレツでよかったのです。でも時代が変わったのだから変えないといけません。昔は時間に対して成果は正比例していました。長く働いているほうが成果が出ました。今は違います。だから今度は頭を使わないといけません。頭を使おうと思ったら勉強しないといけません。そういう時代に変わっています。


渡辺  勉強をして色々なことを吸収しなければいけないと思ったら時間が必要になる。だから早く帰って仕事以外のことに時間を使うべきだとおっしゃるのですね。


カルビー 松本晃会長兼CEO

松本  朝日新聞社であろうがカルビーであろうが、会社というところは、いい仕事をしてくれる人をつくらなければいけません。そのためには魅力的な人間をつくらないといけません。魅力的な人間というのは長時間働いている人間ではありません。だから僕は早く帰れと言うのです。最近は、もう会社に来なくていい、と言っているのはそこなのです。私が求めているのは成果です。成果を出そうと思ったら社員一人ひとりが魅力的で知的な人間にならないといけません。それにはどうしたらいいか。お昼に帰っていいからどこかで勉強をすればいいのです。文化や教養をもっと高めればいいのです。良い仕事をするには健康でないとできません。それならそのためにテニスをしたりジムに行ったりすればいいでしょう。魅力的な人間はいい仕事をします。いい仕事をしたら会社にかえってきます。会社がもうかれば本人にかえしてあげられます。


渡辺  人材は会社が育成するものではなく、自分で育つものだとおっしゃっています。


松本  会社は教育の場ではありません。個人個人が学んできたことを使って貢献する場所なのです。貢献したらその分は報酬として払います。


渡辺  カルビーでは新入社員の方への教育はどうしているのでしょうか。


松本  最初の6カ月は徹底的にやります。大学では「ポテトチップス」や「かっぱえびせん」の作り方は教えてくれませんから。その後は自分で勉強してもらいます。強いるのはよくない。学ぶということは本当に面白いことだと思います。自分の仕事や将来のために何を学んだら一番いいかということを自分で考えればいいのです。


渡辺  カルビーの女性管理職は、2009年くらいは5%くらいだったのが今は20%を超えています。取り組み始めてまだ10年たっていないですよね。


松本  2017年4月で24.3%になりました。でも遅いです。世の中はもっとスピーディーに進んでいます。安倍首相が女性活躍と言い出しました。働き方改革とおっしゃっています。いいことだと思います。でも、スローなので世界で戦えません。世界へ出たら全くだめです。前へ向いて走っているけれど遅い。日本はいつまでもたっても他国に追いつきません。


渡辺  お話を伺っていると、働き方改革とかダイバーシティーとかでチャンスはいっぱいある一方、成果をしっかり求められるということは社員にとっては結構厳しいですね。


松本  当たり前だと思います。カルビーは今、国内でスナックを売っていたら何とかなると思います。しかし、例えば日本人の海外産の食に対する拒否反応がなくなると3日でつぶれます。日本で過去20年間になくなった産業がたくさんあります。カルビーがこれから海外に出ていこうと思ったら現地で戦わなければいけません。戦うためには一人ひとりが強くならないとだめです。例えば新聞でも、明日から全部英語表記に変えたら日本の新聞社はなくなります。


朝日新聞社・渡辺雅隆社長

渡辺  日本の新聞社は日本語という障壁にずっと守られてきました。外にも出て行けないけれど、中にも入って来られない、という中で生きています。あっという間に駆逐されますね。


松本  しかしそういうことがどういうスピードで起きるかは見当がつきません。もう新聞じゃない、活字じゃない、と変わっていったらその中でどう戦っていくかです。結局は一人ひとりが強くならないと絶対にだめです。会社はそういうことに勝てるような環境をつくってあげないといけません。私の仕事はそれだけです。環境をつくることと制度を変えること。


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数値化した約束を上司と決めて評価

渡辺  どのように成果に対する評価をしているのでしょうか。


松本  「Commitment & Accountability(約束と結果責任)」です。ビジネスの世界は約束から始まります。上司と徹底的に議論をして約束を決め、それを果たすことを契約し、その結果に責任を持ちます。これはひとつの文化です。


渡辺  松本さんがカルビーに来られた時にはその文化はないですよね。前からの評価制度があるわけですから、上司と部下がそのことに対してお互いに理解し合っていないと成り立ちませんよね。


松本  最初からうまくはいきません。だんだん上手になればいいのです。私企業ですからもうけることが一番大切です。


渡辺  事業部門で利益や売り上げが見えやすい人と、管理部門で見えにくい人がありますよね。


松本  それを見えやすくしていくのです。最初は苦労したと思いますが、だんだん上手になっていきます。人事部門であろうが他部門であろうができるだけ契約する約束を数字にしていくことです。私自身のものも含め、役職者がどんな契約をしているかはイントラネットで社員の誰でも見られるようになっています。


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「頭」を使って「フルグラ」の売り上げを10倍に

2ショット

渡辺  「社内に眠っているものに光を当てる」ということと「新しいものをつくる」という二つのことをおっしゃっています。「眠っているもの」のひとつは「フルグラ(*1)」だと思います。スポットを当て直して売り上げを10倍にしたお話を聞かせて下さい。


松本  仕事でアメリカを行き来していた時、朝食で食べたコーンフレークはべちゃべちゃでおいしくなかったのですが、カルビーに入ってフルグラを食べたらすごくおいしかったのです。アメリカで大きな市場があって日本にないものは何かと調べたらシリアルで、最初は働く女性に目をつけました。彼女たちは朝食をとる時間がないので「時短」がキーだと思いました。それに若い女性に不足がちな「食物繊維」と「鉄分」が含まれていることをうたいました。それで売り上げ30億円の商品が300億円になりました。お金を使わずに頭を使った結果です。


渡辺  仕事の仕方や働き方も含めて新聞社はどんなふうに見えますか。


松本  紙媒体のこういうコミュニケーションはだんだん減ると思います。そうすると、私だったら最初にシェアをとります。これは単純に販売の人たちだけではできません。内容をよくしないとだめです。なにせ限られたパイを取り合うのですから、まずはシェアを上げること。二つ目は、これからだんだん右肩下がりになっていく中で新しいことは一体何だろうと考えます。やはり新しいものを求めます。ただ、それが単純に今のSNSのようなネットだけなのかというと、なんとなく違うような気がしています。もう一つは、アクイジション(買収)でしょうね。自分たちが持っていなくて外の人たちが持っているものは買うしかないと思います。おそらくその三つの組み合わせで会社を右肩上がりに成長させることができるのではないかと思います。


渡辺  今日はありがとうございました。勉強になりました。刺激的で面白かったです。


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プロフィール 松本晃(まつもと・あきら)氏

松本晃氏 松本晃氏 プロフィール
 まつもと・あきら
1947年、京都市生まれ。
京都大学大学院卒業後、伊藤忠商事に入社。同社の子会社であるセンチュリーメディカル(医療機器輸入販売)に取締役営業本部長として出向したのち、93年にジョンソン・エンド・ジョンソンメディカル(現:ジョンソン・エンド・ジョンソン)に入社。日本法人の代表取締役社長、最高顧問をへて2009年にカルビーの代表取締役会長兼CEOに就任。ダイバーシティーの推進を重点課題に掲げて取り組む。



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カルビー 

1949年、創業者の松尾孝氏が広島県で「原爆で荒廃した広島の人々に豊かな栄養源を提供したい」と「松尾糧食工業(株)」を創業。1955年に「カルビー製菓(株)」へと社名を変更。「カルビー」はカルシウムの「カル」とビタミンB1の「ビー」を組み合わせた造語。「カルシウムはミネラルの中で代表的な栄養素、ビタミンB1はビタミンB群の中で中心的な栄養素」であることから「みなさまの健康に役立つ商品づくり」を目指して名づけられた。


1973年に本社を東京に移転し社名を「カルビー(株)」へ再変更。「かっぱえびせん」「ポテトチップス」「じゃがりこ」などのスナック菓子や「フルグラ」といったシリアル食品を製造、販売する。販売網はアジアや欧米にも及ぶ。


2005年、3代続いた創業家以外からの社長が初めて就任。じゃがいもをはじめとする野菜などの自然の恵みを生かした商品づくりを掲げ、コーポレートメッセージは「掘りだそう、自然の力。」。従業員数は3728人(2016年3月31日現在)。 【→ カルビー 会社情報はこちら】


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注釈

フルグラ  (※1)フルグラ
 オーツ麦、ライ麦、玄米などの穀類にシロップを混ぜてオーブンで焼き、砕いたものに、イチゴ、リンゴ、レーズンなどのドライフルーツを加えて食べやすくしたもの。1991年に「フルーツグラノーラ」として販売開始。親しみやすく、覚えてもらいやすいように2010年に「フルグラ」に改称。それまで横ばいだった売り上げは伸び続け、2010年の約31億円から16年には約300億円となった。


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(企画構成・霜田 紗苗、撮影・林 正樹、ウェブデザイン・田渕 裕美)